助けになりたい

奈歩の姉の葬儀から数日後、来週には夏休みという時期のことである。

園芸部はお昼を食べながら、打ち合わせをしていた。

「土を消毒?」

私が疑問を口にすると、部長はよくぞ聞いてくれましたとばかりに熱弁をふるった。

「夏場の気温を利用してね。古い土を日光に当てて、消毒するんだ。太陽熱土壌消毒ていうんだよ。」

部長の説明にそう言えば、お姉ちゃんも夏場にやっていたことを思い出していた。

「夏休みを利用してやるのはいいですね」

月島君は部長の提案に同意した。

「夏休みの初日にやる感じにする?」

私の質問に月島君は笑みを浮かべた。

「そうだね。ただ夏場の日中は熱中症のリスクがあるから、午前9時ごろにやろうか。いいですか?部長。」

瑠偉が尋ねると、牧野は笑顔で頷く。

「もちろん、加藤先生には僕が伝えておくよ。」

◇◇◇


午後の授業が始まる前に、私は月島君と一緒に教室に戻る。

(お姉ちゃんが言ってた優しい居場所できてるよ)


教室に戻って、次の授業の用意をしていると加恋と美久が声をかけてきた。

「奈歩、瑠偉に告白でもされた?」

加恋の言葉にドキっとする。

部長と付き合ってるか聞かれたことはある。

自分のことをどう思ってるのかも、私は部長も月島君も大切で....

「自分の気持ちに素直になりなよ。月島君への気持ちが恋なのか友情なのかに迷ってるの?」

美久の言葉に目を丸くした。

「私は...」

加恋がじれったいというように声をあげる。

「あなた達がウダウダしてるなら、私が瑠偉に振りむいてもらえるようになるわ!」

そう話す加恋に美久は苦笑した。


◇◇◇

午後の授業が始まる。

数学教師の海老原先生がチョークで数式を書いていく。

私はノートに数式を写しながら思案する。


(加藤先生は学校に息苦しさを感じてる生徒を、園芸部に誘ってるのだとしたら、月島君も何か抱えてるものがあるのかな?)

月島君への気持ちが恋なのかはまだわからないけど、もしそうなら助けになりたい。

そんなことを思った午後の一コマ。


◇◇◇


放課後

水やり当番で花壇に水をあげる奈歩

朝顔の芽が出てることに気がついた。

(芽が出てる!)

ほわほわと笑みを浮かべる。

水やりを終えて、ロッカーに如雨露を戻すと月島君に声をかけられた。

「香取さん、ごめん。手伝えなくて。今日は家の用事があって」

謝罪する月島君に慌てて首を振る。

「ううん、私の当番日だし月島君は明日でしょう?」

私はニコッと微笑んだ。

園芸部は朝と放課後に水やりをすることになっている。

「気をつけて帰ってね」

心配する月島君に、私は目をパチくりとさせる。

私はふふと笑ってから言葉にした。

「心配しすぎだよ。月島君」


◇◇◇

帰り道

(月島君、心配してたな..この前中学生の不良グループに絡まれてしまったし、余計にそう思われちゃったのかも...)


ふと前方を見ると、公園に咲いてる小さな向日葵を踏み潰してる男子学生を目撃した。

近くにいた小学1年生くらいの男女は怯えている。

「ちょっ、何やってるの!あなた」

気がついたら、私はその学生と向日葵の間にたっていた。

「何だよ?アンタ」

花を踏み潰した彼の顔を見て驚く

彼はグレーのブレザーに青のネクタイ。顔だちが月島君に似ていた。

だけどー..


私はゴクリと息を呑む。

彼の目は誰も信じてない人間の目だ。

私は微かに震えながらも口にした。

「こんなことは良くない。植物だって生きてる」

「...」

そう言った彼は私を数秒間、見つめた後、興味が覚めたかのようにその場から去る。


私はほっと息をついた。

傍にいた低学年の男の子と女の子が話しかけてきた。

「ありがとう。おねえちゃん」

「ボク、こわかった」


「ううん、私もだよ」

思わず苦笑した。


(それにしても、あの制服進学校の快青学園の生徒だよね。)

どことなく胸騒ぎがして、私は振り切るように前を向いた。


◇◇◇

都内にあるフレンチレストラン

瑠偉は養父母の守と由依で食事をしていた。

「瑠偉、お前のことは本当の子どものように思っている」

多少の白髪は目立つも、政治家らしい厳格さもあるが普段は温厚だ。

「子どもを産めなかった私にとって、あなたはかけがえのない宝よ。」

由依は髪をお団子にまとめて、着物を着込んでいる。

「俺の方こそ父さんと母さんの息子になれて良かったです」

実の両親に愛されなかった分、俺は養父母に恵まれてる。

守がグラスに入ってるワインを一口飲む。

「話さないといけないことがある。お前達をDVしてた実の両親が8月25日に刑務所から出所する」

「!!」

「会いたいと思うかい?」

守の真剣な表情にいいえと答える。

「いいえ、その日は大切な約束がありますから」

本心だった。部長や香取さんの顔が脳裏に浮かんだ。

「そうか。」

養父さんの後に、養母さんが話を切り出した。

「今日はね、あなたの弟さんについてなの」


弟ーー!!

俺は苦いものが込み上げてくる。

子どもの頃、虐待を受けた時にこのままじゃ殺されると思って、両親が家にいない間に逃げ出した。

『にいちゃん..どこいくの?』


弟もDVを受けていたけど、自分だけでも助かりたくて、俺は弟を置き去りにしたんだ。

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