第4話 新生活って得てしてマイナスな気分だわ
入学ってシーズン、ボクは憂鬱だった思い出しかないんよねえ。
だって、入学ってことは、春休みが終わったってことじゃん?
春休みって、受験とか就職とか勉強とな将来とか、そういう煩わしいものに引っ張られない唯一の休みだと思ってるからさ。
その小休止期間が完全に終わって、新しい闇に突入しなきゃならん。
控えめに言って最低じゃね?
マジでブルー。真っ青になってくる。
社会に出るのが嫌なんて、社会不適合者か?
まあ、社会に仇為し続けてるんだから、本当に社会不適合者なんだけども。
学校、普通に受かっちゃったよ。
当然といえば当然だよね。
ぶつくさ文句は言ったけど、流石に放り出すわけにはいかんし。
比較的、優秀と思われるような評価を得た。
まさか学年三位になるとは思わんだけど。
というわけで、ボクは期待の新入生になった。
当たり前だけど、女子制服だった。
普通にボクスカート苦手なんだけど。なんか、女子女子してて嫌だわ。
一応、男としての記憶と認識はあるんだぞ。
ま、風化しまくってて、穴だらけだけども。
クラスは一番上の特進クラス。
これから魔法使いの卵として多くを学び、いずれは大魔法使いとして活躍していくことを望まれる。
まあ、そんなことはせんけども。
ボクはボクの目的があって、ここに入学してきたわけでね。
他はマジでどうでもいい。
グダグダしながら、三年過ごさせていただきましょうか。
「諸君。よくぞ、我らがクライン魔法学園を選び、私達に選ばれてくれた」
昔から思ってるんだけど、なんで校長先生の話って得てして長いんだろうね。
そうしなくちゃダメって決まってんのかな?
まあ、この先生が長くなるかどうかはまだ分からんのだけども。
ていうか、他の生徒たちは凄いなあ。
目ぇシャキッとしてて、なんか皆真剣になって聞いてるし。
そんなやる気出ないわ。
真面目すぎて、凄いなあって思う。
……考えなさ過ぎて、馬鹿みたいな感想を抱いてしまった。
「諸君らが悩み、迷い、そして、魔法使いとして大成する。それこそ、この学園の存在意義。ここに、怠惰な無能は一人も居ない。だから、諸君らを正しく導く義務のある我らに、諸君らの人生の一部を預けてほしい」
それにしても、あの校長そこそこ強いな。
若いとか、新入生とか、そういう偏見抜きにして、ボクの基準でそこそこ強い。
世界有数の実力者でしょ、アレは。
第一線退いて、今は教育者ってやつかな?
半分引退してるんなら、もったいない。まだまだやれるだろうにさ。
「我らは、諸君らの味方だ。この環境は、決して諸君らに優しくはないが、敵ではない。そのことを覚えておくこと。以上」
戦場からの叩き上げか?
なら、なんとなく分かるな。
校長なのに、話短かったし。
「次に、新入生代表」
校長の次に登壇したのは、クロノくんだった。
筆記は知らんけど、流石に実技であんだけ暴れりゃそうなるわな。
あー、ていうか皆すごい目で見てる。
新入生がほとんどが貴族なのに、挨拶してる彼が平民って知れ渡ってるからか?
なんで知れ渡ってるかって言われたら、特にクロノくんをすんごい視線で見つめる彼の仕業か。
「何故、あんな平民が……? あの立場は俺のモノ、俺の俺の俺の俺の俺のモノなのに……!」
爪噛むなよ、悪い癖だぞ。
嫉妬に狂う男は醜いねえ。
多分、話しかけても反応無さそう。
こんな正気失うことある? 不覚にもちょっと笑いそうになるわ。
……今小突いたらどうなるかな?
さ、流石に止めとこう。
洒落にならないことになりそうだし。
「まずは、感謝を。ここまで俺を育ててくれた師、こんな俺を首席に選んでくださった先生方、これから互いに切磋琢磨するだろう皆にも」
「ここが、一区切りだ。俺たちという人が、人生の中で辿り着いたゴールの一つだ」
「だが、終わりじゃあない。ここで終わりじゃあないんだ」
「より高みを目指すため、俺たちはここに来た。精進を忘れるな。次のゴールはある。その次も、その次も、死ぬまで新しいゴールはある。忘れるなよ」
「休んでる暇はないぞ。精進を忘れるな。一生、忘れるな」
はい、パチパチパチパチ。
いい話だったんじゃないかな、知らんけど。
イイコイイコしてやろうか?
してどうにかなるわけじゃないけども。
はい、入学式のイベントは終わり!
次行ってみよう、次!
※※※※※※※※
「この教室のメンツが、この特進クラスの仲間だ。仲良くしろよな」
教室に集められたのは、教壇に立つ教室を除いて、計六人の男女。
貴族くんとクロノくんは知ってるとして、ボクを除いて三人初顔合わせが居る。
一人はチャラ男系イケメン、名前は知らん。
一人は気弱な幸薄げ美少女、名前は知らん。
一人はツンケンスタイル美少女、名前は知らん。
ていうか、これから自己紹介タイムだし。
名前知らんで括るのも変な話か?
いや、それを言うとそもそも、ボクは貴族くんの名前を覚えていないの巻。
「うひゃー! ここはカワイイ子が多くて良いねぇ!」
口火を切ったのはチャラ男だ。
見た目通り、軽薄そうな口調である。
パツキンで頭がギラギラしてて眩しいわ。顔面偏差値が高いことを自覚してる系だな、コレは。
なんか、ボクとは反りが合わなそう。
もうコイツのことが嫌いだ。
「俺はラッシュ・リーブルム! これから仲良くしようぜ! 特に女性陣はね!」
あ、ツンケン娘が舌打ちした。
君もこういうの嫌いか。ボクもだよ。
幸薄ちゃんだけは、困った笑顔で流してる。
優しそうだね。なんていうか、人柄の良さが滲み出てて泣けてくる。
恭しくお辞儀してるのが、なんか慣れてるな。
これはちゃんと仕込まれてる人間だ。
「リーブルム侯爵家の次男、ラッシュ様ですね? お噂はかねがね聞いております」
「いやあ、噂って言っても悪い方だろ? 僕、こんな性格だしさあ」
「いえ。文武両道、リーブルム家の子息として相応しい才覚をお持ちだと」
「僕はこのクラスじゃあ入試試験の成績最下位なんだけど? もしかして、皮肉だったりする? アリシアさん?」
なんか、貴族っぽいなこのやり取り。
事前に把握してるもんなのか、相手のこと。
大方、子爵とか男爵とか、そういう力のない貴族の子女かね?
あ、そういえば、この子、貴族くんに言い寄られてた子じゃないか?
実家に力がないから、強い実家を持つ貴族くんに逆らえなかった、みたいな?
世に蔓延る、あるあるな話だねえ。
「いえいえ、まさか。あ、私、アリシア・コーリネスです。よろしくお願いしますね、皆さん」
まあ、宜しくはしないけども。
出来れば、ボクに触れないでもらえると助かる。
そのフワフワな栗色の髪の毛、引っこ抜きたくはないしね。
「出来れば、皆さんと仲良くなりたいと思っています」
「チッ……」
そういいながら幸薄ちゃんが視線を向けたのは、ツンケン娘だった。
まあ、明らかに一人だけ態度悪いしな。
馴れ合う気はありませんって口に出さずとも言ってるわ。
「リリア・リブ・ロックフォードよ。馴れ合う気はないわ」
本当に気が合うかもしれない。
ボクも馴れ合いはしたくないし。
ていうか、めっちゃテンプレだなあ。
赤髪で性格キツイ美少女とか、なんかどこにでもいるような気がしてきた。
はっきり他を拒絶出来るところと、我の強さを感じる吊り目がポイント高いな。
「ミセア帝国からの留学生ですよね? 噂になっていましたよ? 入試試験四位の天才と」
「お世辞は結構よ。それに、馴れ合う気はないと言ったでしょう? 二度言わせる気?」
ギロリと睨んだツンケン娘に、幸薄ちゃんはまた困ったような顔をしていた。
でも、ちゃんと貴族だなあ。
ここの全員に顔を売っておこうって算段が、頭の中では出来てるんだろう。
優しさより、情けより、実が必要なんだね。
そんで、次だわ。
ボクにとっては、主役登場だ。
「じゃあ、俺の番かな……?」
ふー! かっくいいー!!
その甘いマスクに酔い痴れそうだよ、色男め!
「俺はクロノ・ディザウスだ。出来れば、皆と仲良くしたいと思ってる」
ん? あれ?
今気付いたけど、各自、自己紹介する流れになってるやん。
え、ヤバいんだけど。
普通に名乗るとか嫌すぎる。
声出すのも億劫だ。馴れ合いに発展することが、とてつもなく嫌だわ。
別に、コミュ障って訳じゃないんよ?
なんていうか、無駄だからさ。無駄を省きたいっていうか、惜しいっていうかね?
「じゃあ、残りは……」
はあ……だっるぅー……
な、なんとか後回しに出来ないか……
「ボ」
「いつまで茶番を続ける気だ?」
き、貴族くん!?
君は貴族くんじゃないか!
いったいどうしたんだ、貴族くん! 何か不満でもあるのか貴族くん!?
「平民風情が、この俺を差し置いて首席だと……? この俺が、次席……? ふざけるなよ!」
あ、この流れは……!
まさか、自己紹介イベントをスキップ出来るのか?
乗っかれ乗っかれ。
ここを逃したら余計に面倒になるわ!
「どんな汚い手を使ったのか知らないが、貴様なんぞにこの俺が劣るなど有り得ん!」
「…………」
「決闘だ! 叩き潰してくれる!」
素晴らしい!
はよやれ!
そんで、自己紹介パートを流せ!
ていうか、本当に教師が何にも言わないな。
実力主義もここに極まれりか。
こういうのって、実は意外とあったりするんか?
「いや、俺は……」
「なんだ! 怖気付いたか!? やはり、入学試験でのアレは不正だったか!」
まさか、ここまでバチバチするとはな。
拗らせてるね、拗らせてるね。
そのプライドの高さ、並大抵じゃあない。
貴族って基本的に平民のこと見下してるし。この貴族くんが普通であって、他のクラスメイトたちは穏健派って感じだわ。
ツンケン娘は多分、誰に対してもあんな感じだろうし例外として。
いや、態度に表さないだけで、内情は知らんが。
「貴様を俺は認めない! 貴様も首席ならば、それ相応の力を示してみせよ!」
うん、嫌そうな顔してるね。
クロノくんからすれば、迷惑な話だ。
その他大勢も、なんか呆れた様子で見てるけど、貴族くんだけは気付いてないね。
視野狭窄にも程があるけど、まあ、構わない。
プライド高い奴は嫌いじゃないし、そういうムーブも疎ましくはない。
ていうか、このままこの後の展開を有耶無耶にしたい。
ボクとしての正解は、乗っかることか。
「そんなに嫌そうな顔してやるなよ」
やっべ、今日初めて喋った気がする。
え、なんか陰キャみたいじゃん。
ていうか、一斉にこっち見んなよ。なんかビックリしたわ。
あれ? いや、この反応、もしかして、ボクが居ることに今気付いた系?
「君からすればただの迷惑でも、彼にとっては真剣なんだ。なんせ、プライドがかかってる。これから、宜しくしたいんだろう? なら、一度くらい付き合ってあげても良いじゃないか」
自己紹介省きたい。
このままこの二人が決闘する流れになったら、今日のイベントは全部スキップ出来るはず。
「君も、男の子だろう? なら、彼の気持ち、汲んでやりなよ。彼は、どうでも良い誰かじゃなくて、クラスメイトなんだから」
説得成功みたいだ。
気の抜けた顔してたけど、なかなか良い顔するようになった。
こりゃあ、やる気だね。
対戦相手は殺る気みたいだけども。
「分かったよ。いきなりだけど、受けて立つ」
「……貴様を打ち倒し、俺を証明してやる」
このまま帰ったら、流石にバレるかな?
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