Sid.19 相談するも未解決

 分かってはいたが、生徒同士のトラブルなんて解決する意思無し。

 例え虐めであっても鴻池さんのように、多額の寄付金でも出さない限りは、どうでもいい存在でしか無い。

 ま、学校の本音はトラブルを起こすなら、自主退学してくれ、ってなものだろうよ。

 もういいです、と言うと「解消したの? それならいいけど、もしそうじゃないなら」などと言う。


「本当に、もう結構です。学校は関与しないと理解したので」


 なんか少しイラっとしてそうな。カウンセラーが先にイライラしてどうするんだよ。結局は、面倒なことを持ち込んでおきながら、要らないとか我がままだ、と思ってるんだろうよ。所詮はパートタイマーだろ。責任感なんてあるわけも無い。

 相談しましたって体裁があれば、それでいいんだから。


「あのね、被害者の証言だけだと追及が難しいの。それは理解してくれる?」


 せめて目撃者が居て証言してくれればいいが、居ないとなると被害の立証が困難。

 やる気が無いわけじゃないと正当化を図ってる。


「相談した事実があれば、カウンセラーは仕事をした。それで充分ですよね。こっちもそれ以上は期待しません」


 呆れてる。

 椅子の背もたれに背を預けると、軽くため息を吐き、また少し体を起こしてる。

 

「もうひとりの当事者にも話を聞きたいんだけど」

「もうひとり?」

「あなたと付き合ってるっていう子」


 鴻池さんか。

 あれはジョーカーみたいなものだ。状況を一気に引っ繰り返せるが、それだと結局は鴻池さんの力で解決したってことでしかない。

 安易に使うものじゃないし、借りをこれ以上作りたく無いし。すでに声優部と弁当に昼飯で借り三つ。返せない借りを作り続けても、自分にプレッシャーが伸し掛かるだけだ。

 となると。


「彼女は関係ありません」

「見てないの?」

「見てないです」

「何も知らない?」


 知ってる。だからこそ使えない。


「知らないです。相談する気も無いですし」

「そう」


 そうなると現時点では様子を見るしかない、と言ってるな。

 だから期待してないっての。幾ら陰湿な虐めをする奴らでも、多少は知能もあるわけで。簡単にバレるようなことはしないだろ。

 人目につくように堂々とやる根性も無いだろうし。所詮は卑怯者だからな。


「繰り返すようだけど、本当に彼女は知らないの?」

「教えてません」

「鴻池さんでしょ。有名だものね」


 男子生徒の憧れの存在。そんな子と付き合ってる、となれば嫉妬もあるだろうと。

 結果、嫌がらせをする人も居ないとは限らない。被害を生じてるのは確かであっても、加害者が認めず証拠も無いとなれば、現状お手上げ。


「だからこそ、聞いておきたかったんだけど」


 知らないはずはない、と見ているらしい。

 だから使えないんだよ。悪手になりかねないんだから。権力の権化みたいな存在を使えば、楽に解決できるだろうけど。それだと俺の居場所は校内に無くなる。

 鴻池さんに従うのであって、俺じゃないからな。俺は村八分だ。


「当事者のあなたが、いいと言うならば、とりあえず様子を見るに留めるけど」


 もし今後も続くようなら、きちんと相談しなさい、だそうだ。


「学校側としても進学校でありながら、虐めなんて発生しているようだと今後に影響するから」


 虐めをする生徒に対して厳しく臨んでいるらしい。

 決して放置はしないから、まだ何かあるようであれば、報告なり相談しなさいと言われた。

 一応、呼び出した生徒には忠告してあるらしい。


「最低でも停学一週間。度が過ぎると判断すれば退学もあるって」


 学校の評価を落とす行為は断じて許さないそうだ。結局は教員の監督不行き届き、と世間は見るから。だから神経を尖らせるのだとかで。

 私立校だから生徒が減れば存続も危うくなる。ゆえに厳しくするってことだ。

 道理で。

 態度や視線は相変わらずだけど、暴行や悪戯は無くなってるわけだ。

 でも、精神的なきつさは変わらないな。行動しないだけでクラス内でハブられてるし。


 何が進学校だよ。

 勉強がちょっとできるだけのバカしか居ねえ。金だけ持ったバカ二世やら三世だらけだ。人格形成に失敗してるんだろうよ。甘やかされ過ぎてて。


 何かあれば対処するから、相談しに来なさいと言われ解放された。


 カウンセリングルームをあとにして、鴻池さんが待つラウンジへと足を運ぶ。

 ラウンジに着くと、椅子に腰掛け本を読んでる鴻池さんが居る。傍に行くと気付いたようで「あ、どうだった?」と聞いてきた。


「虐めとかトラブルに関して、学校としては厳しく対処するんだそうだ」

「そうなんだ。それで、解決したの?」

「してない。認めるわけ無いし」

「だよね。じゃあどうするの?」


 忠告だけはしてあるから、これ以上、直接的に何かをすることは無いだろう。


「何かあれば次は鴻池さんも呼ばれると思う」

「名前」

「え」

「綾乃って呼んでよ」


 どうして名字でしか呼んでくれないのかと、寂しそうな表情をしてる。

 壁を作らず対等な関係で居たいそうだ。無理。壁を作るんじゃなくて、最初から破壊不可能な壁が存在してるのだから。乗り越えることもできない壁だっての。

 異世界ファンタジーみたいにチートな能力でもない限りはな。

 あれは楽だよなあ。なんでもありだし。

 現実は厳しい。


「俺が対等になれた、と思ったら呼べると思う」

「違うって。自分を下げ過ぎてる」

「上げる要素が皆無だっての」


 とりあえず学校に残っていても仕方ない、ってことでファストフードに行こうとなった。

 向かう間も指を絡めて「自己否定も過ぎると本当に駄目人間になるよ」とか言ってるな。


「自信、持っていいのに」

「根拠が無いからな」

「あたしが好きになった。じゃ駄目なの?」


 校内随一の美少女が惚れた相手。普通なら鼻高々だろうに、どうして自分下げが凄まじいのかと。

 とは言え、それで増長もしないのはいいけど、だそうだ。


「もっと距離を縮めたいのに」


 物凄く距離を感じることが、ままあって親しくなれた気がしないと。


「やっぱりあれかなあ」

「なんだよ」

「体の結び付きかなあ」

「ねえぞ」


 俺の人生を終わらせたいなら、それもありだけどな。

 確実に鴻池さんの両親に殺される。犯した罪は万死に値するってなもので。絶対に許されないだろ。

 人知れず海の底なんてのは勘弁だ。

 ぎゅっと力が籠る指先。こっちを見て「成功体験が少ないのかな」と、もっともらしいことまで言い出した。

 短い人生失敗だらけだからな。

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