エピローグ……?
強い日差しに彼女は目を細める。
突風が吹いて盛大に旗を揺らして風が駆け抜けていく。
ここは城下を見下ろす王城の、その屋根の上。一番高い三角屋根のてっぺんに腰掛け、彼女は人々の暮らす世界を眺める。
ひとしきり過ごして満足すると立ち上がり、気楽な様子でぴょんと屋根の外へジャンプする。
加速しながら落ちていく先は広いバルコニーだ。
とん、と軽い音を立てて着地すると部屋から慌てたようにキラキラした美貌の青年が飛び出てくる。
「学、お前また上にいたのか」
この王国の王太子は血相を変えて学の無事を確認に来る。
「メレス、私が落っこちるとでも本気で思ってんの?」
苦笑しながら学が言うと、彼は盛大にため息をつく。
「俺はお前を心配することをやめないからな」
「殿下、遊んでないで仕事をなさって下さい」
メレスの後ろから凍れる美貌の主、リーインが顔を出す。
「リーインさん、この人、何かと言い訳つけては構ってきはるんですけど、どうにかしてくれませんか」
「それは迷惑だっただろう。私が責任をもってやめさせよう」
「ちょっ、リーインお前、何を言って……」
魔法で移動させられていったメレスの姿がかき消える。リーインは優しく学の頭を撫でて室内へ戻っていく。それを見送って、学は思い切り手を空に伸ばす。
世界は光に満ちている。
「学」
愛しい人の声がして、学は振り返る。手を差し出して騎士服姿のフェンが微笑んでいる。とてもじゃないが麗しすぎて目に異常をきたしそうだ。
「フェン、仕事はもうええの?」
「ああ。君がいれば世界は平和だ」
あながち間違いではないことを言って、フェンは学の手を取ると恭しく口付ける。
「迎えに来た。今日は出かける約束だろう?」
「うん」
嬉しそうに答える学に愛情溢れる夜空の瞳が降り注ぐ。
見つめあって自然に抱き合う。
学の艶やかな長い黒髪をまとめているリボンを抜き取って、フェンが彼女の舞う髪を見ている。
「もう、せっかく可愛く結ってもらったのに。私、自分じゃくくれへんねんから」
困ったように眉尻を下げた学の額にフェンがキスを落として手際よく彼女の長い髪を元の形に結っていく。
「美しく整えられているのもいいけど、下ろしているのも好きなんだ」
学も彼に髪を触られるのが実は大好きである。
頬を染めてされるがままの彼女にフェンがこれ以上にない優しい表情を浮かべる。
その時。
空に光が集まっていく。
「魔力?」
フェンが強烈な魔力の渦に眉を寄せて学をしっかり腕に抱く。
明るかった空が暗闇に呑まれ、光の渦が集結していく様は何かの前触れのようで恐ろしい光景だ。
「私、何もしてへんけど。でも知ってる気配がする」
学は空を見上げて一歩踏み出す。
空が亀裂を生み出す。
その瞬間。
「マジかよ、これ」
空から降ってきた男が必死の形相で大地を睨み、衝突を覚悟して悲壮な覚悟を決めようとしているのを見て、学は呆然とする。
「ヤス兄?」
学は自分の僕を使って落ちてくる男を受け止める。
まさか、と思う。
それは血を分けた兄の一人。
闇の精霊に抱えられて降りてくる男は見間違えることなく高坂夜須波だ。
こんな世界に呼ばれるはずのない男が目の前にいる事実に学もフェンも、気を失った彼をただ見つめて。異常事態なのか、それとも仕組まれた事態なのか。
兎にも角にも、学がすべきことはただ一つ。
世界の力の均衡を保こと。
それが愛しいフェンと大事なこの世界の家族を守ることになる。
世界に綻びがないかその場で探知し、異常がないことを確認する。夜須波が現れたことは自然現象か、神の理か。
ランティスの腕に抱かれた懐かしい兄の姿を認め、目を細める。それから学を守るように背後に立つフェンの胸に飛び込んでから目を閉じる。
難しいことは今は考えない。
なぜなら異世界からの道筋は通行止めになっているのだから。
只今、異世界へは通行止めです @nanami-tico
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