第5話 花言葉のような出逢い

駅前のホームセンター.ホームズに奈歩と瑠偉と牧野は来ていた。

部長の説明ではホームセンターは大工、家具用品以外にも園芸グッズも販売されているらしい。

夕方だがホームセンターはお客さんで混雑していた。


3人で種が置かれてるコーナーに移動してみる。

エンドウ豆や苺、大根といった野菜も販売されている。

「食物の栽培もいいけど、夏に合いそうな花を育てたいね。」

牧野は眼鏡をキラリと光らせて、目を輝かせてる。

(ああ、この人は植物が好きなんだな)

奈歩は笑みを浮かべた。

その奈歩を優しい表情で見つめる瑠偉

「部長、香取さんの入部記念だし彼女に植える種を選ばせてあげたらどうでしょう?」

「え?」

瑠偉の言葉に驚く奈歩

牧野はぽんと手をたたき言葉にした。

「グットアイディアだよ。月島君」

香取さん好きなの選んでと2人に諭されて、私は種を順番に見ていく。


「!」

私はある種を取る。

白い朝顔と赤い朝顔だ。

「これ..」

(お姉ちゃん)


◇◇◇

姉の奈津との思い出が蘇る。

私が小学生4年の時、二人で母の日のカーネーションを買いに行く途中。


「白と赤の朝顔の花言葉はとても素敵なのよ。奈歩」

「何て花言葉なの?お姉ちゃん」

姉のキラキラした笑顔を見て奈歩は尋ねた。


「白はあふれる喜び、固い絆、赤ははかない情熱的な愛。奈歩にも来るわよ。花言葉のような出逢いがね。」

そう言われて私は自問自答する。

(白いヘアバンドをつけて青いブラウスと紺のスカートを履いたお姉ちゃんは美人だ。

私はキャラ物の赤いTシャツ。ベージュの半ズボンで顔も地味だ。

そんな出逢いはお姉ちゃんのような人にだと思う。

私の考えを読んだのかように、お姉ちゃんは言葉にする。

「一歩踏み出せば必ずくるわ。」

「お姉ちゃんにもはかない情熱的な愛経験あるの?」

私が尋ねると人差し指を口に当てて言葉にする。

「秘密」


◇◇◇


「香取さん朝顔にしたい?」

瑠偉の言葉にハッとする奈歩

「いいかな。」

コクリと頷く。

「朝顔の種を2つ買いましょうか。部長」

牧野に問う瑠偉。

「そうだね。部費の予算内だし夏にぴったりだから。2人ともレジに行こう?」

微笑む牧野。


前を歩く瑠偉と牧野

奈津の言葉が蘇るー...


『奈歩にも来るわよ。花言葉のような出逢いがね』


「香取さん行こう?」

立ち止まったままの奈歩に瑠偉が声をかける。


『一歩踏み出せばね』


「うん!」

奈歩は瑠偉や牧野の元に元気よく一歩を踏み出した。


◇◇◇

3人のその光景を職員会議から、駆けつけた顧問の加藤晶が見守っていた。


加藤は大学時代を思いだす。

大学4年の時、加藤晶は香取奈歩の姉の奈津と出逢っていた。

『先輩』

瞼を閉じれば奈津の笑顔、俺を呼ぶお前の声が鮮明に思い出される。


加藤はレジで種を買い終わった3人に声をかける。

「悪いな。待たせてしまって」


「先生、種買い終わりましたよ?香取さんが選びました。朝顔の種」

牧野はじゃーんと前に見せた。

「これからにぴったりの花だな。」

加藤にそう言われてむずがゆくなる奈歩


「種は部長が預かってもらうとして、これからどうします?」

瑠偉が尋ねると、加藤は頭をワシャワシャとかきむしる。

「香取の入部記念だろ?俺が奢ってやるよ」

牧野と瑠偉が見直す顔をしたが。

「マックのポテトを!」


「せ、先生ケチすぎる。」

「器を見せてください」

ドン引きの牧野に醒めた眼差しの瑠偉

「お前ら俺は教師だぞ。そんな高いもの奢ってたら特別扱いと言われちまう。」


呆気に取られていた私はぷっと吹き出して、自然に笑い声をあげる。

SNSの繋がりだけでいいと思ってたのに、自然に笑えて楽に息を吸えてることに奈歩は気がつく。

奈歩の心からの笑顔に牧野も瑠偉も頬を染めた。

「香取、学校内でも今の笑顔が出るようになったらいいな?」

加藤はそう言って口角をあげた。



End


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