共有型経済の各課題に対する解決策④

 そして、経済システムを長く存続させる。そのために重要なのが決まりだ。この決まりとは、単にルールのみを指しているわけではない。法律や、マナーもまた、人々が社会生活を送るために、あらゆる形を伴って機能している。では、共有型経済になったら、どのような課題が出てくるのか。私は4つの内容を考えた。


 真っ先に思いついたのが、法律違反による賠償。特に、賠償金が絡むような問題は、単純にお金だけでは解決できない複雑なものが多い。それは、取り戻せない何かを諦める代わりに、お金を得ることで解決を試みているからだ。それゆえに現代においては、裁判で判決を下すというのが、法律違反が起きた際の主要な解決方法となっている。


 だが、共有型経済には、お金という概念が殆んどない。というのも、他経済システムを採用する海外との取引以外で使用することが無いからである。したがって共有型経済では、代わりにポイントを使う。だけれども、賠償をする側が経済活動をしていなかったらどうすれば良いんだろうか。その場合、賠償ポイントが発生することになるが、経済活動を始めない限りは、賠償義務が生じない。それでは、法律違反した人々が結果的に、逃げ得になってしまう。そのような指摘は確かにあるだろう。しかしだからと言って、何もしないということは無い。


 どうするか。答えは決まっている。娯楽品や、嗜好品の共有禁止だ。賠償する側が賠償出来ないと分かった途端、その人が共有している娯楽品や、嗜好品は全て没収し、審判によって決定なされた賠償額の大きさに応じて、一定の期間、娯楽品や、嗜好品の共有をその人限定で不可にする。それが適切ではないかと思う。人間らしい生活を営む。その時に欠かせないのが娯楽品や、嗜好品だ。それらを使えなくすることで、人間らしい生活を大幅に制限し、何もできない苦痛を味わってもらう。それで賠償出来ない代わりの罰は充分だ。


 とはいえ、それを実行するとなったら、娯楽品や、嗜好品が何かを、事前に定義付けなければならない。また、賠償に加えて懲役も伴うケースにおいては、何もできない苦痛に加えて、刑務所生活という耐えがたい罰が待っている。それは暇なのに暇を潰せない、ある種の苦しさとなって犯罪を犯した人々を襲うに違いない。


 次の課題は、創作物や特許技術は誰のものか。誰かが自分で作り上げたのなら、その人が生きている間においては、作った本人のものになる。いわゆる、限定所有という概念だ。しかし、作った人が亡くなれば、その所有元は、社会を構成する人々になるので、家族であっても所有権を主張できない。それならば、みんなで作ったという場合はどうか。その際は、最後の1人が亡くなるまで、限定所有ということで、作った人たちが所有することが可能になる。


 では、特許技術ではない技術は?発明された後、期間内に特許申請されなかったもの、特許と認められなかったもの、発明した本人が亡くなったもの。これら3つのうち、いずれかを満たした技術は、結果的に社会の財産として、多くの人々に共有されて使われる。これは、経済活動を行う人々にとって損ばかりではない。発明した技術がもたらす先行リターンをポイントとして享受したり、他の人々が発明した技術を元に、新たな技術を作ることに挑戦するのも出来るからだ。


 どうして共有型経済では、所有権を受け継ぐことを認めていないのか。それはお金と同様に、特定の人物や会社、組織に、創作物や特許技術が、過度に集まるのを防ぐためである。なら政府は良いのか。共有型経済システムの性質上、政府に、創作物や特許技術が集まることは無いと断言していい。作った本人が存命なら本人に、作った本人がいないなら社会に所有権が認められるので、政府が所有権を主張することもなければ、誰かの所有物を勝手に私物化することもあり得ない。政府が、共有型経済のルールに則っている限りではあるが。


 そうして、共有取引以外の事務手続き手順という課題もある。これは主に役所での一般的な事務手続き。住民票の取得・変更、パスポートの取得・更新などが例に挙げられるが、大半のものは、これまで通りの方法で手続きを行えば、何も問題ないように思われる。


 強いて挙げるならば、税金関連の事務手続きだろうか。しかし、それまでお金だったものをポイントに置き換えるだけで済むうえ、絶対に必要な税金も、輸入物にかける関税くらいで、それ以外は議論の余地が多く残されているであろう。


 加えて、人が死亡した場合のポイント処理も忘れてはならない。実際、社会を構成する人々は、病気、事故、他殺、自殺など様々な原因によって亡くなる。そのため、現代社会においては、誰かが亡くなった際、家族・親族が、相続によって故人の資産を分け合うことが当たり前になっている。だがそれによって、一部の人々が、生活するのに必要な分以上の資産を形成しているのも確かだ。


 重要なのは、必要以上の過度な資産を人々に作らせないこと。そして、資産が子や、孫などに受け継がれるのを防ぐことだ。それらを実現するため、共有型経済では、誰かが死んだら、その人が持っていたポイントは全て取り上げられる。ゆえに、共有型経済では、資産を得る目的で身内の人間を殺すメリットが無いに等しく、それ以外の目的で、身内の人間を殺しても待ち受けるのは、想像しがたいほどの地獄以外に見当たらない。


 それに家族同士ならば当然のように、共有している物の融通が出来るので、盗難、紛失、破損の事実があった場合に、共有元から物を共有した本人が、返済ポイントという形でペナルティを負うデメリットがあっても、共有する物の総量が少なくなるという意味で、メリットの方が大きい気がするのだがどうだろうか。

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