Sid.86 学年で頂点に立つ

 中間考査の結果が出揃った。そして今一度、成績上位十名を発表されることに。

 プライバシーを公表しなくても、と思うのだが。実に迷惑で前回はそれで、クラス内に居場所が無くなった。どいつもこいつも、不正を疑うんだからな。誰も実力なんて認めたがらない。そのせいで不登校になり掛けただろ。

 懲りずにまた貼り出してるらしい。余計なことするなっての。


「佑真君。見ておこうよ」

「見たくない」

「でも、どうせクラスでも話題になるでしょ」


 鴻池さんが朝から張り切ってるわけで。

 それと掛川さんも結果が気になるようだ。俺の頭がいいと思ってるからな。

 相変わらずな両側から腕を組まれ、学校に向かっているのだが。周囲の目がな、二股クソ野郎ってのが見え見えだし。茨の道を歩まされてるな。


「本当に常松君が学年一位だったら」

「みんな認めざるを得ないよね」


 それは無いだろ。でも九位には食い込んでると思いたい。


 学校に着きエントランスホールに人だかりが。


「なんか賑わってるね」

「見てみようよ」


 すげえ嫌だ。仮に学年一位になると、今度はやっかみが凄いことになりそうだ。僻み妬み嫉みの揃い踏みだな。人のことを僻むなら自分が頑張ればいいのに。

 それは手間が掛かり過ぎるから、人の足を引っ張り引き摺り下ろすんだよ。

 醜悪な連中ばっかりだ。


 俺と言うより鴻池さんに気付いたのか、数人から視線が向けられると。


「あ、鴻池さん」


 その場にいる連中の視線が一斉に向く。鴻池さんと掛川さんに挟まれる俺にも、凶悪な視線が突き刺さる感じだな。二股してると思われてるわけで。

 きっと殴り殺したい衝動に駆られてるんだろう。


「注目浴びてるみたい」

「佑真君の学年一位に驚いたんだね」

「無いとは思うけど、常松君の名前が無かった」

「それは無いと思うな」


 集まる視線を掻い潜り掲示板の傍に行く。人が避けてくれる。鴻池さんが居るからだな。俺だけなら袋叩きだっただろう。

 掲示板に貼り出された成績順位表。下から見て行くと俺の名前も、鴻池さんの名前も無いわけで。


「佑真君」

「常松君」


 なんだ?


「先生の言葉。正しかった」

「凄い。鴻池さんも凄いけど、常松君が本当にトップに」


 えっと。

 まじか?

 恐る恐る一番上を見上げると、そこには確かに俺の名前がある。文系特進二年、常松佑真と。そのすぐ下に鴻池綾乃の名も。

 眩暈がする。気分が悪いな。いや、本当に学年一位とか冗談としか思えん。

 それだけ他の生徒がバカってことだろ。まあ、バカだとは思っていたが。


「あたしも頑張れば十位以内に入れるのかな」

「あの先生の指導なら上に行けると思う」


 後ろから声が複数掛かるが、聞き馴染みのある声だな。


「常松、まじで一位かよ」

「すげえな」

「前回九位で今回一位なんて、凄い頑張ったんだな」


 友人二人と掛川さんと一緒に声を掛けてきた奴だ。

 とりあえず人混みから抜け出し、教室へ向かうことに。


「佑真君。誇っていいんだよ」

「自信持てたかな」

「なんだよ。成績トップなのに自信無いのか?」

「俺なんてどこに居るか分かんないってのに」


 五人に囲まれて教室に行き、鴻池さんは別の教室と言うことで、別れるのだが去り際に「身分差なんて無いよ」と言っていた。

 成績を誇れと。二度とも自分より上の成績じゃないかって。実績を示した。自信を持っていいはずだとも。何よりも自分が信じた俺は、やっぱり頭がいいんだよ、だそうだ。気のせいだろ。


 教室内に入ると、やっぱり視線が集まるわけで。


「常松君、胸張ればいいのに」


 つい背中が丸まり、こそこそと自分の机に向かってしまう。堂々としていればいいのに、と言う友人の言葉も耳に入らん。

 席に着き机に突っ伏すことにした。クラスの連中に期待はしていない。それこそ人の醜い部分だけが集まったような連中だ。どうせやっかみだけで、評価する奴なんて居るわけも無いからな。


「常松。何寝てんだよ」


 伏せっていると友人が声を掛ける。


「放っておいてくれ」

「クラスの連中?」

「そうだ」

「驚いてんじゃないのか?」


 そりゃ驚くだろうな。どんな手を使って一位を取ったとか。真面目に勉強した成果だなんて、誰も思わないだろうよ。友人と掛川さんだけが、努力の結果だと思う程度で。

 ホームルームになり担任から「常松を見習って各自一層努力しろ」と。

 やればできる。取り組む姿勢の問題であり、人をやっかむ暇があるなら、全力で勉学に励めと発破を掛けていた。

 無駄なことを。このクラスのバカどもに、人間の言葉が通じるものか。


 その後、午前の授業が終わり昼になると、真っ先に掛川さんが傍に来る。


「常松君。お昼」


 俺の腕を取り立たせると「今日ね、お弁当持って来たんだ」とか言ってるし。


「誰の?」

「常松君の分も」

「鴻池さんが」

「シェアすればいいと思うんだ」


 どうやら掛川さんも、他の生徒と関わらせる気は無いようだ。敏感に感じ取ったか? 不穏な空気って奴を。友人二人に「羨ましい」と言われながら見送られ、教室をあとにする。

 学食に行くと、いつも通りだ。鴻池さんが六人掛けテーブルを占拠中。


「あ、佑真君。ここ」


 そう言って隣の椅子の座面をポンポン叩く。

 席に着くと掛川さんも隣に腰掛けて、弁当を広げて「鴻池さん。あたしも作ってきたから、三人でシェアしようよ」と言ってる。

 掛川さんの弁当を覗き込むと、これまた色とりどりで「今日ね、予感がしたんだ」とか言って「おめでとう、学年一位」と描かれるご飯がある。


「あ、勝手に祝ってる」

「あたしは信じてたから」

「それ言うなら、あたしだって佑真君はトップだって信じてた」


 だったら、二人で祝おうと。

 それに関しては異論が無いようだ。おめでとう、と言って二人から祝福され、だから、俺の口に運ぶな。自分で食えるっての。

 鴻池さんと掛川さんの弁当は、互いに味見をしたりして「あ、悔しいけど、美味しい」だの「鴻池さんって万能なんだね」と互いに称え合ってる感じが。

 普段はライバル同士だが、こんな時くらいは仲良くするんだな。


 弁当を食い終えてラウンジに行き、そこでも「佑真君、自信持って」とか「背中丸めないで」と言われた。

 無理。

 他の生徒から疑念の視線が凄まじい。気付かない振りをするのも疲れるんだよ。


「日曜日に常松君の家に行くね」

「あたしも行くから」


 来るなと言っても来るんだよな。掛川さんも陽奈子さんから教えてもらうことになったし。

 なんだかなあ。

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