あなたへの想い ③仲間か恋か
奈歩は目をパチと開ける。
ゆっくりと起き上がって周囲を見回した。
(ここはー保健室?)
◇◇◇
ドアが開けられる。
濡れたタオルや冷えピタを持って、月島君や部長、加藤先生が入ってきた。
「気がついたか。香取」
いくらかホッとしたように加藤先生が言葉にした。
「無事で良かったよ。奈歩ちゃん」
部長は心から安堵したように告げる。
塾と言ってたから、彼は制服ではなく私服だった。
「はい。心配かけてすみません」
私がペコリと頭を下げると、月島君は目を丸くした。
「どうして...香取さんが謝るの?」
「え?」
「加恋に閉じ込められたんだろう。」
月島君が彼女の名前を出したことに、私は眉を下げる。
加藤先生は驚きの表情だ。
「閉じ込められたってどういうことだい?月島君」
部長が月島君に尋ねると、彼は眉間に皺を寄せながら話す。
「俺と一緒に帰る為に、彼女を閉じ込めたことと警備員が巡回に来るから大事には至らないと思ったそうです」
部長は呆れ顔と同時に不安そうに加藤先生に訴えた。
「先生どうするんですか?!先生のクラスで起きたことですよ」
牧野は自分がクラスの中心人物に、苛めを受けていた過去を思い出す。
加藤先生は月島君に尋ねる。
「宮沢は家に返したのか?」
「はい」
月島君はゆっくりと頷く。
私はベッドから降りて、ゆっくりと立ち上がる。
「もう、大丈夫だから大袈裟にしないで」
(彼女は私と同じなんだ....)
月島君は苛立ちも含んだ声で反論した
「大袈裟にもなるさ!」
瑠偉は幼い頃、月島の家に養子に入る前に虐待を受けて家に閉じ込められた記憶を思い出す。
月島君に私はゆっくりと話した。
「明日、月島君と部長と種植えたいんだ。楽しみにしてるの」
ニコと微笑みを浮かべると、月島君は苛立ちが静まったような表情になる。
部長は私に同意するように言葉にした。
「そうだね。明日の放課後、皆で種を植えよう」
◇◇◇
4人は帰る支度をした。
「月島、香取を家まで送ってやれ。もう夜の21時過ぎだ。」
今度はちゃんとと言うような表情に瑠偉はコクりと頷く。
◇◇◇
奈歩と瑠偉が一緒の道を行く。
加藤と牧野は帰る方向が同じだ。
「そう言えば牧野、何で急に香取を呼び捨てなんだ?」
「それは...内緒です」
牧野はにかむような笑顔を見せる。
「青春してるな。園芸部」
「というか先生、奈歩ちゃんの問題解決してくださいよ」
「分かってるよ」
牧野は何だかんだ言いつつ、顧問の加藤を信頼している。
園芸部という居場所を作ってくれた先生だから。
◇◇◇◇
「香取さん...今日は気がつけなくて、本当にごめ..」
何度目かわからない謝罪をする月島君の唇に、私は人差し指をピタッとつける。
「もう、謝るのはなしにしよう」
「!」
軽く頬を染めて頷く月島君
酔った年配のサラリーマンが通りすがりに、私たちをからかう。
「お熱いね~お二人さん」
私はその言葉に顔を赤くした。
月島君は私に話しかける。
「香取さん、部長と付き合ってるの?」
私は驚きのあまり目を丸くする。
「え~何でそう思うの?」
「今日、部長は名前呼びしてたから..それに」
佐々木公園で抱きあってた姿が脳裏に浮かぶ
私は月島君の疑問に答えた。
「付き合ってないよ。でも...」
部長がSNSでやり取りをしてたmoonだと知った時は、驚いたけど納得もした。
「部長のことは園芸部の仲間かな。」
私の言葉に月島君は一歩踏み込んで尋ねる。
「じゃあ俺は?」
まっすぐに私を見る彼は、整った顔立ちが月夜に彩られて美しさがあった。
月島君も仲間だよと続けたいのに言葉が出ない。
固まる私に彼は切ない笑みを見せた。
「いつか、答えを聞かせて」
◇◇◇◇
話してる間に家の前までたどり着く。
「月島君送ってくれてありがとう。また明日」
私は彼にお礼を言う。
「また明日、おやすみ。香取さん」
◇◇◇
玄関の扉を開ける。
「ただいま」
私の声にお母さんは、リビングから出て迎えてくれた。
「先生から連絡をもらった時は驚いたけど、心配したのよ。具合はどう?」
宮沢さんのことは加藤先生は両親には内緒にしてくれたらしい。
「大丈夫」
リビングにつくと、ソファーに父の和樹が座っていた。
「おかえり、奈歩」
優しく微笑んだ。
直後にお父さんは言葉にする。
『奈歩、お姉ちゃんとのお別れは金曜日に決まったよ』
いつかはその日が来ることは覚悟はしてた。私は大丈夫、大丈夫と深呼吸をする。
「わかった」
それだけ答えて自分の部屋に戻っていく。
自室に戻ってベッドに夜たわる奈歩
今日は色々起こりすぎて、考えないといけないことがありすぎた。
でも、どんなことが起きても、今日が終われば明日が来るんだー...
そう思うことが出来るようになった。
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