共有型経済の各課題に対する解決策⑤

 そして新しい経済を構築させるとなれば、経済の問題が必ず付いて回る。これは誰もが分かると思うが、その詳細はとても分かりづらい。それは多くの人が、経済という大きな問題の枠組みを、一括りにして考えているからではないか。確かなことは不明だが、経済に関係する問題を、抽象的にではなく、細分化して考察することが必要だと私は考えた。そこで今回は3つの課題を順番に見ていくことにしたい。


 まず、最初に挙げられるのが、経済指標の図り方という課題。難しく感じるかもしれないがそうでもない。というのも、大きく変わるのは経済システムだけで、その他システムが一変することは無いからである。そのため、これまでの手法をそのまま、あるいは、ほとんど形を変えずに使うのも可能だ。


 では、共有型経済の場合、どんな経済指標を使うのか。考えられるものが、少なくとも3つある。国内総生産、経済活動参加率、貿易収支状況……。それならなぜ、労働参加率ではなく、経済活動参加率なのか、疑問に思う人もいるだろう。その理由として、労働という言葉の持つイメージが影響している。さて、ここで自分に問いかけてみて欲しい。自分という存在は、労働という行為が好きなのか。


 お金が貰える、生活費が稼げる。そう言った意味での労働に対しては、好きと答える人々は少なくない。しかし、仕事内容が好きかと聞かれたら、多くの人々が首を振ると私は考えている。つまり、好きでもない仕事で労働しているからこそ、一定数の低くない割合の人々が、労働という言葉に、嫌悪感や、拒否感を抱いているのではないかという気がしてならない。


 次に挙がるのが、経済活動の適正な見返りとその決定法。適度な競争を保ちながら、経済活動をする人々の見返りを適正化するには、どうすれば良いのか。その答えとなるのが物々交換だと私は思っている。意味が分からない。そう受け取る人もいるだろうが、私が着目したのは物と物の交換ではない。相互に行われる交渉だ。


 交渉は、納得いく交換条件を引き出すために使われる。だからこそ、共有型経済下では、交渉による見返り決定が適切な手段になる可能性が高い。なぜか。理由は2つほど思いつく。1つ目は、ポイントの所有上限があるため、終わりの見えないポイント稼ぎをする意味が減少すること。2つ目は、共有している色々な物や、技術が基準になるため、交渉が円滑に進みやすいこと。3つ目は、商業施設が壊されることで、多くの人々が同時に取引する大きな場所が無くなること。


 そしてこれらの理由を元に、経済活動を行う際の交渉が、共有型経済下で浸透していった際、別の問題にぶつかることになる。どこで取引を行うかだ。とても大きなものや、目に見えないもの、新技術などはオンライン上。一方で、持ち運べるようなサイズのものは、対面上での取引が良い。


 それは単に、何となくで決めているのではない。とても大きなものや、目に見えないもの、新技術などは研究者や、マニアでもない限りは欲しがらず、持ち運びが困難であるために、興味ある人自体が稀で、取引数が少なくなる。反対に、持ち運べるサイズのものは、日常生活で役立つものが大半となり、取引数は多くなる。


 こう言うと、持ち運べるような大きさの物も、オンラインでの取引で良いじゃないかという声が聞こえてくる。しかし、忘れてはないだろうか。共有型経済では、一部のモノを除いて私有権を認めていない。つまりは取引が終わっても、得たものに対して、自分のものだと主張することは不可能となる。それなら、経済活動を行っている側はと言えば、これもまた、私有権を言い出すことが出来ない。


 それだとしたら、共有されたものはどうなるか。経済活動によって生み出された物を取引して得た場合、共有期限を過ぎたら、返還または廃棄。在庫として余った際は、移譲あるいは廃棄というのが現実的となる。


 最後に、需要と供給の適切な調整。これを言い換えるなら、需要と供給のバランスが上手く保たれるのか。特に考慮すべきなのは、農業や漁業などの第1次産業、水道やガスなどの公共インフラ、看護や介護などの福祉サービスだ。


 この問題は、4つで解決できる。共有的雇用、地域共助、ボランティア、AIだ。この4つに共通しているのは、長時間労働からの解放による、助け合いの増進だと断言してもいい。万人のストレスの原因である労働から人々を解放することで、社会全体の心理的な健康や、身体的健康を促す。それにより、荒んでいた状態が解消し、他者を気遣う余裕が生まれる。


 もちろん、求められる課題に対して重複する部分もあるが、それぞれの役割はある程度違う。社会に必要なものを常時生産する共有的雇用、見えない地域のコミュニティを形成し、繋がりを増やす地域共助、非常時の際に活躍するボランティア、人間社会の足りないところを補うAI。こうして比較すると、どれも必要不可欠だと気づくのではないか。

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