お星様
時間軸
8月25日
園芸部の部室であるミーティングルームで、私は部長に加恋と和解した経緯を話していた。
「そんなことがあったんだね。強いね。奈歩ちゃん」
穏やかな表情も部長に、私は首を振った。
「私は皆がいたから、強くなれたんです」
私の言葉にニコっと笑顔の部長
「それにしても、加藤先生が奈歩ちゃんのお姉さんの」
部長のあとに私が続く。
「恋人と知ったときは申し訳ない気持ちでいっぱいでした」
私は思わず本音が漏れる。
「奈歩ちゃん、君は自分の過去を受け入れて未来に向かって歩くことができた。今度は月島君の番だね」
私は上を向いた。
「僕らは信じて待っててあげよう」
部長の言葉にコクリと頷く。
私は再度、過去の記憶を呼び起こしていた。
◇◇◇
加恋と和解した金曜日。
私はお姉ちゃんと別れの日を迎えた。
ドナー移植をして、お姉ちゃんはお星さまになる。
火葬場でお坊さんがお経を唱える声
遺影の中で笑ってるお姉ちゃん
今でもこれは夢であってほしい。
ただ、両親の涙でこれは現実なんだと引き戻される。
弔問に加藤先生や月島君、部長が訪れていた。
棺の中のお姉ちゃんは眠ってる人形のようだった。
◇◇◇
お葬式が終わった後、喪服の加藤先生が両親と挨拶しているのを見かけた。
「今日は来てくれてありがとう。いつも、奈歩がお世話になってるね。晶君」
父の和樹が親しげに話す。
(晶君...?)
先生を下の名前で呼ぶことに疑問に思った。
「今日は香取の担任ではなく、奈津の恋人として来ました」
私はその言葉に驚愕して口元を抑える。
(え?加藤先生がお姉ちゃんの恋人...)
母がしんみりと告げる
「本当はあの日の翌日、奈歩に知らせるはずだったのよね。お付き合いを奈歩に内緒にしてたのはびっくりさせたいからと奈津は笑ってたわ。」
奈歩はあの日、翌日2人でショッピングに行く約束をしてたのに、彼氏も一緒にいいと言った姉の奈津に嫌いと言って、家を出た時の記憶が鮮明に甦る。
(ー!!私が、私が先生から恋人を奪ってしまった)
心臓に矢が刺さったように痛い。
胸をギュッと掴む。その場からゆっくり離れて荷物を持って、火葬場から出ようとした瞬間、腕をパシッつかまれる。
「香取さんどこ行くの?」
「奈歩ちゃん...」
月島君と部長の顔が揺らいで、私が自分が泣いてることに気がつく。
今は2人の優しさが苦しい。
私にその資格はないから。
「ごめんなさい」
私はパシッと腕を振り払い夜の街へと駆け出した。
◇◇◇
加藤が奈歩の両親と話をしてる所に、瑠偉と牧野が駆け込む。
「先生、香取さんが!」
瑠偉と牧野の説明に、先ほどの話を聞かれていたことを察する。
「奈歩」
亜美は不安な顔だ。
加藤は和樹と亜美に告げる。
「安心してください。必ず無事に帰宅させますから月島、牧野探しに行くぞ」
『はい』
瑠偉と牧野は声が重なる。
◇◇◇
3人の背中を見送る亜美と和樹
「あの子たちを信じて待とう」
和樹は不安を隠せない妻の肩を抱いた。
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