夜の秘め事ー交錯するそれぞれの想い

午後6時30分

夕焼けから辺りは薄暗くなりはじめる。

バト部の練習を終えた浜口美久は、部活の為に落としたメイクをトイレでしなおした。

マスカラをしてチークを塗りリップをつける。


きつい練習後にメイクをすると、解放感と充実感を味わえるのだ。

ショートの髪を耳にかけて、

「これでよし」


◇◇◇

校門近くで同じく文芸部の帰りだろう友人の加恋と出くわす。

「加恋、今帰り?」

「そうだよ。美久」


チャームポイントのポニーテールを揺らしながら近づいてくる。

「一緒に帰ろう?」

そう言いながら微笑む加恋


加恋は課題を押し付けたり図々しい部分はあるけど基本いい子と思う。


(先ほどの月島君と奈歩の光景を、加恋に言ったらどうなるだろう...)

『本当に好きな人に好きになってもらわないと意味がない』

脳裏に浜口さんと笑う地味子の顔が浮かぶ。

(まあ、あの子も悪い子じゃないけど)


バドミントンは好きだ。

スマッシュを決める時は気持ちいいし、ただ、先ほどの月島君と地味子に焦燥感を抱いたのはほんの少し嫉妬したのかも。


「美久?」

黙りこんだ私を心配する。

「何でもない。明日ね。」

「うん」


2人は笑顔で別れた。


◇◇◇


午後7時

園芸部はマックをあとにしてそれぞれ帰路につく。

「月島、香取を送ってやれ」

顧問でもある加藤が告げると、部長の牧野も同調した。

「そうだね。女の子の夜道は危険だし頼んだよ。月島君。」

2人に頼まれた月島君は当然とばかりに答えた。

「もちろん」


◇◇◇

加藤先生と牧野部長は駅の方角へ向かい、私は月島君と自宅への道を歩く。

「ごめんね。月島君。送ってもらって」

「同じ方向だし構わないよ。」

優しく微笑まれて頬が熱くなる。

(どうして月島君はこんなに私に優しいんだろう)

「月島君はかっこいいし、誰にでも優しいから私は二人で歩いてるの見るとクラスの女子に嫉妬されちゃうな。」

つい本音を漏らしながら歩くと、月島君は足をとめた。


◇◇◇


「俺は誰にでも優しい訳じゃない」

(君は忘れてしまってるだろう。もう9年前のことだから...)

子どもの時の大切な記憶

君にとっては些細なことでも、俺にとっては光のような出来事だった。

子どもの時の奈歩の笑顔が過る。


◇◇◇

「月島君?」

彼女の呼ぶ声で、ハッと過去から現実に意識を戻す。

「何でもない。」

俺の前まで歩いてくる途中、小石につまずきバランスを崩す。

「うわっ」

「危ない!」


俺は彼女の腕を引っ張り腕の中におさめる。

俗に言う抱きしめる形になってしまい、「ごめん」と謝ると、彼女は首を横に振りながら「助けてくれてありがとう」と笑顔を見せる。


◇◇◇


2人は数分歩いたら奈歩の自宅前に到着した。

白い2階建ての一軒家である。


「じゃあ、香取さん」

「また明日ね。月島君。」


お互いに「また明日」と声をかけあい、月島はその場はあとにした。


◇◇◇


そして、加恋は帰宅の最中にタイミング悪く瑠偉が奈歩を抱き締める場面を目撃してしまう。

電信柱に寄りかかり頭を抱える。


「瑠偉と香取さん抱き合ってた」


加恋は幼い時のことを思い出す。

小2の時に転入してきた瑠偉は有名な政治家の息子だ。

当時何をやってもどんくさかった私を瑠偉だけは、待っててくれた。

運動も勉強も習い事も。


「瑠偉ごめんね。私の足が遅くて運動会の練習もクラスの足手まといになってる」

私は眉を下げて話す。

「足手まといの人なんていない」

そう言ってくれた瑠偉の言葉は、今でも私の支えだ。


(瑠偉があの子に惹かれてる理由を知りたい...)

知らず知らずに頬に流れる涙を拭い、加恋は立ち上がりノロノロと立ち上がる。

その瞳には嫉妬の焔が微かに混じっていた。


◇◇◇


お風呂に入って就寝までの間

奈歩はベッドに座ってスマホを持ち、SNSのアプリを開く。


『moonさん今日は園芸部でマックに行きました。』

笑顔のスタンプをつけて送信ボタンをタップする。

しばらくすると既読がつく。

『園芸部楽しい?』

moonさんの返信にうんと送信すると、♡のボタンが押された。


ゆっくりと自分のペースで活動できる園芸部は私にあってるかも。

そう思いながら、奈歩は電気を消して眠りにつく。

◇◇◇◇◇


机の上に置かれてる眼鏡

スマホ画面には園芸部でマックに行きましたの文字。

髪の毛をかきあげる仕草をして言葉に出す。


「やっぱりnahoは君のことだったんだね。香取さん」

僕は困ったように笑う。


園芸部部長...牧野葉月

アカウント名のmoonは名前の一文字からつけていた。


それぞれの想いが交錯して絡み合った1日の出来事であった。


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