魔法研究(6)
「じゃあ、僕は結婚せずに、姉さんと一緒にいるよ」
「…………え? で、でも、それじゃ、お父様が困るんじゃ」
貴族には跡取りが必要だ。そうでなければ領民が困るし、祖先に申し訳が立たないからだ。実際に父さんから言われたことはないけれど、貴族なんだからそうなるのが自然だ。そして跡取りは長男であることが多い。
「最近だと養子をとって跡取りにすることも少なくないし、そうしたらいいんじゃない?」
「か、簡単に言うわね」
「簡単じゃないよ。僕は本気。僕も姉さんと一緒にいたいし。僕はまだ子供だけど、この言葉は
「そ、そんなの結婚するよりも、重い言葉じゃないの」
「姉さんは僕のためにって色々してくれるけど、僕だって姉さんのために色々としてあげたいんだ。こんなのは重くもなんともないよ。僕にとっては姉さんが……大事だからね」
いつの間にか、転生してから大事なものができた。父さん、母さん、そしてマリーだ。最近ではローズという友人もできて、大事な存在が増えていっている。
僕にとって、マリーは大切な存在だ。彼女の望みならば、できるだけ
それに、童貞のまま四十五年過ぎれば妖精になるとかいうよね。六十年なら仙人だっけか。どうせならそこまで目指してもいいかも。だって実際、こうして異世界にいるしさ。そういった夢物語も現実になるかもしれない。魔法を使えてはいないし、魔法があるのかもわからないけど。
「だからね、姉さん。大丈夫。僕は姉さんの
マリーは顔を伏せて、肩を震わせている。
僕たちは子供だ。でも真剣に悩んで、必死に生きている。大人からすればたいしたことじゃないことでも、本気なんだ。それが子供の身体で生きて、わかったことだった。
マリーなりに悩んだことだ。きっととても苦しかっただろう。その思いは僕にはわかる。でも本当の意味ではわからない。だからできるだけ一緒にいよう。
僕はマリーの身体を抱きしめる。小さな身体では、二歳年上の姉の身体を覆うことはできない。
けれど僕の思いは伝わったらしい。
「シオンぅぅ……っ」
泣きながらしがみついてきた。
僕はよしよしとマリーの背中を
その時、僕は変化に気づいた。
「……光ってる」
これは魔力熱?
僕は慌ててマリーの肩を掴み、身体を引きはがした。
彼女の鼻は真っ赤で、まだ瞳は濡れていた。なぜかその姿が大人っぽく見えた。
「ど、どうしたの?」
「これ、見て!」
僕の身体が光っていた。ぼんやりと、でも確かに光っている。光の玉ほどではないが、間違いなく発光していた。
「ひ、光ってる……こ、これ、何?」
「魔力、だと思う。あ、消えた」
光は消えた。数秒間しかもたないみたいだ。
「魔力って何?」
きょとんとしたままの姉に、簡単に説明した。
「そう、トラウトが出してた光の玉と同じようなものなのね」
「うん、多分ね。仮定だったけど、正しかったのかも」
「でも、どうして突然出たのかしら……?」
どんなきっかけで、魔力が放出されたのだろうか。僕は首を
「わかった! ほら、トラウトは求愛行動で光の玉を出してたじゃない? つまり魔力を帯びていたわけだ。僕はそれをずっと見ていたから、無意識のうちに『求愛行動をすれば魔力を放出する』って思い込んでいた。それがきっかけで、身体に魔力を帯びたのかも」
「え、え? きゅ、求愛行動……って、あの、さ、さっきの?」
「そうだと思う。だって、姉さんのために誰とも結婚しないって、最大の告白じゃない?」
自覚はなかったけど、湖で家族としての好意を伝えた時とは違って、別の感情を伴った求愛行動だと僕の身体は認識したのかもしれない。異性に告白するのとはだいぶ違うけど、それに近い言葉や感情でもあったということなのか。
あんぐりと口を開けていたマリーは、徐々に顔を紅潮させた。しまいには赤面し、沸騰しそうなほどだった。そしてマリーはすっくと立ち上がり、走って家の中へと入っていった。
その反応を見て、僕も恥ずかしくなってきた。勢いで言ったけど、改めて、かなり思い切ったことを言葉にしたと思う。しかしもう引き返せないし、後悔はない。なんか複雑な状況になったような気がしないでもないけど。まあでも本心だ。この件については深く考えないようにしよう。
心臓がうるさいから黙ってほしいところだ。
とにかく魔力はあった。魔力は放出された。これは現実に起こったことだ。そして、魔力が放出されたのなら、次にできることは決まっている。
異世界には魔法がなかった。でもそれは魔法という技術が発見されていなかっただけではないだろうか。だったら僕のすることは決まっている。
魔法を創る。ないなら創ればいいだけのことだ。僕がその第一人者になるのだ。魔法を使いたい。それだけのために。その夢のために。
僕は震える身体を強引に手で抑え込んだ。
「楽しくなってきたよ」
幸せだが退屈だった日常は終わった。これからは心躍る日々が続くはずだ。魔法以外でも色々と問題が起こりそうな気もする。けれど不安はない。
きっと、つまらないという未来は僕にはないだろうから。
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