Sid.77 姉に免じて考える
投機目的の連中は業績がどうであれ、株価が上がることのみを期待する。
企業への愛着も無ければ、長期に渡って保有することもない。株価が上がれば売り、手頃な株があれば買いを繰り返し私腹を肥やす、浅ましい連中でしかないそうだ。
「浮動株主と呼ばれる連中がそれ」
投機目的の連中が多ければ多い程、経営に口を出せば出す程、経営者は短期の経営戦略を練るしかない。四半期や半期で決算報告を出し、株価に変動があり下がれば、ひたすら文句を言い出す始末に負えない連中。下がったとなれば、投機家の資産が減少する。経営者が悪い、経営判断のミスだと糾弾するわけで。
逆に利益を得たとしても知らん顔で、株を売って別の企業の株を買うを繰り返す。
キャピタルゲイン、つまり売却益狙いの投機家でしかない。長期的視点は持たないから、引っ掻き回すだけで企業の利益には結びつかない。足を引っ張るだけとも言える。
株主総会での突き上げも激しいから、経営者は常に株価を考える必要もある。
また、雇われ社長なんてのも、中長期的視点を持って経営できない。
雇われ社長は短期で業績を上げる必要に迫られる。業績を上げられなければ、社長から下ろされるわけで。
結果、短期間で業績の上がる方法を採るしかない。過去に散々行われたリストラなんてのも、短期で業績回復を印象付ける方法だった。
しかし、そんなことを繰り返していても、いずれ行き詰まるわけだ。
今の日本経済を見れば一目瞭然。大企業と言えど雇われ社長が多く、長期的視点での経営はできていない。
「だからね、経営者も苦悩してるのだけは分かって欲しい」
もっと落ち着いて経営できる環境であれば、外道だなんて言われる手段を取らずに済むのだと。
今後はもっと厳しくなることが予想される。
国が個人に投資を勧めていけば、市場には多くの金が流れ出す。それが株や債券、暗号資産などの金融商品を活性化させる面はあれど、株に関しては先にも挙げたように、短期で株主が利益を得られるようにしなければならなくなる。
のんびり長期的な研究開発なんてのは、今後日本ではできなくなるだろうと。
今すぐ結果を出せと喚く投資家、という名の投機家が多くなることが予想されるからだ。
投資と投機は違う。前者が発展を支えリターンを得るのに対して、後者は目の前の利益のみ追及する。市場を食い荒らすハイエナでしかないわけだ。
「産業が衰退した日本で、結果だけ求める国民が増えたら、もう終わりだからね」
金だけ回して経済発展なんて、そんな虫のいい話があるわけがない。
投資先があってリターンがある。その投資先が潰れて行けば、困るのはその国の国民そのもの。海外企業の株を保有したとして、国や企業そのものを理解しなければ、損失が増えるだけでマイナスもあり得ると。
常にリスクはあるわけだ。因みに金融のリスクとは危険性、ではなく可能性であるそうで。損失を被る可能性、利益を得る可能性。損失を被る危険性とは言わないらしい。
「経営者もね、必死になって踏ん張ってるわけだから」
だからあんまり悪く言わないで、だそうだ。
「ニュースとかで出てくる悪徳経営者は?」
「そう言うのも居るでしょ。一般市民だって犯罪者と善人が居るんだから」
一元的に考えず多元的に物事を考えようよ。だそうだ。
「君には悪い面もあるけど、良い面もたくさんある。そう考えた方が楽でしょ」
悪い面だけ見て吊し上げ続ければ、次第に腐って行くしか無くなる。良い面も同時に見て行ければ、腐ることなく前を向けるものだと。
大学生と高校生の違いだな。視野が狭いんだ。高校生って。
「理解してもらったと思うから妹と上手くやってよ」
ついでに家族とも、と自分を指して言う姉だ。
鴻池さんを見ると微笑んでる。さすがお姉さん、とか思ってるのか。
今すぐ信用する気は無いが、今は姉に免じて少しだけ対応を変えても。
あ、そうだ。この姉って見た目は鴻池さんに劣るんだよな。彼氏とか居るのか?
「ひとつ質問いいですか?」
「何?」
「不躾なことですが、彼氏っています?」
「本当に不躾だね。居ないけど」
鴻池さんも「失礼過ぎるよ」とか言ってるが、ちょっと気になったんだよな。
それでも、自分でブスだと分かっていると。妹に比べて見劣りする容姿。男子に好かれることは少なく、妹と比較対象にされることが多く、心が折れそうになったこともあるとか。
「でもね、いつか中身を見てくれる人が、現れてくれるんじゃないかなって」
「佑真君。お姉ちゃんは短気だけど、優しい人なんだからね。顔で判断しないで」
「してないつもりだけど、ただ、並んでみると」
つい比較してしまうが、それを言ったら陽奈子さんだって、決して美人ではない。でも、心惹かれる存在なんだよな。なんだろう? 内面から溢れ出るものなのか。
立ち居振る舞いってのもありそうな気がする。
そう言うと。
「家庭教師ね。まあ確かに美人とは言わないかも」
「佑真君、胸に惹かれただけでしょ」
「違うぞ。別にぺったんこでも構わないし」
胸に魅力を感じるけど、それは人自体に魅力が無ければ、魅力と感じないと思う。
掛川さんは言っちゃ悪いけど、ぺったんこの部類だ。でも、悪くないと思う部分もある。顔だって取り立てて美形でも無いし。普通だ、至って。
分からんけど、何かしら感じ取るものがあるんだろう。
「あれか、気持ちを向けてくれているか、そっぽ向いてるか」
「先生は佑真君を見てくれるから?」
「まあ愛情みたいな。こ、綾乃の母親からは感じ取れないし」
姉からも感じ取れない。好意と愛情もまた別ものか。
「あたしは佑真君のこと、心の底から愛してるんだからね」
「それは分かる」
「分かってない。キスしてくれない、手も握ってくれない、おっぱい揉んでくれない」
「いや、最後の奴は違うだろ」
揉めと言った時に遠慮しないで、揉めばいいとか言い出すし。
ついでに「してもいいって言ってるのに、ちっともしてくれない」とまで。それを聞いてる姉は「嵌まると思うけどなあ。嵌めるだけに」とか言ってるし。
セレブにしては品の無い言葉だ。でも、俺に合わせてくれているのかも、と考えれば付き合いやすさの演出ってのもあるのか。
「あ、君があたしを抱いてくれても」
「お姉ちゃん! あたしのだから」
「冗談だってば。あたし、卑屈な子は好きじゃないし」
今は魅力的には見えないらしい。
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