第3話 主人公っていう人種って本当に居るんだなあ


 うだうだ言っても仕方ないから、端的に言うわ。

 

 筆記試験だけど、ね?

 この世界で有数の学校で、魔法を究めんとする志高き学園で、語るまでもなく素晴らしき組織で、筆記試験をしたんだけどね?

 間違いなく、世界最難関。この世で最も難しい試験なんだけもね?


 めっっっちゃ簡単だったわ。

 いやあ、まさかこんなに自分が出来るとは。

 あんまりにも出来すぎたせいで、誰かが裏で手を回したんじゃないかと思っちゃった。

 自分の才能が怖くなってくるね。

 たったの三ヶ月で、ここまで出来るようになるとはさ。


 他の連中からは脳筋だのなんだのと言われてきたけども、これからはインテリキャラに転向するのもアリか。

 そうとなれば、まずはメガネを買わなくては。

 インテリと言えばメガネだからね。ボクの視力は多分両目ともに二十くらいだけど、伊達でもいい。

 あ、いや、やっぱり嫌だわ。

 普通にメガネって邪魔そうだからね。


 まあ、冗談抜きで考えるなら、居るよなあ。


 ボクたちの関係者は、世界中に潜んでる。

 悪の組織は、別名、秘密結社だからね。

 人員をそこかしこに潜ませるくらいの小細工は、やって当然のことだ。

 試験を解いてても思ったけど、あのバカ教主が口にしてた豆知識が多用されてた。

 流石にこれは偶然じゃあないだろうね。

 明らかに恣意的なものを感じたわ。


 あー、今年の受験生かわいそー。

 真面目に勉強してきたのに、明らかに試験範囲からはみ出たような問題に殴り殺されてるもんなー。

 まあ、運が悪かったと諦めてくれや。

 大丈夫大丈夫、浪人なんて普通のことだし、来年またチャレンジしてくれ。


 で、だよ。

 筆記が終われば、今度は実技の時間だね。

 みんなー、校庭に集合だーってさ。

 

 改めて、凄い人数だよね。

 二千人くらい居る?

 これだけ居たら、試験終わるのいつになるの?

 ワラワラ群れやがって、気色悪い。何でボクがこんなことしなくちゃいけないんだ?

 おっと、いけない。こんなこと考えてるから、余計に時間が長く感じるんだ。

 淡々と終わらせよう。何もしちゃいかないし、考えてもいけない。

 

 …………


 はよ終われはよ終われはよ終われはよ終われはよ終われはよ終われはよ終われはよ終われはよ終われはよ終われはよ終われはよ終われはよ終われ

 


「おい、女」



 あ、なんか嫌な予感し出したわ。

 ボクのカンはよく当たるんだ。

 このまま、もう植物のフリをしようかな?

 厄介事くんもきっと、ボクの見事な植物の真似っぷりに、見逃してくれるに違いない。

 そうに決まってるよね?



「おい、貴様に言っているのだ!」


「…………」



 誰かから、なんか呼ばれてるなあ。

 もしかして、知り合いにばったり会いでもしたかね?

 はしゃいじゃうのも分かるけど、流石に大声出すのはどうかと思うよ。

 うんうん、『貴様』さんは早く名乗り出ないと。

 あからさまにヤバい奴に構われるのは面倒だと分かるけど、皆のために早めにね。

 


「貴様、何度俺を愚弄すれば気が済むのだ!?」


「…………」



 肩掴まれたけど、ボクのことじゃないよな?

 ていうか、やっかみを受ける理由なんて無くない?

 んー? あ、そういえば、筆記試験の前に小突いた奴が居たなあ。

 え、でも、実技の試験って受験番号を元に並ばせてるんだよ?

 たまったま前と後ろになったの?

 受験者何人居ると思ってるんだよ!?

 呪いか何かか? いったいいつの間にかけられた?

 


「無視を、するなぁ……ぶべっ!」


「あ」



 しまったあ、またやっちまったー。

 何で手って簡単に動いちゃうんだろうね?

 ボクの意志と反しているとしか思えない。だから、ボクは悪くないんじゃないかな?

 何もかも、ボク以外の何かが悪い。

 だから、もうちょい甚振ってもいい気がせんでもない。



「き、貴様! 一度ならず二度までも……!」



 ていうか、アレだ。

 なんで、コイツの横暴を誰も止めないのか?

 教師陣くらい、たしなめてくれたりしないものか。

 何故コレを放置してるんだ?

 世界最高峰の教育機関も、権力には弱かった定期?



「俺は相手にここまで舐めた態度を取った奴は初めてだ! あの時の男といい、何故身の程をわきまえない愚か者が何匹も混じっている!?」


「…………」



 いや、見てはいるし、気付いてもいるけど、完全に放置してるな。

 どんだけ態度に問題があろうと、実力があるなら問題ない的な?

 落ちこぼれには容赦なさそう。

 


「ええい、何か言ったらどうなんだ!?」


「…………」


「貴様の口は飾りか!?」

 


 なんでわざわざ苛つく相手に関わるんだろ?

 嫌なら避ければいいのにさ。

 はっ! まさか、これが貴族として育てられた人間の社交性だとでもいうのか?

 な、なんていうコミュ力!

 嫌な相手にも果敢に挑まなければ、その気位を守ることが出来ないことでもいうのか!?

 奥が深くて、感動すら覚えるな。



「あの男といい、この俺に対して無礼な……!」


「…………」


「俺は、アグインオーク家の三男だぞ? 貴様らのような木っ端なぞ、足元にも及ばない大貴族だぞ?」



 ろくでもないな、この学校。

 いや、ろくでもないと認識するのは、全体という枠組みを捉えて教育する日本の学校を基礎にしているからなのか。

 ボクの価値観に刺さったアンカーに、引っ張られた結果だとでもいうのか?

 ほとんど風化しきって、無いに等しいものだけれど、変わらず在るものなんだなあ。

 あんまり人に会わないし、気にしたことがなかったから気付かなかった。

 あれ? やっぱり百年くらい前にも同じことを考えたかもしれん。

 


「おい、聞いているのか、貴様!?」



 ヤベ、何も聞いてなかった。

 メンゴメンゴ。

 現実逃避してたわ、すまんな。

 

  

「俺はこの学園で首席になる男だぞ? 今なら、その無礼を許してやらんでもないぞ?」



 前を見たら、まだ行列は続いてる。

 ボクの番まで、どんだけ時間がかかるか分からん。

 え、それまでずっと、こいつのこと相手にせにゃあならんのか?

 普通に嫌なんだけども。

 この精神的被害、誰が補填してくれんの?



「愚かなる貴様に、我が生家、アグインオークのことについて説明してやろう! 有り難く傾聴し、感動の涙にむせび泣き、我が足を舐めることを許してやろう!」


「…………」


「そもそも、アグインオークの祖であるリヒト・アグインオークは、このクライン王国黎明期に……」



 あ、もう駄目だコイツ。



 ※※※※※※※※



 実技は大きく二つの試験に別れるらしい。

 まず、魔力測定。

 触れた人間の魔力量を測り、数値化してくれるらしい。

 勿論、多ければ多いほど良いとされる。


 魔力


 この世界の人間には基本的に、星から吐き出されたエネルギーである『魔素』を自分のものとして変換し、貯蔵する器官がある。

 その臓器、『魔臓』の性能と、エネルギーを許容出来る肉体の容量と親和性が、一般的に魔法の才能とされている。

 才能を一部とはいえ、可視化することが出来るんだ。

 入学試験で、使わない手はないか。

 

 なんか、水晶みたいなのを使ってるけど、アレって誰が発明したんだろうね。

 四百年前は多分無かった気がするんだけども。

 まあ、試験なら受けてみようか。

 新しい文化に触れることにドキドキするわ。

 

 あの貴族様の自慢話を聞いて、一時間は経ったけども。

 やっとボクの番が近づいてきた。

 


「フハハハハ!!」



 でもまあ、先にボクに絡みまくってきた貴族様の番か。

 うわ、めっちゃこっち見てる。

 なんだ、キラキラしやがって。

 はよやれや。時間の無駄だわ。歯を見せてキラーンってすんな。

 大仰に動くな、馬鹿みたいだぞ。



「見ておけ、平民! これが俺の実力よ!」

 


 12246


 アレって高いんかな?

 知らんけど、一万は高い気がする。

 あ、いや、低いかもね? 逆張りって意味じゃないけど、ボクはあの数字が相対的に低いことに賭けるぜ!



「な、い、一万超え……!」


「まだ受験生だろう?」


「歴代最高なんじゃないか?」


「流石はアグインオーク家だ……」



 あ、一万って高いんだ。

 へー、そうなんだあ。  

 なんかムカつくな、あのドヤ顔

 

 …………


 いや、おい、貴族くん、はよどけや。

 何で自慢げな顔しながらこっち見るのさ。

 


「さあ、平民、貴様の番だぞ! この俺との差を噛み締め、絶望しろ! そして、羨望しろ! 特に羨望しろ!」


「…………」



 うっさ。

 てか、退けや。

 一応次の試験もあるんだからな。

 後つかえるから、進めアホンダラ。

 

 はー、ていうか、測定か。

 ボク、魔力量なんて気にしたことなかったなあ。

 全力で注げば、アレが見合った数字が浮かぶんか。

 今度、教主に言って用意してもらおうかなあ。

 

 ほいっと。



「あ?」



 取り敢えず、あの貴族君が合格ラインってのは分かったからなあ。

 怪しまれない水準を理解できたっていう意味では、このバカも役に立ったわ。


 水晶に数字が映る。

 10000だってさ。



「す、数値、い、一万?」


「アグインオーク家の人間の他にも、こんな逸材がいるだなんて……」



 数字が一万になるように魔力を注いだ。

 普通にやったら、あんなもんじゃ済まないし。目立つのはいいけど、怪しまれるのは本意じゃない。

 魔力の精密操作には自身がある。

 仮に映る数字が小数点があったもしても、何度でもキッカリ一万に揃えてやるよ。

 さて、これでボクはまあまあ有望な受験者ってことになったかな?



「ふ、フハハハ……。な、なかなか貴様もやるようだな……」


「…………」



 あ、貴族くんが煩くなくなった。

 ずっとこうなら良いんだけどね。

 そのまま、消えてくれるとなお良いね。

 


「俺には及ばぬが、な、なかなかやるな……。な、なんなら、俺の右腕にしてやっても良いぞ?」



 さて、次の試験か。

 事前に受けた説明いわく、魔法を使うらしい。

 攻撃から身を守ったり、身体を補助したり、破壊活動をしたり。

 好きなことをして、試験官に見せるらしい。

 ボクは破壊以外は出来ないからねー。

 破壊の魔法を見せたい時は、結界の中で、耐久性が保証された的に攻撃するんだって。

 


「み、見ておけよ愚民! これが俺の実力だ!」



 まだ張り合うか、この貴族くん。

 もういいっていうか、ダルいんたけど。



「《燃え尽きよ、栄華。消え失せよ、禍根! 善しも悪しきも灰に変え、その全てを浄化せん! 顕現せよ地獄の業火! 我、炎獄の王なりや! 我に従い、広がり、爆ぜよ!》『火炎獄界』!」



 ていうか、詠唱長いなあ。

 そこそこ魔力は集まってるけど、なんていうか均一じゃないし、乱れてる。

 量はマルだけど、コントロール性がサンカクかなあ。

 

 なんて、考えてると貴族くんの掌に炎の塊が出来上がる。

 科学的に考えれば真っ赤なのは温度が低い証拠だけど、魔法だからなあ。

 実はあれで六千度くらいはあったりする。

 ちなみに、何で自分の炎で焼けてないかっていうと、魔法はその術式の中に、その魔法を発動した魔力の、その波長と同じ生命体は影響の範囲外になるセーフティがあるから。

 自害用の魔法以外、大抵は自分で自分を傷付けないように出来てるんだよねえ。

 自分の魔法で死ぬなんて、間抜けすぎて笑えないからさ。

 

 あ、的に当たった。

 あ、的が溶けた。



「どうだぁ!?」



 いや、知らんがな。

 周りの反応は……?



「ま、的が溶けただって……!?」


「し、しかもあんな長距離を?」


「すげえ! 流石エリート!」



 あ、凄いんだ。

 威力的には下の中って感じだったけども。


 あーでも、彼ってまだ十五歳くらいか。

 年齢なんて、気にしたこと無かったし、周りも何百年も生きてる妖怪みたいな連中だから忘れてたわ。

 第七階梯魔法『火焔獄界』か。

 あの歳で使えるんなら、まあ、凄い、のか?

 もう基準がバグり過ぎてるせいで分からなくなってくるね。


 あ、ちなみに魔法は第一階梯から第十階梯までで難易度分けされてるよ。

 魔法使いとしては、第四まで使えれば一人前、だったんだっけ?

 あれ? 三だっけ? 五だっけ?

 うろ覚え過ぎて、詳しくは忘れた。

 魔法なんてほぼ使わないからなあ。

 でも、七まで使えるなら凄いんじゃない?

 


「貴様の番だ! 早くしろ!」


「…………」



 なんで張り合うんだよ。

 うるせーし、お前の指図でやるのも癪に障るわ。

 ていうか、そんな面白いもんでもねーぞ。


 はい、ということで、ボクのゼロコンマゼロ三秒クッキング。

 まずは、魔力を指に集めます。

 次に、集めた魔力を固めます。

 最後にその魔力を弾きます。

 以上終わり! 



 バンッ!



 音と共に、魔力の玉が用意されていた的を貫く。

 まあ、こんなもんか。

 見てたら、学生がコレを壊すのは難しいみたいだし。

 これで最低限、受かりはするだろうね。



「え? 何が起きたんだ?」


「気付いたら、的に穴が……」



 あ、貴族くん呆けた顔してる。

 ボクが何したのか分かんないんだなあ。

 でも、これで試験も終わりかぁ。

 マジでクソ面倒くさかったわ。さっさと帰って寝ようかな?

 貴族くんは放っといて、試験会場から背を向ける。

 この校庭、無駄に広いよな。歩いて出るのにも時間かかるとか、たりぃわ。


 でも、ボクはやることをやりきったんだ。

 本日のミッションはオールコンプリート。

 ボクを止める者は誰も居ない。

 実力をちゃんと隠した上で、しっかり合格出来ただろう。やっぱり、ボクって優秀なんだよなあ。

 きっと、組織の誰もが、ボクに羨望の眼差しを向けてくるだろうね。

 学園関係者さん、及び協力者さんボクの凄さが分かったかな?

 跪いて、足を舐めてもいいのよん?


 ……あれ?

 そうじゃん。この学園ってボクたちの関係者が潜んでるんだよね?

 あの試験問題は明らかに恣意的だったし、流石に偶然じゃあないと思いたい。

 なら、こんな面倒なことしないで、普通に裏口で良かったんでね?

 かー! あの天然野郎!?

 なんで勉強なんざさせたんだよ!? そんなことする必要無かったんじゃねぇの!?


 あー、後で文句言ってやろう。

 そうしなきゃ、気が収まら……?


 !



「な、なんだ!?」



 突然、背後から強い気配を感じた。

 凄い魔力量だ。

 貴族くんなんか、足元にも及ばないだろう。

 これだけの力を直前まで隠し切り、任意でこれだけ出力出来るのか?

 学生のレベルじゃないだろ、それは。


 いや、そもそもだ。

 そんな実力者が、何故こんなところで?

 一体何をして、そうなった?

 あ、まさか……



「クロノ・ディザウスです。よろしくお願いします」



 一瞬聞こえた、何かが割れる音。

 魔力測定の水晶が、壊れたんじゃないか?

 上限どこまで表せるかは知らんけど、貴族くんの十倍じゃあ全然利かないぞ?


 あれ? なんか、見たことある顔だな。

 貴族くんが、なんか『あの時の……』とか言ってる。

 やっぱり、受験生?

 マジで言ってるの?


 困惑してると、クロノくんとやらが手を前に突き出した。

 一秒後、嵐のような魔力が吹き荒れる。

 幾何学が宙を舞い、術式が完成されていく。

 間違えるはずもない。これは、高位の魔法。

 たっぷりと時間を掛けて創られたソレは、貴族くんが使ったものより、遥かに複雑な……



「『フレア・バースト』」



 クロノくんの魔法を見てマズイと思ったのか、教師陣が周囲を守るための結界を追加で張っていた。

 あの熱がここに届かないこと、それだけで、教師陣もハイレベルなのが分かるね。

 試験用の的? 消し炭だって残ってると思う?

 ほかの学生たちとは、まったく別次元だ。



「しまった、やりすぎたか……」



 なんか、既視感。

 入学試験で必要以上の実力を示す、天才くん。

 顔は良いし、なんか試験始まる前も女の子助けてたし、鼻につくくらい善人っぽい。

 こういうの、なんかあったなあ。

 場のレベルを軽々飛び越えて、中心っていうか、注目を掻っ攫うアレ。

 モブから『い、いったい何者なんだ、アイツは!?』ってされるであろうムーブ。


 昔、好きだった気がするんよなあ……

 なんだったかなあ……

 なんせ、もう四百年以上も前のことだし……



「き、貴様は、いったい……? へ、平民ごときが、そんな、馬鹿な……!」


「俺? 俺のことかい、貴族様?」



 あ、貴族くんがまた突っかかった。

 クロノくんも、なんかノリノリだな。


 あ



「クロノ・ディザウスだ。是非、覚えて帰ってくれよ」



 あー、思い出した。

 こういうの『テンプレ主人公ムーブ』ってやつだ。



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