Sid.2 お嬢様は幽霊部員

 所属する部には一切顔を出さない。

 男子に理由を聞いても分からず。それも当然で鴻池さんは、男子とは一切口を利かないからだ。

 迂闊に近寄り声を掛けようものならば、罵詈雑言の嵐に晒されるってのは、すでに男子の間で共通認識となっている。見た目と異なり口幅ったい、とでも言えばいいのか。それでもモテる。見た目が優れ過ぎてるからだろう。

 ただ、中身は最悪なようだ。


 女子に顔を出さない理由を尋ねると。


「知らないけど」

「聞いても答えないし」


 だそうだ。

 少しだけ、ほんの少しだけ親しい女子が部に居る。その子に聞いてみると「男子が居るからだと思うよ」だそうで。女子だけの部活であれば、確実に顔を出すであろう。しかし、男子が居ることで部活に参加できない。

 アニメとか男子の方が好きだし、活発に活動するからなあ。

 声優に関しては男女関係無いけど。


 むしろ女子に声フェチが多い印象も。

 イケボに嵌まる女子は多いようだからなあ。


 因みに部の顧問である教員もまた、無理に参加させる気は無いみたいだ。


「勉学に励んでいるならそれで良し」


 だそうで。

 部活動なんかで時間を潰さず、国立の最難関校を目指してくれれば、それに越したことは無いらしい。

 国立で最難関校って日本だと二校に絞られるけど。聞けば、いずれは海外の大学留学を目指してる、らしい。まあ、Oxbridgeだろうけど。大企業の経営者令嬢に相応しい学歴を有すること、ってのがあるからだとか。

 それだと、この学校に居る理由の説明が付かないけどなあ。

 だって、この学校から私立国公立併せても、最難関校へ進学した人って、それほど多くないみたいだし。

 進学校とは言っても多少優れてる程度。上には上が幾らでもある。


 まあいいや。

 俺には未来永劫、縁のない存在だ。罵詈雑言浴びせられるのも御免被るし。

 鑑賞価値だけは高いから、遠目に眺める程度がいい。


 さて、声優部だけど、部室はAL室をPC部と交互に使う。

 月、水曜日はPC部。火、木、土曜日が声優部って具合に。あ、うちの学校、土曜日も授業がある。進学校で土曜日休みなんて、あり得ないわけで。

 部員数は作画で五名。役者が四名。幽霊部員一名だけど人数には含まない。

 役者は作画のお手伝いも兼務する。作画もまた群衆なんかの声をやってるわけで。その辺は互いに持ちつ持たれつ。

 人数少ないからね。


 そして今日は企画会議。

 文化祭に向けての作品作り。シナリオやキャラ設定をするわけで。

 AL室にある机を並べて囲み、手にはスマホを持ち検索しつつネタを考える。各々一応は真剣な表情を見せるけど沈黙が続く。


「いろいろアイデアを出して欲しい」


 部長の言葉でネタ出しをするけど、多くはファンタジー系。

 魔王とお姫様、なんてゲームシナリオで出尽くした感が。冒険者パーティーをクビになって、最強になってざまぁとか。悪役令嬢ものとか。

 ありきたり感が凄い。二番煎じどころか千番煎じくらいか。薄まりすぎて味がしない、ただの水。


 悪役令嬢なら鴻池さんが適任かもね。

 男子の評判を聞くと。女子はまた違った評判になるようだけど。

 出てこないから意味無いな。


「鬼退治とか」

「桃太郎かよ」

「じゃなくて、和風剣戟奇譚」

「どっかで見たことが」


 そのネタはアウトだろうなあ。パクリになるでしょ。


「やっぱ悪役令嬢」

「鴻池さん来ないけど」

「女子に連れて来てもらう」

「難しいと思うよ」


 鴻池さん主演の悪役令嬢なら、男子が集まること間違いなし、だろうなあ。問題は鴻池さんを出せるか否かにかかる。でも、悪役令嬢なんて引き受けるとも思えない。

 実際令嬢だし、悪態吐かせたら天下一品らしいし、本物の悪役令嬢になっちゃうでしょ。

 シナリオ次第では実はいい人でした、とか。


 ああでも、作画する連中、あんまり絵は上手くないんだよね。勉強三昧の生徒が集まる学校なだけに、手先まで器用で絵心のある生徒って、殆ど来ないでしょ。

 他所の学校なら雑用係程度の扱い。

 鴻池さんを不細工に描いたら、それだけで三日三晩罵詈雑言、浴びせられるかもね。


「じゃあ、鬼退治する悪役令嬢」

「なんだそれ」

「異世界に転生したら悪役令嬢で、なぜか鬼退治する役割を与えられて」


 悪役令嬢の冒険奇譚だそうで。

 鴻池さんが来なくても、女子部員は居るから主演を任せ、王子様役やら勇者だの用意すれば、なんて言ってるし。

 結局、それで決まったようだ。

 他に面白そうなネタが無いってことで。


 次は具体的にシナリオを作り、キャラを作ったりは作画の仕事で、配役に関しては話し合いで。


「三十分くらいの話に纏めるから」

「もう少し長くても」

「作画が間に合わないでしょ」


 何しろ作画には時間が掛かる。動画を作るとなれば、例えCGであっても相当な時間が必要。三十分でも作りきれないかも、だそうだ。


「今は目が肥えてるからね。安っぽいCGだと見てくれない」


 時短で作れば安っぽくなる。時間を掛ければ相応のものに。その中間程度を目指すらしい。PC部の協力を得ればCGも、凝ったものになるらしいけど、向こうは向こうで発表するものがあるわけで。こっちに感けていられないってのがね。

 声優の方はでき上がった絵に声を当てるだけだし。少々テイクが増しても作画ほどに時間は掛からない。台本読むだけ。感情込めてってのはあるにしても。


「作品の発表は例年通りAL室を使うから」


 AL室、即ちアクティブラーニング室ってこと。

 その部屋の半分を声優部が占有し、残り半分をPC部が使う。観客数は最大でも三十人が限界かな。過去、全部埋まったことは無いらしい。文化祭の花形と言えば、軽音部や吹奏楽部だしなあ。それと模擬店とか。

 あっちは目立つ。


 部活が終わると帰宅する。

 家に帰っても早い時間帯に親は居ない。俺が私立校に入学したことで、共働きじゃないと生計の維持が困難らしい。

 母さんは専業主婦を目論んでいたが、見事に粉砕されパートに出る毎日だとか。

 父さんの稼ぎがもう少しよければ、なんて度々聞かされたけど。愚痴っても仕方ないから、俺には心配せず勉学に励めと。


 冷蔵庫を開けると夕飯が入ってる。朝の内に夜の分を作っておくからだ。

 レンチンして食って部屋で勉強していると、母さんが帰宅し続いて父さんも帰宅する。

 親の顔を見たら再び部屋で勉強三昧。

 そして朝になれば朝食を済ませ登校するの繰り返し。

 俺の青春って、なんか虚しさを感じるなあ。

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