君の願いー前向きな気持ち

『先輩、高校の教師になるんですね』

大学のカフェテラスでパソコンで卒論に取りかかってる時である。

白いヘアバンドをつけて、白のニットに紺のスカート。ブーツと冬の装いだ。

『だったら何だよ。奈津』

加藤は後輩の香取奈津に尋ねた。

『先輩にぴったりだなと思って面倒見いいですから』

はにかむように笑う奈津を見て、加藤はほのかに頬が染まる。

『俺のどこがだよ。』

ごまかすように天然パーマの髪をわしゃわしゃかく。

奈津は話を変えて別の質問をする。

『先輩、どこの高校に決まったんですか?』

『青空学園だけど...』


目をぱちくりした後、奈津はフフと笑う。

『私の母校ですよ』

『マジか』

ニコニコと笑う奈津に、俺は肩の力が抜けた。


『先輩、一つお願い聞いてもらっていいですか?』

そう言った彼女の表情は切なげでいて、芯の強さを感じて俺の脳裏に焼き付いたままだ。


◇◇◇◇◇


月曜日


父は仕事で早出だ。

「奈歩、今日お姉ちゃんの病院で主治医の先生にお話してくるわ。」

母の言葉に私はコクりと頷く。

お姉ちゃんとの別れが近いことを感じて、心が痛んだが大丈夫というように微笑む。

「わかった。行ってきます。」

ドアを開けて学校へと向かった。


◇◇◇

1年2組の教室に入ると、男女共に挨拶をされる。

私はおはようと返す。視線感じて振り向くと月島君だった。

「おはよう、月島君」

私が微笑むと月島君は一瞬目を丸くしたのち、「香取さんおはよう」と笑みを浮かべた。


◇◇◇


「HR始めるぞ」と担任の加藤が入ってくる。

その日、いつものように授業が過ぎていく。

4限目は加藤の担当する国語だった。

キンコンカンコンとチャイムが鳴った後

「月島、香取!今日放課後に砂を植木鉢に入れる作業頼む。

職員室に置いてあるからよ。校長から種をもらっちまってよ。」

向日葵や枝豆の種もある。

「いいですけど部長は?」

月島君の質問に先生が答える。

「あいつ、今日は塾だ」


「今日は砂を入れる作業やって、明日みんなで種を植えよう。朝顔の種も一緒に」

月島君の提案に私は「そうだね」と答えた。



◇◇◇

昼休み

女子グループでお弁当を食べている。

心なしか私を見る宮沢さんの目が怖い気がする。

基本笑顔だけど、隣に座るツインテールのポッチャリ系の女子

木村夏美が「気にしなさんな。奈歩と月島君が仲良いことへの嫉妬よ」

男子グループでは、スポーツ苅りの松本剛が「この前俺の好きな女子が、俺の知ってる奴に抱きしめられてるのを見てよ。嫉妬しちまったわ」

瑠偉は話を聞いてドキッとして、食べていたパンを落としそうになる。


『嫉妬?』


瑠偉と奈歩の2人はお互い目線が合う。


◇◇◇

午後の授業も頭に入って来なかった。

瑠偉は気がつくと、彼女の姿を目で追っている。真剣にノートを書いてる奈津

そんな瑠偉を見る加恋を、友人の浜口美久は不安な瞳で見つめていた。


◇◇◇


放課後

職員室に寄る2人

砂はCAN DOで売っている210円の物が8袋

植木鉢は用具室にあいてあるものがあるそうだ。

「ついでに花壇の水やりも頼む。」

両手をパチンと叩く。


「じゃあ始めようか」

月島君は私に声をかける。

「うん」


これから植える種は夏休みの学校に、季節の花を咲かせると思うと想像したら、前向きな気持ちになれるそんな気がした。




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