Sid.20 執拗に誘うお嬢様

 当初の予定通りファストフードに着くと、店内を覗き混雑具合を確認する。


「混んでるな」

「あっち、空いてるよ」

「周りが煩そうだ」


 中高生くらいが屯する店内は、あり得ない程に騒々しく、席を立ったり動き回ることで、落ち着いた雰囲気とは程遠い。好き勝手に騒ぐ、どこぞの中高一貫校生のお陰で店内はカオスだ。大声を出して喚き散らし品性の欠片も無く、躾けのされて無いガキの溜まり場だよな。親も同じ人種と容易に想像できる。バカは連鎖するんだよ。

 とてもデート気分なんて浸れないだろ。

 低レベルなガキが屯するファストフードじゃ已む無しか。


「これなら喫茶店の方がいい」

「あ、じゃあフルーツパーラーにしようよ」

「高いだろ。金無いぞ」

「奢るよ」


 嫌だ。また借りができるし、女子の世話になるばかりだし。


「諦めて帰ろう」

「なんで。出すってば」


 少しは察しろ。良いところが何ひとつ無い男のどこに魅力がある。格好も付かないし、これじゃただのヒモ野郎だっての。せめて自分の分は自分で出したい。

 やっぱり付き合う相手は同じ程度の奴がいい。金持ち相手は無理だ。


「そう言う問題じゃない」

「なんか気にしてる?」


 気にするに決まってる。どんだけ借りを作れば気が済むんだってな。返せない借りは施しと言う。乞食じゃねえか。

 金持ちってのは、その辺のことを考えないのか。金が唸るほどあるから気付けないんだろう。


「とにかく、今日は無し」

「つまんない」

「仕方ない。混んでるからな」

「気にしなくていいのに」


 借りなんて考え方は不要だと言ってるが、借りは借りでいずれ返すものだ。

 理解してくれ。


 デート気分に浸りたい鴻池さんだが、今回も見送りと言うことで駅に向かった。

 改札を抜けると「恋人って感じがしない」とか言ってるし。俺だって恋人とは思ってない。単に振り回されてるだけで。ただの貧乏バカがお嬢様と付き合うとか、何の因果でこうなったのか。

 もっと自分に見合う相手を探した方がいい。


「ねえ」

「なんだよ」

「余計なこと考えなくていいんだよ」

「余計ってなんだそれ」


 身分差とか金の有無とか、成績がどうこうじゃなく、高校生として楽しくお付き合い、とか抜かしてるよ。

 それはな、俺と鴻池さんが対等の立場で言えることだ。格差が激し過ぎて意識したくなても、意識させられると気付けっての。

 各々ホームに向かうが寂しそうな表情を見せていた。


 家に帰るとスマホにメッセージが入ってる。


『日曜日にうちに来て欲しい』


 簡潔なお誘いのメッセージだな。

 だが断る、ってなものだ。まだ理解してないようだし。

 返信メッセージは勿論「行かない」だ。

 即座に帰って来るメッセージには「フルーツパーラは駄目、ファストフードは騒々しい、図書館は喋れないって、どこでデートするの」って、デートする気が無いんだから、何を申し出られても断るに決まってる。


 いい加減、身分差に気付け。

 下民如きが上級国民を相手にできるわけがない。まさに最底辺なんだからな。

 とりあえずデートは無し、学生らしく勉学に励むのみ、と返すが。

 今度は電話だし。


『息抜きがあってもいいでしょ。たまには息抜きしないと疲れるし』


 耳元で響く鴻池さんの声。スマホを耳から離しハンズフリーモードにする。


「息抜きなんてしてる余裕ないんだよ」

『根を詰めても効率悪いだけだってば』

「バカは死ぬ気で勉強しないと落ち零れるんだっての」

『バカじゃないし、佑真君、相当できる方だと思う』


 自己評価が低過ぎてバカだと思ってるみたいだけど、他の男子に比べたら圧倒的に頭がいいとか言ってる。何を以てそう言ってるのかは知らん。告白して玉砕した連中と比較してるならば、そもそも身の程知らずなのだから、バカに決まってる。

 嫉妬して嫌がらせをする程度のバカは論外だし。

 比較対象が悪いんだっての。


『とにかく、今度の日曜日、あたしの家に来て』

「品定めされて排除されに行くわけか」

『違うってば。ちゃんと紹介するし排除するわけ無いでしょ』

「コンクリに詰められて相模湾直行だな」


 バカなこと言って無いで来て、だそうだ。

 問答無用で誘ってる。


『お母さんが連れてくれば、って言ってるの』

「だから、そこで品定めされて相応しくない、ってなるだろ」

『ならないって。なんでそんなに自分を貶めるの』


 その程度だからだ。貧乏ってのもネックだな。金持ちの娘にたかるクソ虫。どうせ金目当てだろうって思われるだろうし、ましてや校内随一の美少女だ。邪な考えで接してると勘繰るだろうよ。

 手なんて出してみろ、本気で殺しに掛かるぞ。


「行く気は無い」

『じゃあそっちに行く』

「来なくていい。とてもじゃないが、お嬢様を持て成すなんて不可能だからな」

『お嬢様じゃないし、そんなの要らないって』


 来てくれない、行きたくても断られる。悲し過ぎると言ってるな。

 身分差なんて無いのに気にし過ぎる、と文句垂れてるし。そっちがそう思ってもな、現実に乗り越えられない、そびえ立つ壁があるんだよ。

 さすがはお嬢様だ、世間知らずって言葉がぴったりだな。


 暫しやり取りしていたが、勉強したいからと言って電話を強制終了した。

 怨嗟の声が聞こえていたが知らん。


 翌日、やっぱり駅で待ち伏せる鴻池さんが居た。

 手提げのバッグも持参してるってことは、それに弁当が入ってるってことか。


「作ってきたから」

「それこそ余計なお世話なんだがな」

「お昼、炭水化物ばっかりでしょ」


 親も子どもの成長を考えるなら、もう少し気を遣うべきだとか言ってる。

 遣える気があるなら遣ってるだろうよ。それすら難しい程に貧乏なんだっての。働いて稼がないと日々の生活も困窮するんだよ。

 俺の学費で悲鳴上げてる状態なんだし。まあ、その辺は自分の努力不足って奴だろう。もっと成績が良ければ苦労させずに済んだ。そもそもは公立を落ちたのが原因だし。

 俺がバカだから親も苦労する羽目になった。


「ってことだ」

「そんなに苦しいの?」

「貧乏だって言ったぞ」

「ごめんね。でも、だったら尚更、あたしにできることはしたい」


 しなくていいんだがな。


 学校に着くと「お弁当食べてよね」と言われ、各々の教室に向かう。

 教室に入ると孤立感を感じるなあ。友だちと思っていた連中、みんな離れたし。嫉妬深すぎるっての。

 自分の席に着くと講習の準備を済ませておく。

 男子が二人ばかり傍に寄ってくるようだ。友だちと思っていた連中だな。

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