Sid.58 互いに譲れない想い
「ん」
小さく湿り気を帯びた悩ましい声が漏れ出ている。
滑らかに蠢き絡み合う。ねっとりした感触と入り交じり交錯する味わい。
何のことだってか?
結局、流されて鴻池さんとキスをする羽目に。表現のエロさはあれだ、少し官能小説を意識しただけで。
経験は乏しいのにディープなものが好きらしく、やたらと舌を入れてきて絡めたがる。お陰で股間の暴れ具合が半端無いわけで。相手が掛川さんや陽奈子さんなら、間違いなく事に及んだであろうことは想像に難くない。
「佑真君。もっと」
唇が離れると幾度も重ね合わせたがる。
きりが無い。
「あのさ、そろそろ」
「胸とか触っていいよ」
「だから、勉強したい」
触ったりしたら止め処が無くなる。最後までする気も無いし、したくも無いし。いや、本能は要求するが抗い続けているわけで。
押し付けられる膨らみがな、ブラ越しとは言え撓む感じがまた。
我慢の限度を超える前に終わらせないと。
「鴻池さん」
「また名字呼び」
くっそ、面倒臭い。
「綾乃。勉強するんだっての」
「手、出してくれないんだね」
「当たり前だ。高校卒業するまでは、後ろ指を指される付き合いはしない」
建前だけどな。
「後ろ指なんて指すわけ無いのに」
「今やらなくても、今後幾らでも機会はある」
年齢相応の付き合い方がある、と言って強制終了させた。
成人して自己判断で行動できるようになれば、責任を負える範囲で好きにすればいいわけだ。未成年者なんてのは責任を負えない。何から何まで親の世話になってるのだから、今は「らしい」付き合い方をすべきだ、と言うと「屁理屈」とか言われるし。
「ねえ佑真君」
「なんだ?」
ベッドを背もたれ代わりにする俺の肩に頭を乗せ、しな垂れている鴻池さんだ。寄り掛かり体重まで預ける形で、体温と共に重さまで感じてるわけで。頭髪からは、ほんのり匂いが漂ってくる。たぶんコンディショナーの類だろう。よくシャンプーの香りとか言うが、シャンプーは最初に洗い流す。そのあとにトリートメントして、コンディショナーで整えるのだから、シャンプーの匂いってのは違うと思う。
まあ、混ざってはいるのだろうけど。
ついでに頭に掻く汗の臭いも混ざってそうだな。
細くしなやかで艶のある髪は枝毛塗れ、ってことは無いのか。パーマなんて当て無いだろうし、枝毛になり難いのかも。あ、でもあれか、直射日光で髪が傷むというし。そうなると枝毛も発生しやすいか。
でも、鴻池さんの髪には無さそうだ。
「日本だと同い年なら十三歳でも性交できるんだよ」
法律上の話はそうかもしれんが、だからと言って「やっていい」とはならん。頭の悪い奴や相手のことなどお構いなしの奴なら、遠慮もせずに性欲の赴くままに、ってのはあるだろうけどな。
互いが納得し合意した上ですべきことだ。勢いやその時の気分だけで突っ走るものじゃないな。
そもそも鴻池さんと行為に及べば、ろくでもない結果が待っているのは確かだ。
結婚とか抜かしてるのだから、阻止すべく手を出さないのが賢明な判断になる。
一族に仕える下男なんて身分は要らない。
金持ちなんてのは財を得る代わりに、人の心を捨て去った存在だからな。人間に非ずだ、あんなもの。
せいぜい一生、蓄財に励めばいい。人を踏み台にして。
「責任を負えるのは成人してからだ。法云々は関係ない」
「あたしだから、したくないんだ」
分かってるなら、これ以上迫るな。
どうすれば分かってくれるのか、と落ち込んだ感じになってる。
「お金持ちって、そんなに罪なことなの?」
「別に。金稼げる奴が正義だからな」
「本当にそう思ってる?」
「事実世の中はそうなってる」
貧乏人は須らく努力が足りない。すべきことをしなかった結果、が罷り通ってるのだから、金持ちは正義なんだよ。金を得るための努力を欠かさないから、金持ちになれる。なれない奴は必要なことをしていない。で、終わり。
金持ちから見れば貧乏人はバカ。せいぜい搾取される存在であればいい。
這い上がりたければ努力すればいい。で、これまた終わり。
「努力と言っておけば全て正当化できるからな」
スタートからして異なる環境なんて、一切考慮しないんだよ。貧乏な家庭は最初からハンデを背負ってる。教育に掛けられる金が限られるからな。幼い頃からの英才教育なんて金の掛かることはできない。だから公立校に通う。
公立校なんてのは生徒の質がピンキリだ。バカも居れば賢い奴も居る。
バカに足を引っ張られることも多い。つまりは虐めだ。全ての公立校にある。とは言え、私立校なのに虐めがあるのは恐れ入ったぞ。
人間の本質なのかもしれん。虐めることで生き甲斐を得るってのは。
「こ、綾乃には優秀な家庭教師が付く」
「佑真君もだよ」
「それは気持ちが強過ぎるからだ」
親も呆れて已む無しとなり、セットで面倒見るとなったに過ぎない。
「俺の実力だけなら、行ける大学は中程度か中の上程度が限界」
幼い頃から多くの習い事をしてきたわけじゃない。むしろ何もしてないに等しい。それでも名目上の進学校に通えるレベルだ。努力したと思うが、そんなのは努力と言わないってのが金持ちだな。
できて当たり前。それすらできないから貧乏に甘んじるのだと。
「だから、こ、綾乃と一緒に居るってことは、ある意味恵まれた状態とは言える」
自分の実力以上の大学に行ける目はあるわけで。
付いて行けるかは不明だけどな。落ち零れて卒業できない、なんて可能性もある。
「そこだけは感謝するよ」
「佑真君。何があると、そんな考えになるの?」
「世の中を見れば分かる話だ」
格差が拡大してるって事実があるわけで。
じっと見つめてきた。
「もう一回、あたしの家族と話し合って」
「嫌だっての」
「だって、そんな風に思われてたら、あたしだって悲しいよ」
父親がそこまで人で無しとは思ってないらしい。勿論、母親だって優しさに溢れ、気遣いができる人だとか言ってるし。
姉にしても自分を心配してくれるし、アドバイスもたくさんくれると。
そりゃ家族だからだ。外様の俺なんぞに気遣うアホは居ない。
「今のままだと佑真君と結婚できない」
「する気は無いぞ。下男なんて冗談じゃない」
「だから、そんなわけ無いでしょ」
「あのな、貧乏人如きが一族の末席に、ってのは結局は下男扱いなんだよ」
死なない程度に餌を与え使い倒して壊れたら捨てるだけ。
同じ人として見るわけがない。
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