交わした約束
俺は部長と加藤先生と姿を消した香取さんを、探しに出ていた。
「ったく、何処まで行ったんだ。アイツは」
思わず舌打ちをする加藤
「先生、どうして奈歩ちゃんのお姉さんと恋人と黙ってたんですか?もっと早く打ち明けてたら、」
焦りから加藤に思わず詰め寄る牧野。
「アイツは奈津のことで心の傷を抱えてる。全てを乗り越えたら、話すつもりだったんだよ。奈津の想いをな」
『先輩、一つお願い聞いてもらっていいですか』
白いヘアバンド、白のニットに紺のスカートの服装。
俺はあの日の奈津の表情は今でも覚えてる。
加藤の瞳が揺らいだことに牧野や月島が気がつく。
「すみません、先生。僕は奈歩ちゃんやお姉さんの育てた植物がきっかけで僕は学校に行くことが出来たんです。」
部長の告白に加藤と瑠偉は目を丸くした。
「そうだったのか」
先生はポツリと漏らした
(俺は香取さんやお姉さんに救われたのは、自分だけじゃないことに不思議な温かさに包まれていた)
そして、瑠偉は9年前のことを思い出す。
『この場所はね。お姉ちゃんとよく行く公園なんだ』
「もしかして思い出の場所に。お姉さんとの思い出の場所にいるかも!」
そうだと感じて、全速力で俺はその場を駆け出していた。
「おい!月島!?」
「月島君、何処に行くんだ!」
後ろから2人の声が聞こえるも、俺は振り返ることなく走っていく
◇◇◇
奈歩は子どもの頃に奈津と遊んでいた公園に来ていた。夜の公園には中学生くらいの不良グループがたむろっていた。
ブランコにストンと座りこんでいる。
お姉ちゃんと遊んだ記憶を思い出して、鼻の奥がツンとして視界が揺れていく。
(そう言えば...昔お姉ちゃんと男の子を助けたことがあったな)
ぼんやりと考えていたら、周囲を中学生の不良グループに囲まれた。
「!」
「お姉さん、俺らと一緒に遊ばない?」
髪をワックスで固めてる不良にグイと腕を掴まれて、その場から連れていかれようとした時、「嫌だ、離し」
抵抗しようと声をあげた時、颯爽と月島君が現れた。
「香取さん大丈夫?」
彼は私を背に隠して、その男の腕を掴んで地面にひれ伏させた。
「ぐあ!」「てめえ、何しやがる」と1人の不良が殴りかかろうとするも動きがとまる。
私は背に隠れて見えない。
不良グループのメンバーの一人
銀のネックレス。黒いシャツ、黒いジーンズの男が「もう、行こう」と言葉にすると、公園から不良グループは退散した。
私は彼の背に隠れてたから、銀のネックレスの男を直に見た訳じゃないけど、どことなく月島君に似ている気がした。
◇◇◇◇
夏の夜
私と月島君は見つめあう。
満月が二人を照らす。
私は力が抜けたように、再びブランコに座った。
「月島君、私の話聞いてくれる?」
彼は隣のブランコに座る。
「うん」
◇◇◇◇◇
私はお姉ちゃんが倒れた日、翌日に2人でショッピングに行く約束だったのに、彼氏も一緒にいい?と話したお姉ちゃんに嫌いと言ってしまったこと。それが最後になった話をした。
話してる間に、涙がポロポロと流れる。
月島君が隣から気遣うように、頬に触れて涙を拭う。
「加藤先生がお姉ちゃんの恋人と知った時、私が先生から恋人を喪わせてしまったと感じたの....園芸部は大好き、私は部長も月島君も大切な人。私にとって優しい居場所。ここにいていいのかな」
月島君が穏やかな表情で告げた。
「香取さんがいたいならいるべきだ...」
月島君は振り返り尋ねる。
「ですよね?先生」
加藤がハァハァと息を切らせている。
「お前、足速すぎだろ...」
数分後に部長が遅れて到着した。
「僕、インドアなんだ」
「香取、奈津はな。いつだって妹のお前を学校に息苦しさを感じてる生徒を想ってた」
「!」
先生の話に目を丸くした。
『先輩、お願いがあるんです。私の妹に優しい居場所作ってくれませんか?』
大学のカフェで奈津と加藤が話し込む。
『優しい居場所?』
奈津は真摯に語りかける。
『私の妹、学校に息苦しさを感じてるみたいなんです。私の妹だけじゃない。そういう息苦しさを感じてる生徒に一息つける居場所をお願いしますよ。先輩』
ニコッと笑顔を見せる奈津
髪をワシャワシャとかきむしる。
『仕方ないな。惚れた女の頼みを叶えてやるよ』
加藤は奈津と約束を交わした。
◇◇◇
奈津の想いを聞いた奈歩は涙を流す
(お姉ちゃん...)
「素敵な人だね。奈津さん」
牧野は笑みを浮かべると、瑠偉は加藤に話しかける。
「先生も奈津さんとの約束を守ってたんですね」
加藤は照れくさそうに頬をポリポリとかく。
奈歩は3人に付き添われて、両親の待つ自宅へと戻っていく。
◇◇◇
その帰り道
瑠偉は夜空に浮かぶ満月を見上げた。
加藤先生も部長も香取さんも、自分の抱えているものを打ち明けてくれた。
俺も香取さんに真実を話そうと心を固めた。
(月島瑠偉の話をしようー...)
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