Sid.85 卒業するなら同級生

 午後五時になる頃、今日の授業を終えて帰り支度をする三人。

 支度が済むと一向に距離が縮まらないことで、キスをさせろと迫りくる鴻池さんが居る。


「佑真君。先生の言うように待つけど、キスだけでも」


 ここでしろと? 二人の目もあるのに? 少しは人目を考えて行動して欲しいんだがな。

 このまま放置されると死にたくなるとか、そんなわけ無いだろ。なんで俺如きで死を選択できる。

 陽奈子さんが掛川さんに話し掛けてるようだ。


「掛川さんでしたね。部屋の外に出ましょう」

「え、でも」

「今は二人にしてあげましょう」


 四六時中傍に居ることが、その人にとっての幸福でもない。距離を取ることもまた、相手への気遣いとなる。恋に落ちたばかりの頃は、どうしても傍に居たいと願う。しかし、そんな気持ちは長続きするものでは無い。熱くなっているからこそ、少し冷静に距離を取ることも必要だと。

 でもなあ、鴻池さんは四六時中、傍に居ようとするんだよな。それはどう考えるのか、なんて。でも陽奈子さんは適切な距離感がありそうな。

 ああ、そう言うことか。俺が陽奈子さんを気にするのも、適度な距離を保つからだ。さすが大人だ。がつがつしないんだよ。

 気付けるか? 掛川さんは。


 納得したのか、しないのか陽奈子さんに連れられ、部屋の外に出る掛川さんだった。

 そうなると遠慮の無い鴻池さんが居る。


 勢い抱き締められ豊満な胸を押し付け、顔を近付けると唇を尖らせてるし。

 気持ちが強過ぎるんだろうなあ。なんで俺、なのか知らんけど。


「あのさ」

「言葉は要らない」

「いや、でも」


 結局、深い奴を何度か。絡みつき口腔内で蠢く鴻池さんの舌。離れると「少し我慢できるかも」じゃねえって。がつがつし過ぎるんだよ。少しは陽奈子さんを見習えっての。

 なのに俺の股間は正直者だ。しっかり元気になってるし。

 童貞って、こういう時に情けないなあ。大人ならどうなのか、なんて考える。

 気が済んだのか離れると「抱いてね」って、それ今じゃないだろ。


「いずれ」

「今すぐでもいいんだけど」

「無い」

「ケチ」


 ケチ、じゃねえ。俺が鴻池さんを好きで好きで、仕方ないくらいなら、その申し出は即座に受けるけどな。生憎、今もまだ好きだという感情に乏しい。

 陽奈子さんに対しては気持ちはあるし、掛川さんも少し可愛いと思った。二人は鴻池さんと違い、身近に感じ取れる存在だからな。庶民ってことで。だから迫られれば受け入れてしまうだろう。

 こればかりはどうにもならん。気持ちの問題なのだから。


 部屋を出ると掛川さんがな、羨ましそうな表情で見てくるし。陽奈子さんは余裕ありそうな。


「では、帰りましょう」


 ぞろぞろ四人で玄関を出て施錠したのち駅に向かう。

 そしてやっぱり張り付く鴻池さんと、掛川さんだけど、まじで歩き辛いから勘弁してよ。

 陽奈子さんは微笑ましいものでも見るかのようだな。


「佑真君。二人とも抱いてしまいなさい」

「え、いや。あの」

「私はあとで構いませんよ」


 代わりにじっくりねっとり、時間を掛けて楽しみましょうとか。頭が沸騰しそうだ。魅惑の姿態を持つ大人は実にエロい。


「それとも先に私で卒業しますか?」

「駄目です」

「やらせない」

「だそうです」


 ぎゅっと絡まる腕に力が篭もる。二人とも胸を押し付ける感じだけど、掛川さんはなあ。やっぱり平たい。ぺったんこ。でも、悪くない。

 陽奈子さんが微笑みながら「可愛らしいです」だそうだ。余裕あり過ぎ。

 駅に着き改札を前に全員見送ろうとすると、陽奈子さんが「掛川さんも週一で面倒見ます」と言ってる。


「代金は」

「半額で受けました」


 掛川さんに聞くと、俺と鴻池さんがキスしてる最中、交渉したらしい。別に最難関校を受験するわけじゃない。難関校レベルだからと言うことで、半額で請け負ったそうだ。そのくらいなら払えるそうで。それでも一時間五千円。うちより金あるな。


「掛川さんの家に行くんですか?」

「佑真君の部屋ですよ」

「え? なんで?」

「佑真君と一緒の時間を過ごしたいのですよ」


 少しでも傍に居たい乙女心だと。ついでに受験対策できて一石二鳥だとか。

 陽奈子さんの顔が近付き耳打ちしてきた。


「いつでもいいそうですよ」

「はい?」

「佑真君。大人になってしまいなさい」


 鴻池さんでは躊躇しても、掛川さんなら大丈夫でしょうと。避妊具も用意するそうで、あとは俺次第だからと。なんでそうなった?

 陽奈子さんを見ると頷いていて「佑真君が一定の成果を出すまで、私は手を出しませんから」だそうだ。その間にさっさと経験してしまえ、ってことらしい。何も大切にする必要の無いもの。女子とは違うのだからと。

 知ってしまえば事に及んだ際に、焦って漏れ出てしまうこともないとかで。

 眩暈がするけど、掛川さんを見ると期待してそうだ。


「では、また次回に」

「佑真君、今何話してたの?」

「掛川さんも週一で来るって」

「邪魔するんだ」


 違うと思うぞ。まあ結果的に鴻池さんにとっては邪魔だろうけど。でも、陽奈子さんも居るんだから、エロい行為はできないっての。

 あ、居るんだったら目の前で、ってことじゃないよな。まあいいや。俺から手を出す気は無いし。

 三人を見送るが鴻池さんだけは「なんか嫌な予感がする」とか言ってるし。

 問題無い、と言いたいが迫られたら、どう転ぶかは現時点で不明だ。


 三人の姿が見えなくなり家に帰ることに。

 自室に入ると、この独特の匂いって。女臭いのが混ざってるのか。俺とも男子とも違う匂いがする。三人居て密度が高かったことで篭もってるのか。

 初めて気付けたな。

 結構接触してたけど、鼻が悪いのか頭もだろうけど気付けず。今になってやっと分かるとは。鈍いなあ俺。


 母さんが帰宅してきて「今日はどうだったの?」と。


「ひ、先生来てくれて捗った」

「そうなの? 料金払ってもいないのに」

「ボランティアだと思う」

「あんた、好かれてるのね」


 何が良くて女子に好かれたのかと、親ながらに驚かされるそうだ。

 大人の女性と同級生二人。


「三股?」

「違うぞ」

「誰が本命?」


 陽奈子さん。

 とは言い難い。


「同級生の子、可愛らしいの?」

「見た感じは。背は低いけど」

「あんまり浮かれて成績落ちないようにね」


 そこは問題無い。陽奈子さんのご褒美が懸かってる。あの爆乳に浸りたいからな。

 でも、先に掛川さんとやってしまえ、なんて言ってたけど。もっと好きだという気持ちが無いと悪いよな。

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