13.六日目:反乱、そして友人
「あのドラゴンを追う、ってことでいいんだよな!?」
前を走るタイガが振り向くのに合わせてうなずく。
(ドラゴン、どこまで行くつもりなんだろう……。もしかして、森に向かってる?)
先ほどまで私たちがいたのは、魔王城の正反対にある北西の海岸。
ドラゴンは、すでに海岸の少し南にある魔女の森あたりまで飛んできていた。魔王城から魔女の森まで、ゆっくり運転とはいえ車で二時間はかかる。
「あの距離を、どんな速さで飛んでるんだよ……」
タイガの言うように、ドラゴンはジェット機のような速さでこちらに向かっていた。ひとつ瞬きをするだけで、ドラゴンの体はさっきよりずっと手前に大きく見える。
上空に羽ばたくドラゴンの周りで、何かが飛び回っていた。
それに追われるようにドラゴンはさらに森のほうへと進んでいく。
ドラゴンが森に差し掛かったところで、黒い巨体の周囲に黒い煙のようなエフェクトが舞った。遅れて爆発音が届く。ぐらりとよろめいたドラゴンは、またひときわ大きな声で鳴き叫んだ。
「うるさっ」
私たちは耳をふさぎながら走る。骨伝導イヤホンを通して聞こえる仮想音声は、耳を抑える仕草をすると音量を下げることができるのだ。
(あれ? 何か聞こえる……。端末からだ)
外から伝わる音が小さくなると、私の端末から何か流れていることに気が付いた。
『彼女は魔法使いだった』
私はハッと息をのむ。そして音量を調整して、端末からの音に集中した。
『その内在する魔力は、彼女や周囲の人の想像を超えるすさまじきもの。
気弱な性格の彼女は、自身の力を恐れ、仲間たちと離れて誰も傷つけないよう森の奥深くに隠れた。
だが、彼女は人恋しくなった。
魔力の強大さとは裏腹に、ひとりで暮らすには弱すぎる心を持っているからだ。
森の中でさまよう人を見つけては森の隠れ家へ招待し、そして後悔する。
その魔力は人には耐えられないのだと、いつも事を起こすまで忘れてしまうのだ。
人恋しさのあまり外から人を呼び込むのも、その人のために助けを呼ぶのも彼女だった。
――この魔女め!
哀れな迷い人を救いに来た
誰もが立ち去ったあと、彼女は荒れた家を見てシクシクと泣く……』
(これは「森の魔女」の解説文……)
私の夢で聞いたとぎれとぎれだった言葉のもとの文章だとすぐに分かった。
魔女はすべてのデータをもとに戻したと言っていたから、そのときに壊れていたデータも復元されたのだろう。私の端末の中にダウンロードされていたものも復旧し、再生されたのかもしれない。
(データが直ってからずっと流れ続けていたのかな)
耳をふさいでいた手を外すと、外の騒ぎが聞こえはじめ、説明文はかき消されていった。
そのまま頬に手を置き、そこに添えられた――けれど、触れることのできない魔女の白い手を思い出す。
「どうして私なんだろう。私じゃない人にも、彼女はきっと……声を上げていたはず」
頬から手を放し、黒いドラゴンの姿を見上げて走りながらつぶやいた。
「ず、ずいぶん余裕ね……カナ」ハァハァと息を切らしてユカは言う。
「そりゃ、お前。聞こえて答えたのがお前だったからだろ!」
タイガが振り向かずに大声を上げた。
「そ、そうよ。私たちだって、あんたからの声を聞いて、ここまで来たんだから!」
苦しそうに顔をゆがめ、汗だくになりながらもユカは懸命に走っている。
「なんで……」
「カナを、友だちを助けたいって思ったからだよ! 理由なんかあるか!」
タイガが背中を向けたまま叫んだ。
「友だち……」
私はまた涙がこぼれそうになって、下唇をグッとかんでこらえる。
「私たちと、カナは、中学からの友だちだけど、もう大親友なんだから! 絶対、ひとりにはさせないから!」
タイガとユカは幼なじみだけど、私は違う。
たった、半年。
その短い期間の中で、ユカはいつも欲しい言葉をくれた。
今だってユカは、私の中のモヤモヤとした感情をはっきりと言葉で表してくれる。
出会ってからどれだけ短い期間であっても、親友なんだって――。
私はうつむいていた顔を上げて、前を向いた。
「そっか……。魔女は、私の……私たちの友だちなんだ――」
小さくつぶやいた私の声に、前を走るタイガが気づいて振り向く。そしてニヤッと笑った。
私はそれにニヤリと口の端を上げて返すと、隣で汗だくになって走るユカの腕をつかんで肩にかつぐ。
「タイガ!」と名前を叫べば、何も聞かずに「おっけーい!」とタイガは答えた。
そして、私がしたのと同じように反対側のユカの腕をとって自分の肩にかける。
「ちょっとぉ!?」
「舌かむから黙っててね」
「んぐううう??」と叫ぶ声をこらえるユカをふたりでかつぎ上げて、ドラゴンの姿を追いかけた。
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