私も好き

「私とお姉ちゃんが月島君を助けた?」

瑠偉の告白に驚きを隠せない奈歩

「そう、俺は月島の家に小2の時に養子に入った。その前は別の家にいたんだ。それが酷い親でね。俺と1つ下の弟に日々、虐待を繰り返していた。」

切なげに微笑む月島君に、私は胸の奥がキュンと頷いた。


「このままだと殺されると思って、9年前の母の日に家を抜け出した。弟を置き去りにして」


「9年前、母の日」

まさかー...

私はある出来事を思い出していた。

お姉ちゃんと母の日のカーネーションを買いに出掛けた日、この公園で倒れた男の子を発見したことがある。

お姉ちゃんが警察を呼びに行ってる間、このベンチで会話したことがある。


その男の子は身体中、痣があって前髪も長く目が隠れていた。

「あの時の男の子が月島君....?」


私の言葉にコクリと頷く

「そうだよ。あの時、倒れてた俺に君がいたいの飛んでけと言ってくれたこと。俺は自分が生きていていいんだと思えたんだ。」



『おねえちゃんはね。私のじまんなんだ。さっきのいたいの飛んでけもね。教えてもらったの』

ニコっと笑顔だ。

姉のことを信頼してるのが伝わる。


しばらくして警察が来て、俺の自宅へと家宅捜索に入った。その時、俺の両親は弟を虐待していて両親は逮捕となった。

俺と弟は病院に運ばれて、回復後に施設へと入った。

語られる真実に胸がいっぱいになる。


泣きそうな私の表情の私に彼は切なそうに微笑む。

「ごめん、こんな話を聞かせて」

「ううん」

奈歩は首を横に振る。


「施設に入った後、弟とは距離が出来るようになった。当然だ。俺は置き去りにして自分だけ助かろうとした。」


自嘲気味に話す月島君に私は反論する。

「そんなことない!そんなことないよ。月島君」 

私はワンピースの裾をぎゅっとつかむ。

「香取さん...しばらくしたあと月島家が俺を養子に迎える話が決まった。弟も一緒にという話だったけど、首を縦にはふらなかった」

「っ、、」


辛そうに話す月島君、私は知らず知らずに視界が揺れる。


「月島の父さんも母さんも俺に愛情持って接してくれた。小2から穏やかに過ごしてたけど、どこか空虚を抱えていた。」

私は静かに彼の話を聴いていた。

「高校に入学して、すぐに香取さんがあの女の子だと気がついた。クラスメイトに雑用を頼まれても、君は目立たないように波風が立たないようにしていた。どうしたらいいだろうかと学校の花壇に咲いてる花を眺めていた時...」



『暇なら園芸同好会入らねーか?』

『入ってくれると嬉しいな』

加藤先生と部長が声をかけてくれたんだ。


「事情を説明すると、言葉にしないと伝わらないと言われてね。あの日、加恋が課題に押し付けられてる香取さんに声をかけた」


そうだ...私はあの日から少しずつ変われた。

お姉ちゃんのことも、皆がいたから乗り越えられたー。


「俺は君に助けられた時、救われた気持ちになったし、高校で目立たず人との付き合いを最小限にして過ごしてる香取さんを見て、子どもの時に僕に見せてくれた笑顔を、もう一度見たいと思った。」

彼の想いを聞いて私は涙が溢れる。

私はどれだけ想われていたんだろう。


「色々あってこの気持ちがなんなのか。ようやく分かった。香取さん俺は始めてあった日から君が好きだ」

優しい顔を見つめられる。


「私も月島君のことが好き...」


終業式の日。夏休みに入る前に2人は結ばれた。



その光景を遠くから観てる学生たちが見ていた。

この前、瑠偉が追い払った中学生の不良グループ。

中心には瑠偉の弟の沢村舜がいた。

「皆、これから僕の言う通りに動いてくれる?」


◇◇◇

翌日

「行ってきます」

夏休みの学校へ笑顔で向かう奈歩

父の和樹と母の亜美はリビングのソファーに座りながら、ほっと笑みを浮かべた。


「奈歩、明るくなったな。奈津があんなことになってから本来の明るさが消えていて、心配していたんだ」

和樹が妻の亜美に言うと、亜美がクスと笑った。

「きっと学校で素敵な仲間が出来たのよ」


◇◇◇

夏休みの学校は様々な運動部が朝早くから活動していた。

体育館ではバスケ部やバレー部、外ではサッカー部や野球部やテニス部。

夏の日差しが照りつける日。賑やかな掛け声で聞こえる。


私が花壇の所に到着すると、月島君も部長も既に来ていた。

「おはよう奈歩ちゃん」

部長が笑みを浮かべる。

「おはようございます。部長」

ちらっと隣にいる月島君を見る。彼の腕には昨日送った月のブレスレットが身に付けてある。私は彼に微笑む。

「月島君、おはよう」

私の挨拶に彼は軽く頬を染めながら言う。

「おはよう香取さん」


◇◇◇


私たちは軍手をつけて、ビニール袋に古い花壇の土を入れていく。

ざっと6袋分になった。

「よし、こんなものかな」

部長が言うと月島君は答える。

「そうですね。あとは数週間、土はこの状態にしておきましょう」

その後、3人で他の花壇の水やりをした。


「朝顔の種、発芽して芽が伸びてるね。楽しみだな」

ニコニコとしてる私に月島君はじっと見る。

「何?月島君」

「いや、可愛いなと」

ストレートに言われた言葉に顔が赤くなる。


私たちのやり取りに部長がコホンとする。

「もしかして二人とも付き合いはじめた?」

部長の言葉に私と月島君はドキンとする。

「何でそれを知って」


「だって、君たち好き好きビームが目から出てるもん」

私と月島君はお互いに見つめあって赤面する。


「月島君、奈歩ちゃんのことは僕は親友で妹のような感情を抱いている。泣かせたりしたら許さないよ」

軽く胸をコツンとした。

「はい」

もちろんと言うように力強く答えた。

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