Sid.17 食事は大切らしい
夏休みに入り夏期講習初日となった。
母さんは弁当を用意せず金を渡してくる。
「夏期講習中のお昼代だからね、無駄遣いしないでよ」
手渡された紙幣は万券一枚。
よくよく考えたら夏の間は学食も購買も休み。つまりはコンビニやスーパーで、食い物を調達する必要がある。学校に行く途中にはコンビニがあるから、そこで総菜パンでも買えってことだろう。
金無いなら手作り弁当を用意すりゃいいのに。いや、俺が作ればいいのか。
作れないけどな。晩飯を余らせてくれれば、それを詰めて持って行けるんだが。その方が節約になると思うんだがなあ。
まあいいや。
大学も私立となると掛かる費用は莫大だろうし。
そのための資金を得るために、仕事を頑張ってくれてるんだろう。
日本は教育に金掛かり過ぎる。それもこれも政治家が教育に予算を割かないからだ。とにかく渋る。その割には税金として尻の毛まで抜き取る。自分たちが使う金は青天井の癖に。あいつらひとり残らず駆除した方がいい。日本にとって害にしかなって無いぞ。
なんで有権者は文句言わないんだ?
そう言えば最近、異次元の少子化対策とか言って、ブライダル補助金とか言い出してたな。すげえぞ。ある意味、異次元だ。誰がそんなことを想像しただろうかって。頭おかしいにも程がある。バカしか居ないのかよ、政治家ってのは。
それか利権に群がるクソ虫なのか。ああ、そっちの方がしっくりくるな。
濡れ手で粟ってのは、政治家にとって旨味だらけだな。
日本が滅ぶぞ。そんな奴らに政治をやらせていると。
家を出て電車に乗り学校最寄り駅に着くと、改札前で待ち構える存在が居る。
夏期講習を受けるんだろうけど、教室は別だぞ。国公立と、ただの文系特進だからな。対策内容が違うんだし。
それでも合流し指が絡むわけで。
「あ、あのね」
正面を向いたまま何か言いたそうだ。
「行かないぞ」
俺の言葉にこっちを向いて慌ててるし。
「だ、まだ何も」
「そもそも交際してることを言ったのか?」
「まだ」
俺が散々身分差を持ち出すことで、言い出し難くなってるそうだ。
本当に俺の言う通りならば、確実に反対されるわけで。それでも親を信じているなら、言えばいいし、その結果別れろとなれば已む無しだろ。
俺が努力して仮に最難関校に行けたとしても、その後、滞りなく授業に付いて行けなければ落ち零れて卒業すら危うくなる。
地頭の良し悪しってのはあるんだから。
「さらに先の話もしておこう」
「何?」
「大学を出たとして、就職先だよ」
大企業の経営者の娘。それだけでも上級国民であらせられるわけだ。凡人で下民如きが隣に並ぶのを許すわけもない。
その格差を埋めるためには、俺自身が大企業に勤め経営者になる必要がある。
絶対不可能だ。つまり埋められない格差ってのもあるわけで。
努力が足りない? バカ抜かせってなもので。努力で誰もが大企業の経営者になれるのか? なれてないだろ。世の中には努力と言っておけば、なんでも正しいと思うバカが多過ぎる。
「あらせられるって、何」
「上級国民様だからな」
「何それ。あたしそんなんじゃないよ」
またも機嫌を損ねてるようだ。膨れっ面を晒し「変な壁を作って欲しくない」そうだ。
親は確かに特別な存在かもしれないが、自分はそこに至ってるわけでも無い。ただ、その親の元に生まれただけで、中身はそこらの女子高生だと。
妙な色眼鏡で見ないで、自分自身を見て欲しいそうだ。
学校に着くと各々の教室へ向かうが、やっぱり誘ってくる。
「終わったら、この前行けなかったファストフード、どうかな」
どうあってもデート気分を味わいたいのか。夏休みだから混雑してそうだけどな。
「店が暇そうだったら」
「暇そうって」
「夏休み中だろ。混雑するぞ」
「あ、そう、かも」
それでもとりあえず、店に行ってみようとなった。
金無いんだよ。ファストフードに行ってもドリンク一杯で粘るしかないし。なんか食ってるのを見たら、食いたくもなるだろうし。だが、先立つ物は無い。
貧乏だ。
午前中の講習が済み、昼休みになると教室をあとにするが。
「佑真君。お昼どうするの?」
「コンビニで惣菜パン」
「お弁当持ってきてないの?」
「あるわけがない」
暑さで腐る。それ以前に用意されない。欲しけりゃ自分で用意しろってことだし。
それを言うと。
「愛されて無いんだ」
「まあ、その辺はどうか知らんが、学費を捻出するためだし」
「そんなにお金に困ってる?」
私立高校に行くことになって、予定が狂ったからだろうなあ。本来ならば公立高校で出費を抑え大学進学に備えるつもりだった。しかし、俺がバカ過ぎて落ちたせいで、親は余計な苦労を背負う羽目に陥ったと。
親ガチャか。鴻池さんの家のように金があれば、何も考えずに好きに進学先を選べるんだろうよ。家庭教師を付けるのも、塾だろうと予備校だろうと、金掛け放題だ。
「私立校で金掛かってる。それに大学の費用も考えるとな」
「奨学金は?」
「借金だろ。そんなものまで背負わせる気は無いらしいぞ」
「じゃあ、愛されてるんだね」
まあ、そうなんだろうな。学生の内から借金を背負わせる気は無い、ってことで。
給付型なら返す必要も無いけど、それこそ成績優秀者じゃないと。怠ける奴に出す金は無いし審査は厳しいし。
「鴻池さんは」
「何で名前で呼んでくれないの」
「言いづらい」
「全然、距離が縮まらない」
常に何歩も引かれてると感じるそうだ。
自覚あるし。距離なんて永遠に縮まらない。身分の差を埋められない限りはな。
「弁当?」
「そうだけど」
「じゃあ、コンビニ行ってくるわ」
早くしないと午後の講習が始まるからな。
エントランスで別れて、と思ったら付いて来るし。
「飯食わないと時間無くなるぞ」
「何買うのかなって」
「そんなの放っておけっての」
「気になるでしょ」
結局、コンビニまで付いて来るし。飯食うの遅いんだから、さっさと食ってればいいのに。
コンビニの総菜パンコーナーを物色していると、背中を小突かれた。
「なんだよ」
「これにしようよ」
鴻池さんが手にしてるのは幕の内弁当だ。
「金無いって言ってるだろ」
「出すよ」
「は?」
「このくらいなら出すから、ちゃんとしたもの食べようよ」
普段から昼飯が粗末すぎると。学生もまた体が資本だとか言ってるし。
それと健全な成長にバランスの良い食事は欠かせないとか。
お節介と言うか、金に飽かせてと言うか。
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