第15話 じゃあくなきぼう


 あー、もう、火傷なんて何年ぶりだよ。

 あの阿呆のせいで、久しぶりに怪我したわ。

 この玉のような肌が赤くなっちゃったじゃないか。いったいどう責任取ってくれるんだ?

 うん百年も傷すら負わなかった宝石だよ?

 そんな貴重なものを傷付けるなんて、万死に値するとは思わない?

 ボコボコにさせてくれるなら、許してやらんでもない。

 まあ、そんなことさせてくれないだろうけど。



「あ」



 力尽きたように、結界が壊れる。

 限界ギリギリだったっていうのは、嘘じゃあなかったみたいだ。

 あー、青い空が美しい。

 閉塞感があって嫌だったんだよねえ。閉じ込められるのは、昔から嫌いだ。

 ボクっていう存在のスケールが、あの程度の空間で収まる訳ないっていう感じ。伊達に何百年も根無し草してないからね、しょうがないね。

 

 あ、フラフラフラフラ定職に付かないろくでなしみたいに見てほしくはないよ?

 決まった場所に留まるより、どこかへフラリと訪れた方が色々見れて面白いだろう?

 寿命が長くなると、のんびりなんて飽きるほどしちゃうし。なんとなく、いろんな場所に行く方が好きになるのさ。だから、別にそういう方面でろくでなしじゃない。

 決まった職に就いてないし、家庭を持つ訳でもないし、連絡なしで世界中行ったり来たりするけど、別にろくでなしじゃあない。

 ないったらない。



「はあ……」

 


 怠かったよ。

 クソデカ溜息出るわ。


 いやー、それにしても疲れたね!

 あれだけの大物に出くわしたのは、百年単位で無い事だよ。

 久しぶりに『星霊』なんて相手にした。

 アイツ等、地味に頑丈だし、すぐに自己修復するし、面倒くさいんだよね。しかも、防御する気にならないと、普通にボクにダメージを与えてくる。

 大抵の攻撃は攻撃とすら思えないけど、アイツ等は、まあ別。

 普通に強いからね、普通に。

 ボクが一方的にボコってたけど、アレ、普通に誰も勝てないからね?

 アレ一体だけでも、余裕で地図を新しく書き直さなきゃいけないレベルだ。

 一方的だったけど、アレでも疲れてたんだ。

 主に精神的に。


 別に彼らの名誉とかどうでもいいけど、一応補足はしておこう。

 勝てる奴は、ほんの一部の超越者だけ。

 ボクと教主を筆頭に、使徒たち、あとは毎度ボクらの邪魔をしようとする『敵』くらいか。

 人は『星霊』に構造からして劣っているのに、稀にそういうイレギュラーが生まれるのが面白いよね。人は心の在り方次第で、強くも弱くもなる。

 イメージが大事なんだよね、イメージが。

 勝負事とかもそうだけど、特に顕著なのが魔法だよね。

 魔法は魔力と表現が大事って言ったよね?

 前者はともかく、後者なんてモロだよ。表現っていうのは、『こうしたい』という願いが根本にあるものだ。祈祷や呪術なんかを想像したら、分かりやすいかも。


 だから、強い奴は得てしてアクが強い。

 魔物や『星霊』とかが使う魔法と、人間が使う魔法の違いはそこだ。

 彼らは自我が薄い。『星霊』はそういう生物だし、魔物は自我を自覚する知性がある個体が少ない。アレは技術じゃなくて、そもそも備わった能力だ。

 で、人間はその逆。強い自我によって紡がれてきた技術。

 そんなもんを使いこなせる人間は、それだけ人間としての面が濃いってこと。


 つまり、強い人間ほど面倒くさい。

 アイツ等みたいにね。

 


『お疲れのようですね、第一使徒殿』



 あー、そうだね、疲れたよ。

 久しぶりに『戦闘』をしたんだ。

 お前らは味方だし、他の『敵』はお前らが邪魔するから戦えないし。

 ていうか、ウザっ!

 いちいち思念飛ばしてくんなよ!

 言っとくけど、分かってるんだからな!



「お前も、近くに居るのに姿を見せようとしない臆病さは相変わらずだな」


『…………』



 分かってたよ、最初から。

 人の話なんぞ全く聞いてなかったからアレだけど、これがかつてない最重要プロジェクトなのは、教主の様子から明らかだったし。

 全幅の信頼を置いてるボクに任せるとは言ったけども、流石にボク一人に任せるほど楽観的じゃない。

 一人くらいは使徒を置いてると思っていた。

 それが分かってるなら、探るのは簡単。ここから北西に四十キロってところか。

 


「安全な位置から見てるつもりか? 偶には、腰を据えて話をしてみないか?」


『…………貴女のそういう傲慢極まりない、無神経で無遠慮な所、小生は嫌いです』



 そう言うと、影が突然現れる。

 遠くにあった気配が、瞬間移動した。

 素晴らしい技術だ。発動から術後まで、滑らかな魔法行使だった。


 現れたのは、胡散臭いアルカイックスマイルを貼り付けた、神官服の男。

 見知った顔である。

 事あるごとにボクを陥れようとする陰険野郎だ。

 


「よお、エセ神父」


「エセとは失礼ですね。小生はれっきとした神父。神父を騙ったことなどありません」



 よく言うよな。

 神に感謝し、祈りを捧げ、清貧に生きるのが神の下僕なんじゃねぇの?

 こんな悪の組織に所属してる神父が何をほざくか。

 普通にまだ神父名乗れることに驚きだわ。



「今日は饒舌なのですね。いつもはだんまりを決め込んで、教主殿の背中に隠れるだけなのに」


「あー、そうだな。今日は舌がよく回る。やっぱり、機嫌が良いからなあ」



 うん、本当にそうなんだよ。

 怠い時は喋りたくないし、こうして気分が良いときは喋りたい。

 普段は遠ざけたい相手でも、気紛れに話してみたくもなる。

 表情は変わってないけど、鬱陶しそうにしてる雰囲気が何となく分かる。

 いつもは、他の連中にボクがこういう空気醸し出してるしなあ。

 


「機嫌が良い? 貴女が?」


「うん。とても良い。四百年以上かけて見えてこなかった目的の達成が、ようやく見えてさ」



 そう言うと、意外そうな顔をしてきた。

 とても失敬だ。

 ボクが何の目的もなく何百年も生きるほど、暇な人間だと思ってるらしい。

 まあ、自分でもそうしそうだけどさ。

 


「てっきり、悲観主義で空想の中でしか生きられない暇人かと思いまして」


「実際に口に出すなよ。……まあ、自分でも分かってるんだ。この世界が空想だったなら、楽に生きられる。自分の人生から逃げたくて、そうしてきた」



 自分で言ってビックリした。

 ボクはこんな事を思ってたのか。


 まあ、確かにそうだね。

 長過ぎる人生、輝かしきあの頃、遠き理想。

 色々と求めるものが多くて、失望はそれ以上に多くて、苦しんできた。

 これだけの事で、こんなにも色付くものなのか。

 無味無臭な日々に対して、ボクは理由を付けたかったのだろう。こんな事になっているのは、何かしらの凄まじい意思が働いてるに違いないって。

 だって、そうじゃないと、あれだけ良かった『過去』を色褪せて感じるなんて、心苦しかったから。



「でも、今は違う。数百年ぶりに、高鳴りを感じる……」


「……厄介ですね、貴女は」



 心底嫌そうな声を漏らした。

 そんな顔しないでもええやん。


 あ、そうだ。

 


「で、彼ってなに?」


「はあ……貴女も、察しているのでは?」


「察してても、他人から言葉で聞きたい。今、興奮してるんだから」



 そう、興奮してるんだ。

 だから、普段はしないような事をしたい。

 無駄なことをしてみたい。

 改めて確認する事によって、喜ばしい事実が実際に今起きているのだと、再確認したい。

 

 コイツも、きっと自分の口で説明したいんだろう。

 だって、自分の成功は自慢したいものだし。

 顔では『仕方ねぇなあ』ってポーズしてるけど、やっぱりボクと一緒だ。

 何となく、嬉しそうに見える。



「……このプロジェクトは、百年前から始まりました。ええ、貴女が教団を救った、あの忌まわしい『光の夜』の事件の日からです」


「…………」


「貴女と第二使徒殿を除く、我ら下位の使徒三人は焦りました。あの事件も、事の発端は我らです。功を焦った我らは、あの日の事でさらに焦った」



 ああ、あったねそんな話。

 やらかしにやらかした、あの大事件。

 あの時は大変だったよなあ。

 世界からの『天罰』のせいで、コイツら三人は死にかけてるし。ボクらの邪魔をする『敵』が出てくるし。『星霊』はウジャウジャ湧いて出るし。

 ボクと教主の二人で全部蹴散らしたのは、良い思い出だ。

 あんなに大暴れしたのは百年ぶりだったから、大はしゃぎした覚えがある。

 

 ていうか、



「使徒に序列はないぞ。一とか二っていうのは、使徒になった順番だ」


「そう思っているのは教主様と貴女だけです。数字の若さは、強さと教団への貢献度をそのまま示している」



 んなこと、はあるけども。

 でも、それで差別したことはないぞ。

 何の不都合が生まれた事もないはずだ。

 あったとするなら、それに対して劣等感でも抱いてたか。

 コイツら、事あるごとにボクのこと目の敵にしてたし、まあそれだろうなあ。

 


「小生たちは、焦った。教主様に見捨てられる日も遠くないと。だから、初めて真の意味で協力したのです。己の秘匿する深奥すら教え合い、実験しました」


「…………」



 昔は、使徒同士は仲良く無かったしなあ。

 希薄で無味無臭な関係が、スパイスマシマシ激辛ヒーハーになったのは、馬鹿ヤンキーが入ってからだ。

 事あるごとに突っかかってきた頃が懐かしい。

 カタコトお化けが入ってきた時も揉めたし、コイツが入ってきた時も揉めた。

 使徒として、利益がそれだけ割かれるとでも思ったのだろうか?



「我らのプロジェクト名は、流石ご存知でしょう? まさか、忘れるなんてことは……」


「忘れてねぇよ。『聖なる王君の再臨』『永劫無間の超越』『黄金郷への回帰』だろ」


「そう、正解です。ちなみに、我ら使徒の中で研究をせず、プロジェクトを持たないのは貴女だけですよ、第一使徒殿?」



 うるせー! 分かってるよ、ボケナス。

 研究はなんか肌に合わなかったんだ!

 ていうか、ボクなんて必要ないだろ。

 アプローチは四つもあるんだ。わざわざ足す必要がないっていうか、そのために四人も使徒を足したっていうか。

 

 

「……小生たちは、協力しました。全てのプロジェクトを統合したような、そんなものを夢見ました。百年前から始まったプロジェクトですが、実を結んだのは十五年前」


「…………」


「長い研鑽と、失敗。様々な犠牲。多くの奇跡。その結果、成ったのです。コレは、小生達の最高傑作。理から外れた存在。


 神です」



 ………………

 …………

 ……


 

「ひひ……ええと、間違いの可能性は? なんか取り違いがあって、お前らが勘違いしてるだけとか……?」


「コレの中に『神気』があるのは確実。貴女も、ギリギリになってようやく気付いたでしょう?」



 ひひひ、ひひひ……



「成功例っていう、証拠は……?」


「星の化身とも言える貴女が、彼が実際に『神気』を使うまで気付けなかった。これが、何よりの証拠なのではないでしょうか?」



 ひひひ、ひひひひ、ひひひひひひ……!

 


「ひゅへへへへへへ……ふゅへへへへへへ……ふへへへへへへ……!」


「気持ちは分かりますよ。小生たちも、同じように高く笑いましたから」



 こりゃあ、三日は感情を抑えられる気がしない。

 あの時、教主から釘を刺されてて助かった。

 こんな不審な様子を、他の誰かに見られる訳にはいかなかったしなあ。

 お預けされた甲斐はある。


 それにしても、ようやく、五つの壁の一つを、超えたのか?

 どうやって? 何をして?

 ああ、駄目だ、駄目だ。

 興奮を抑えきれない。

 また、この世界の事を信じられなくなってくる。

 本当に、コレは現実なんだろうか? だって、こんなこと、都合が良すぎるじゃないか。

 ボクに世界を空想だなんて思わせるなよ。

 

 嗚呼、駄目だ、本当に駄目だ。


 いや、いや、確認すべきことがある。

 世界中のどこであれ、星の『裁き』があったのなら分かる。

 これは、モロに星が対応する案件だ。

 バレないようにするなんて、不可能だろう。

 

 なんて興奮と困惑が、顔に出てたか?

 すぐに察している風が腹立つけど、まあいいや。

 大いに頷きながら、エセ神父は言う。

 


「ええ、分かりますとも。どうやって星に気付かれずに、神を創り出したか? それは、簡単。コレは、まだ成りかけなのですから」


「具体的には……?」


「局所的な時空の狭間を創造し、そこに『神気』を眠らせました。そして、その時空の狭間は、コレに根付いている。素体であるコレは、『神気』に対して、強い親和性を見せたモノです」



 言うは易しだね。

 時空の狭間を一人の人間に結び付ける?

 暴れる『神気』をそこに眠らせる?

 そして、十五年健やかに生かす?

 正直、ちょっと信じられない。

 どれも、壁を乗り越える事よりは難易度は低い。でも、目眩がするような難行だ。

 無理の度合いが違うだけで、無理は無理。

 でも、今こうして現実に起こっている。

 これを奇跡と言わずして、何というのか?



「嗚呼、ボクの役割がようやく理解できた」



 この子は、種だ。

 土から栄養を吸い、与えられた水を飲み干し、そして芽をつける種。

 本来、芽吹いた瞬間に摘まれてしまうのが普通。でも、その芽は摘まれないほどに強い。その力で難敵を跳ね除け、蹂躙し、栄養を啜り尽くし、そして華を咲かせる。

 この星の全てを手中に収める、唯一にして至高の華。


 その華こそ、ボクたちの目的。

 コレを求めて、ボクたちは何百年も旅をしてきたんだ。



「お察しの通りです。貴女は、コレを追い詰め、そして守って欲しい。そうすることで、彼は生きるため、己の中に眠る力を使うでしょう」


「…………」


「芽吹くまで。コレがその力を使いこなせるようになるまで、貴女はコレのために戦う。貴女は彼という種を芽吹かせるための、土であり、水だ。こんな重要な役目、貴女にしか任せられない」



 まったく、嘘が上手だなあ。

 いや、嘘っていうか、詐術か。

 言ってることは本当のことだけど、全部は話してない感じが良いね。

 


「隠さなくて良いさ。この種は、君が説明するよりずっと大食らいなんだろう?」


「……と、おっしゃいますと?」


「土と水だけじゃなく、肥料も要る。特に、芽吹いて、華を咲かせるタイミングなんか」



 押し黙る。

 言葉を探しているようだ。珍しい。

 こういう時、すっと言い訳やら嘘が出せる人なのにね。

 まあ、ちゃんと分かってるボクが相手じゃ仕方がないか。

 


「ボクの役目は分かってるって言ったぞ?」


「…………」


「彼が『神気』を使いこなせるようになった時、彼を本物の『神』に押し上げるために、ボクの心臓を喰わせようっていうんだろ?」



 どのプロジェクトにも共通する話だけど、達成のためには途方もないエネルギーが必要になる。

 世界の壁っていうのは、それだけ分厚くて、高いものなんだ。

 海原のように大量すぎるエネルギーっていうのは、超えるために最低限無くちゃいけない要素。だから、大量のエネルギーをほいと渡せるボクは、教団に居なくちゃいけない存在だ。


 今回も、その例に漏れないって話さ。

 近しいとはいえ神ではないものを、本物の神に押し上げる。

 そのために必要なエネルギーは、人間が出せる量じゃあまったく足りないのは明らか。

 でも、ボクなら出せる。

 無限に近い、凄まじいエネルギーを。


 この世界の生物は、皆、体内に魔力を貯蔵出来る。

 でも、体内に蓄えた魔力、つまりエネルギーっていうのも、全体に万遍なくって訳じゃない。

 そういう風に操作してるならともかく、自然と集まる所に集まるんだ。

 この場合、心臓。

 血液というエネルギーを全身に運び出す装置。つまり、生物のエネルギー配給を司る意味を持つ器官。

 そういう意味の重なりか、偶々そうなったかは知らんけど、心臓は最も濃く、多くエネルギーを蓄えられる。

 過剰に言い切ってしまうのならば、エネルギーの源だ。厳密には違うんだけど、心臓によって魔力は増え、巡るんだから、大まかには間違ってないっしょ。


 で、偶然偶々、ボクはこの世界で最も多くのエネルギーを有する生命体だ。

 その心臓、それはもう素晴らしい肥料になる。

 まあ、それだけ大量のエネルギーを蓄えた心臓がいきなりなくなった時、ボク自身にどんな影響があるかは知らんが。

 多分、ていうか十中八九死ぬな。



「おいおい、エセ神父よ」


「だから、エセではないと……」


「お前、ボクのことを舐め過ぎだぞ?」



 とても心外だ。

 ボクがその程度の事で怖気づくとでも思ったのだろうか?

 


「アイツの理想のために、殉じるのなんて当たり前だ。覚悟はもう、四百年前から出来てる」


「……貴女、やはり嫌いです」



 あら、残念。

 どうやら、嫌われてしまったらしい。



「ずっと貴女が目障りでしたよ。大した目的も、努力も、思想も無いのに、常に小生たちの上に立つ。何も考えていない根無し草のくせに、小生たちより能力がある……」


「あははー、確かになあ」


「ですが、貴女の力には憧れていた。焦がれていた。人の身でそれまでの高みに至った貴女は、希少だ。目的の末に貴女の死が確定している、この事実、小生はとても、とても、惜しいと思いました」



 ………………


 真正面から、良く認めたな。

 目障りだと思うのは変わらないだろうに。

 なんとなく、淀みのない目をしてる気がする。



「やり遂げましょう。世界に歯向かう咎人として、何を犠牲にしてでも、壁を乗り越えるのです」


「……分かってるさ」


「貴女の覚悟は、もう分かりました。いつも足並みを揃えない自己中心的な性格は、もう怒ってません。二百年ほどの付き合いでしたが、初めて、貴女をほんの少し理解できた」


 

 そりゃあ、良かったね。

 知らないものを知るのは面白いらしい。

 こんな意味の分からん生き物を理解できたんだから、達成感やら楽しさもひとしおか。

 でも、確かに、会ってから初めて、このエセ神父とこんなに気楽に話せたのかもしれない。

 案外楽しかったのは、確かだ。

 コイツも、そんな気持ちなのかね?



「次に会う時は、我々が世界に勝利した時です」


「……ボクより先に死ぬなよ?」



 釘を差しておく。

 流石に、そうなったら笑えんし。



「ええ、もちろん。貴女も、ゆめゆめ、コレの扱いを間違えないように」

 

「ああ」



 それだけ言って、エセ神父は消えた。

 残ったのは、ボクと、寝ているクロノくんに貴族くんの三人。

 痕跡はどこにも残ってないな。

 じゃあ、ボクも隠れるとしようか。



 少し離れた場所から、彼らを見る。

 耳を澄ませば、遠くから焦った声色の教師たちが駆け寄る音がした。

 今回の件、多分バレてはいないだろう。

 細心の注意は払ったつもりだ。


 それにしても、彼も本当に不幸だよ。

 ボクみたいな悪い大人に目を付けられたのが、運の尽きだね。

 でも、それは運命って事で諦めておくれ。


 さて、次はどうやって、彼を追い詰めようか?

 コレは、悪の組織に狙われた、ヒーローのお話。

 でも、普通の物語とは訳が違う。

 何故なら、砂利を食うのはヒーローの方で、最後に笑うのはボクらだから。


 悪の組織が進む、悪の道。

 コレは、その物語の第一歩。

 ただ、それだけの物語なのだ。



 

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