月の真実

姉の奈津の病院から帰宅した夜

奈歩は父と母と、リビングで夕食の準備をしていた。

父の和樹は50代で、年相応の紫波を刻まれているが優しい顔立ちだ。


夕食は夏野菜カレーだ。

私とお母さんが隣でお父さんが正面の席につく。

「美味しそうだな」

「食べようか」

父と母が言葉にした後、3人で声を揃える。


『いただきます』


亜美がカレーに入ってるじゃがいもをスプーンに掬う。

「このじゃがいもはね。お姉ちゃんが育てていたものを収穫して使ったのよ。」

私はそう言った母の瞳が揺れてるのに、気がついて胸がつまる思いになる。


「奈津は野菜も育てていたからな」

和樹は亜美を気づかって努めて明るく話した。


奈歩はスプーンに載せたじゃがいもを、パクりと口に含んで咀嚼した。

姉と過ごした日々が脳裏に甦る。


中学に入学した頃のことである。

「ただいま」

学校から帰宅する奈歩

庭の方を見ると、お姉ちゃんは庭で園芸に勤しんでいた。

軍手をしてしゃべるを持ち、土を耕していた。

私が帰ってきたことに気がついたお姉ちゃんは

振り向く。

「おかえり。奈歩」


笑顔のお姉ちゃんが脳裏に浮かぶ。


和樹と奈歩の様子を見て母が覚悟を決めたように話す。

「あなた、奈歩。今日ね、主治医の先生に言われたの。このまま目を覚ますことを待つのはこれ以上はオススメ出来ないってー...」


『!!』


それは、家族全員が分かっていたことだ。

重い静寂に包まれる。

「そうだな。奈津を休ませてあげよう」

私は切なそうに微笑みながら、言葉にするお父さんを見て、鼻の奥がツンとして視界が揺れるのがわかった。

「あなた、この前、奈津の部屋で見つけたの」

お母さんはエプロンからカードをお父さんに手渡す。

「ドナーカード...」


ドナーカードは脳死判定を受けた場合、自分の臓器を提供することができる。


「あの子は優しい子だった。」

母の亜美が涙を流した。


私はお父さんとお母さんが泣いてるのを見て、泣くのを堪えて部屋に戻る。


ベッドに寝転んだまま、スマホのアプリを開く。仲の良いmoonさんに、今日のことを話した。すぐに既読がついて返信が来る。



『nahoさん、明日代々木公園で会えませんか?』



◇◇◇


日曜日

奈歩は姉が春休みにプレゼントしてくれた、グリーンのワンピースとブレスレットをして、両親にお昼は食べてくると言って家を出る。


代々木公園は渋谷区にある緑豊かな公園だ。

そこにあるベンチでmoonさんと、11時に待ち合わせした。

フォロワーさんと会うのははじめてのことだ。

普段だったら気が進まない。


ベンチに座って青空を見てる奈歩


『こんにちは。nahoさん』


聞き覚えがある声に振り向くと、そこにいたのは水色のポロシャツに黒のジーンズ

眼鏡をかけた見知った顔

園芸部部長 牧野葉月だった。


「部長... え、どうして」

驚きのあまり目を丸くしていると、部長がポケットからスマホを取り出して苦笑するように私にDMを見せた。


「僕がmoonなんだ」









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