Sid.82 お嬢と同級生の女子

 五分ほど歩くと我が家と言うか、そろそろ倒壊してもおかしくない、ぼろ屋に到着する。鴻池さんは何度か来てる。掛川さんは初めてってことで、暫し家を見ていたが、さすがにボロ過ぎて驚いたか? 貧乏を絵に描いたようだしな。

 玄関を開け中に入るよう促すと、ずけずけと上がり込む鴻池さんが居て、恐縮気味の掛川さんがあとに続く。


「常松君の部屋は?」

「二階」


 俺より先に鴻池さんが答えるし。ライバル意識剥き出しだな。

 さっさと二階に上がる鴻池さんが居て、それに続く掛川さんだけど、俺より先に行くなっての。下から見上げると丸見えなんだよ。なんて言うか、絶景ではあるが。

 しかも掛川さんもまた気にせず、丸見えの状態で階段上がるし。ミニスカートだって分かってるだろうに。白い布は面積が少なく、なんかプリプリした肉と、そこから伸びる二本の足が堪らん。


「あ、失敗した」


 二階に上がってから何かに気付いたのか、鴻池さんが俺の前を歩けばと、悔しがってるし。それに対して掛川さんが勝ち誇ってるよ。俺に見せるためのミニスカートだ。意識して穿いてきたな。


「常松君。どうだった?」

「いや、どうと言われても」

「そんな貧相な体」

「お尻はしっかりしてるから」


 見て分かった。ぺったんこでも尻はでかい。胸が無いと尻がそれを補うのだろうか。


「でかいだけでしょ」

「感触いいもん」

「佑真君が気に入るかどうかだからね」

「きっと気に入るから」


 何の話をしてるんだよ、こいつら。

 二人を避けて部屋のドアを開けると、そそくさと入ってくる二人だ。慌てるなっての。別に部屋は逃げないし、座る場所も無いわけじゃないし。狭いけどな。

 一階から事前に座布団を調達済みだ。卓袱台を囲むように置いて、座るよう促すと「佑真君はどこに座るの?」とか言い出すし。どこでもいいだろ。ってわけじゃないのか。俺の隣に座りたいんだよな。


「ここだ」


 ベッドの上を指すと「じゃあ右側」とか「左側に」とか。座布団を用意したんだから座れ、と言うと「佑真君はここ」とか指定する鴻池さんだ。そうなると対抗心剥き出しの掛川さんが「常松君はこっち」とか言ってるし。きりがねえ。


「さっさと座れ」


 少し強めに言うと大人しく座る二人だ。

 卓袱台の一角に腰を下ろし、各々斜向かいに座る二人。


「隣が良かったな」

「無理だ。勉強するんだからな」

「常松君。教えてね」


 バッグから前回同様ペットボトルを取り出す鴻池さんが居て、二本だけ出すが掛川さんを見て「いじわるはしないよ」と言って、もう一本取り出してる。こういうところは公平に扱うんだな。


「選んで」


 前回と同じだ。ペットボトルホルダーに入っていて、キャップだけだと中身は分からん。しかも今回は全部緑。適当に掴むと掛川さんも「いただきます」と言って一本を手にする。

 残りを鴻池さんが手にして「あたしのはリンゴジュースだ」とか言ってる。


「あたしは、オレンジジュース」


 と言うことは、またもお茶かよ。取り出してみると、やっぱりお茶。


「佑真君、お茶好きだね」

「違うぞ」

「でも前もお茶選んでた」


 好きで選んだんじゃない。まあいいけどな。飲めればなんでも。

 それにしても掛川さん、太ももが眩しいんだよ。ミニスカートで足を横に投げ出すから。立て膝姿になったらパンツ見えるんだろうな。さっき見たけど。

 鴻池さんはミニとまでは行かない。短くはなってるけど。お嬢様らしい服装しか持ってないんだろう。下品な格好は親も許しそうにないし。


「じゃあ勉強するからな」


 邪念を払い本来の目的である勉強だ。一日足りとて無駄にはできない。

 各自タブレットを用意し勉強を始めるが、度々掛川さんから質問が来て、その都度自分の勉強が中断されるわけで。どの程度の成績か知らんけど、聞いてくる内容はそれほど難しくない。と言うか、真面目に授業を受けていれば、何ら問題無いレベルと感じるんだよな。

 あんまり頭良くない?

 いや、俺が少し鍛えられたんだろう。陽奈子さんのお陰だ。夏前なら掛川さんと同じレベルだったと思う。


「掛川さん。あんまり佑真君の手を煩わせないでね」

「教えてもらわないと、分かんないところあるんだもん」

「自力で解いてこそ身になるんだよ」

「でも、そこに至らないから、少しは教えてもらわないと」


 だったら、自分にも聞けと言う鴻池さんだ。俺ひとりに負担させるなってことで。まあそれもそうか。鴻池さんも陽奈子さんから指導を受けている。更には地頭の良さもあるから、俺より説明の仕方が上手いかもしれんし。


「あ、うん。じゃあ鴻池さんに聞くね」


 暫く勉強していると「トイレ、どこ?」と聞いてくる掛川さんだ。

 案内する程じゃないし部屋を出て階段脇、と言うと「お借りします」と言って部屋を出て行った。


「うんちかな」

「おい」

「佑真君好きなのかなって」

「スカトロの趣味は無い」


 少しして戻ってきて「しゃがむトイレって初めてで」とか言ってる。一階のトイレは洋式になっているが、二階は家人しか使わないってことで、和式のままなんだよな。


「まさか腰掛けたり?」

「してないから」

「ならいいけど、時々使い方を知らない人居るからさ」


 鴻池さんが立ち上がり「見てくる」とか言ってるし。妙な好奇心を抱くな。部屋を出るとトイレに向かったようで、ドアを開ける音と同時に「わっ。本当にしゃがむトイレだ」とか言ってるし。以前来た時は一階のトイレしか使ってないからか。

 戻ってきて「昭和レトロだ」とか言ってるが、それがうちの日常なんだよ。レトロでも何でもない。


「黒電話とブラウン管テレビがあれば、完璧な昭和レトロだね」

「あのなあ。うちを何だと思ってる」

「あ、ごめん。そういう意味じゃないんだけど」

「お金持ちだと何でも高価そうだもんね」


 嫌味を込めて掛川さんに言われると「そんなこと無いから」と言ってるし。いちいち揉めるな。うちはぼろい。だから至る所に昔の面影があるだけだ。

 また暫く勉強をしていると、俺のスマホに着信があるようだ。


「誰から?」


 表示名を見ると思わず胸が高鳴る。


「えっと、陽奈子さん」

「逢引してるんだ」

「してないぞ」

「じゃあ何の用事?」


 とりあえず出てみると「テストはどうでしたか」と聞いてきてる。凡そ問題無く解答できたと言うと「では、学年一位は確実ですね。ご褒美楽しみにしておいてください」とか言ってるし。


「佑真君。嬉しそう」

「確かに」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る