Sid.8 偽装解消を目論む
見た目で判断する連中には、物事の本質を見抜く目は無い、とも言ってる。
見ようともしないし、最初から曇った目で見るから、見えるものも見えない。でもそれが普通の人だと言う。勉強は人格形成のためのものじゃない。だから、進学校に通ってるからと言って、人格も優れているとは限らないと言う。
軽く後ろを振り返り「あなたたちのことだから」と言ってるし。敵作ってどうするのさ。
俺に視線を寄越すと「クラスで文句言われてるの?」と聞いてきた。
詰め寄る連中複数。遠巻きに困惑や懐疑の目で見る奴多数。教室の外に出ると暴行に及ぶ奴多数。
それを言うと、俯き悲しげな表情になり「なんかごめんね」だそうだ。
前を向くと「この学校、もっと真面な生徒が多いと思ってた」と言う。
「ここまでバカが多いとは思わなかった」
偏差値で言えば六十八はある。そんな学校でさえも、バカしか居ないのかと嘆いてるし。
「嫉妬心とかって人の目を濁らせるんだよね」
嫉妬なんてしても自身の成長は無い。むしろ自分を相手に選ばなかったことを後悔させてやるなんて、前に進む原動力に変えることができれば、もっと優秀な存在に至れるのにと。
一応、俺なんかに気を遣ってくれるのか。まあ、実際問題、自分の付き合ってる相手を扱き下ろされれば、怒って当然だけど。でも所詮は偽装なんだよね。意味無いよなあ。ストレスばっかり抱え込んで。
それにしても、祝福できる程に優秀な存在は居ないようだ。
まさにバカしか居ないのが、この学校なんだな。つくづく偏差値って、意味の無い数字だよなあ。
また後ろを振り返る鴻池さんだけど「分かってないみたい」とか言ってる。
「理解するだけの頭、持ってないんだね」
これ、偽装で友だち減らすことになるでしょ。それでいいのか?
本当に付き合ってるなら、理解しない奴なんて切り捨ててもいいと思うけど。でも実態は違うし、あくまで弾除けに俺を使ってるだけ。友人を減らすリスクを背負う価値があるとは思えない。
いいのかよ。こんなんで。
駅に着くと改札を抜けるが、後ろに居た女子を完全に無視してるようだ。
「じゃあ、また明日」
「あ、うん」
手を振ってホームに向かう鴻池さんった。
軽く周囲を見回すと女子連中、不満そうだよなあ。言われて当然のことだと思うけど、相手が俺ってことで納得できないんだろうね。
人望皆無だよ、俺って。
ホームに向かい立つと正面に鴻池さん居るし、手を振ってるし。
偽装とは言えよくやる。そこまでしてもメリットって、男子からの告白を減らせる程度だろうに。俺の場合はメリット皆無だけど。デメリットばかりで、なんか挫けそうだ。
家に帰っても相変わらず誰も居ない。
共働きで学費ばっかり高額で、低レベルな生徒の溜まり場って。なんかすごく無駄なことをしてる気になる。
偏差値とか通いやすさで選んだけど、もうひとつ判断材料が欲しいよなあ。
数字には出ないもの。大事なのって、そこにあると思う。
あ、そうだ。
鴻池さんには悪いけど、偽装恋人の件、解消したいと言ってみるか。
登下校時には言えないし、DMで飛ばせばいいか。
スマホを取り出し解消の件を伝えると、即座に返信が来たようだ。
『あたしも想定外だった。ごめん。でもね、解消する必要無いから』
分からん。解消しないと俺のダメージが半端無いんだって。
どいつもこいつも、まじでバカしかいないんだから。自らを高みに持って行く、じゃなくて楽な叩き落とす方に向くんだよ。勉強だけできる奴の欠点だよな。
人格形成もろくにせず、成績向上を至上命題にした結果なんだろう。中身を鍛え損ねた奴しか居ない。親の育て方が悪いんだろうな。勉強してれば良い子って。他人への気遣いが無いから、平気で人を踏み躙る奴ばかりだ。そいつらの親も同じ人種だろうな。親から子へ受け継がれる。結果的に負の連鎖が止まらない。社会もまた学歴至上主義。学歴さえあれば賢いって風潮を作ってるのだから。
中身なんてどうでもいいわけだ。
やっぱり解消したいし、俺がいじめに遭うと伝えると。
『守る。あたしが全力で守るから』
無理でしょ。クラス違うし、登下校時と昼くらいしか一緒に居ないし。あとはあれか、部活程度。部活だって夏休み中はほとんど無いし。夏期講習だらけで。
無理だ、と伝えるが拒絶された。
解消する必要は無い。いずれ本当の恋人になれるよう、今踏ん張って頑張ればいいとか言ってるよ。
気楽だな。頂点の隣に立つに相応しい存在なんて、そう簡単になれるものじゃないでしょ。ましてや俺。最底辺と認識されてるんだから。不可能なことってあると思うけどね。
やっぱDMじゃ面倒だし、気持ちは充分に伝わらない。
明日、何とか隙を見て言うしか無いか。
翌日、学校最寄り駅に着き改札まで行くと、鴻池さんが多数の生徒に囲まれてるし。
あいつら、どうせなんで俺と付き合ってる、なんて詰問してるんだろうな。
弾除けの役割、果たすしか無いか。でもあとで報復が凄くなりそうだ。
傍まで行くと自分に出せる一番低い声で唸るように、邪魔なんだよ、と言うと。
一斉に振り返り、なんか驚いた表情してる。傍まで来ても気付かれないって、存在感乏しいんだな。
「あ、佑真君」
鴻池さんが気付いて「あ、みんなごめんね。なんか勘違いしてるみたいだから」って、何を勘違い?
傍に来て俺の手を取り「ここに居る子は真面だから」と言ってる。真面?
「ちゃんとした人。祝福してくれる人だから大丈夫」
「えっと。分からん」
「だからね、嫉妬とか猜疑心に塗れた、バカじゃないってこと」
取り囲んでいた連中を見ると「凄いね」とか「別にいじめてないから」とか「男らしいところあるじゃん」とか言ってるし。
「守る気概があるなら本物だよな」
「うん、少し逞しく見えたし」
「付き合ったってのより、今の方が驚いたよ」
少し話をしてみると「鴻池さんを射止めたんだから、自信持ちなよ」って言われた。
男子も数人混じっているが、概ね鴻池さんに彼氏ができて、逆に安堵したって感じらしい。
「悪評ばっかり広まって、結構しんどかったらしいよ」
知らなかった。
でも、確かに気にしてそうだったな。
さすがに全員がバカじゃなかったってことか。真面な思考ができる人も居る。
となるとあれか、鴻池さんと偽装解消って、どうしよう?
しっかり指を絡め手を握って「学校行くよ」と言って歩き出す鴻池さんだ。
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