第10話 神頼みしかできない

 初子は老人のイーゼルの中を遠目から覗く。きっと何年も絵を描いてきたのだろう。慣れた手付きで筆を滑らせている。


「……美羽ちゃんとは趣味が同じだったんです。それで仲良くなって」

「へえ、趣味ってことは初子ちゃんも絵を描くのかい?」


 自分の一番の趣味を言い当てられて初子はぎょっとした。その様子を見てシリウスは続ける。


「いや、美羽ちゃんは絵がうまいって聞いて、なんとなくそう思ったんだ。違った?」

「いいえ、実はそうなんです。でも美羽ちゃんの方が全然上手いんですけどね」


 初子は空を仰ぐ。暑さで額から汗が一滴垂れた。


「病気になってから、あの子全然絵を描かなくなくなったんです。私、また美羽ちゃんに絵を描いてほしいんです」


 自分でそう言ってみて、もしかしたらこれがシリウスの言う”本当の願い”なのではと思った。

 だったらやっぱり美羽の病気を治さなければならない。


 でも初子は今、神頼みしかできることがなかった。

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