第2話-少年の話

 「今日もいい天気だな」


 僕は何時もの様に川辺で空を眺めている。

 雲がある空、何もない真っ青な空、日によって違う空を眺めているのが僕は好きだ。


 「あーまたそんな所でボーっとしてるっ。」


 赤い髪の元気な女の子の声が聞こえる。


 「ちょっとっシン!聞こえてるなら返事くらいしなさいよっ」


 あっ僕に話しかけていたんだ。


 「何?シャル。」

 「何?じゃないわよっ、いつもいつも空ばかり見て何しているのよっ」

 「うーん。雲を見てるんだよ。」

 「あっそ。そんなことより、おじさんがそろそろ帰ってくるから行くわよっ」

 「あー。もうそんな時間かー。」

 「だああぁもうっ!シャキッとしなさいよっ今日から村の手伝いをするんでしょっ」


 そうだった。今月から僕は4歳だ。

 村では4歳の月から村の手伝いをする仕来りで、春の2月(ふたつき)から僕も手伝いをすることになっていた。

 どんな手伝いをするのかな。


 「ボーっとしてないで、さっさと行くわよっ!」


 シャルは僕の手を引いて村の広場へ引っ張っていく。





 僕の名前は「シン」。村の狩人頭の息子だ。

 そして僕の手を引く、赤い髪で赤い目の女の子はシャルだ。

 シャルと僕は同い年だけど、シャルの方が僕より誕生日が遅い。

 でも、なぜか今月から村の手伝いをすることになっている。


 「シャルは、どうして今月から手伝いをするの?」

 「はぁ。シンよりあたしの方がしっかりしてるんだから誕生日何て気にする必要ないじゃないっ」

 「そうだけど、そんなに手伝いがしたかったの?」

 「そうよっ何か文句でもあるのっ!?」

 「何もないよ。」


 シャルに引っ張られ村の広場へ来ると、人だかりが出来ていた。

 春は獲物が多いとお父さんが言っていたので、大量だったのかもしれない。

 久しぶりに新鮮なお肉が食べれるかもと思うと、楽しみになってきた。



 広場に着くとビックボア、ウッドディアーの中型の魔獣やハーブ、山菜などの植物が山の様に置かれている。

 1匹明らかにサイズが他と違うビックボアがあった。


 「すごい!こんな大きなビッグボア誰が狩ったのっ!?」

 「シャル。。手っ手を放して」


 大きなビッグボアに興奮して大はしゃぎで跳ね回るのはいいけど、僕の手を放してからにしてほしい。

 シャルは力が強いから僕何て簡単に振り回せてしまう。


 「おーおー今日も元気いっぱいで、仲良しだなシンにシャルちゃんは!」

 「おじさん!このビッグボア誰が狩ったのっ?」

 「これは俺が狩ったビッグボアだ。大きすぎて運ぶのが大変だって皆には不評だったがな。」


 僕を一飲み出来そうな大きなビッグボアはお父さんが狩ったんだ。

 大きなビックボアを眺めていると、鼻先が焦げているのを見つけた。


 「お父さん、鼻のここ焦げてるよ。」

 「おっ目ざといな。少々暴れたからな火魔法で牽制したら焦げちまったよ。」

 「えー。鼻美味しいのに、もったいないよー」

 「そうよっ!魔法の出力調整が下手なのに、どうして火魔法何て使うのよ!」


 横からお母さんが現れて、僕と一緒にお父さんへ文句を言う。

 もっとお母さんにはお父さんを叱ってもらわないと。

 せっかくの美味しくて、こんな大きな鼻を焦がすなんて持ったない。


 「薬屋ー。傷薬をあっちの狩人たちに渡してくれー。」

 「私は薬屋ではありません!ってどこですかー。」


 別の村人から薬を頼まれてお母さんはどこかに行ってしまった。

 お母さんは昔ポーションを作るお仕事をしていたらしいけど、詳しくは教えてくれない。

 お父さんが話そうとすると、怖い笑顔でニコニコして話が終わる。


 「さぁおチビたちは、あっちで薬草の仕分けをしてこい。やり方はリュカに聞け。」

 「えー私お肉の方がいいっ。」

 「もっと大きく力強くなったらな。ほら行った行った。」


 今度は僕がシャルを引きながら薬草の山に向かうことする。

 むくれ顔でついてくるシェルはちょっと面白いな。


 「何ニヤニヤしてるのよっ。」

 「シャルが面白いからだよ。ほや手伝い頑張ろうね。」


 ハーブのところに行くとリュカが手伝いを始めていた。


 「リュカー。今日から僕とシャルも手伝いするよー。」

 「あぁいらっしゃぁい。じゃあぁ。まずは、このハーブを籠に入れてくれるぅ」


 まったりと柔らかく話す人がリュカだ。

 白に近い水色の神に緑の目で肌は白く、線が細い女の子の様にしか見えないが、リュカは男の子だ。

 僕とシャルより2歳上だから、この手伝いも慣れた手つきでやっている。

 話し方と異なり、凄い速さでハーブを仕分けているのが、ちょっと面白い。


 「リュカ。これは何て言う草っ?」

 「シャルちゃん。これはポキアハーブだよぉ。ポキアハーブは毒消しのポーションの原料でぇ、あっちの籠に纏めてるよぉ」


 ハーブの仕分けながらシャルの質問に答えている。

 絶対に見てないのにどうして仕分けがしっかり出来ているの!?

 ベテランのおばさんたちより、絶対にリュカの方が仕分けが早いよ。


 「シンくん。手が止まってるよぉ」

 「リュカからしたら、全員が止まってるように見えるだけだよ。」

 「ええぇー!?そんなことないよぉ。まったくもうぅ」


 リュカにハーブの種類、仕分けを教えてもらいつつ、今日の手伝いは終わった。

 これから週に1回の手伝いを続けても、リュカの様になれる気が全くしない、僕だった。


-----


 手伝いは昼までに終わり家に帰る。

 午後からはリュカがお母さんにポーション作りを教えてもらうらしく、リュカも一緒だ。

 シャルも午後からは暇だったので一緒だ。


 5人でお昼ご飯を済ませた後、リュカとお母さんはポーション作りの準備、お父さんは外で稽古を始め、シャルも一緒に稽古を始めた。

 僕は、本を読むことにする。


 紙の本は貴重で、家にあるのは羊皮紙の本だ。

 これも貴重なのだけど、お母さんが若いころにいっぱい集めたらしい。

 今日の本は魔法の本だ。


 魔法は、普段の生活で役に立つスキルの事だ。

 マナってのを使って、火、水、風、土、光を出すことが出来る。

 火は薪を燃やせる程度の種火で、水は飲み水が出せるものを魔法と呼ぶ。


 「ウォーター」


 リュカが魔法名を唱えて、僕の頭くらいの大きさの水玉を出し鍋に注いでいる。

 井戸まで水を汲みに行くことが無いのでとても楽そうだ。


 魔法はイメージが大切で、イメージが出来て、それぞれの適性があれば魔法名だけで出すことが出来る。

 皆が魔法を使えるわけではなく、マナ適正がある人だけが使える。


 魔法を使い続けることで、魔術の基本スキルを覚えることも出来るが、魔術はマナ適正が更にある人だけ覚えることが出来る。


 「お母さん。僕も魔法を使いたい。」

 「魔法?」

 「うん。リュカみたいにお水出したり、お父さんみたいに火を出したりしたい。」

 「うーん。教えてあげてもいいけど、1つだけお母さんと約束できる?」

 「出来る!約束って何?」

 「魔法を使う時はお母さんかお父さんが一緒にいる時だけ、使う時は絶対に呼ぶこと。一人で勝手に使っちゃだめだからね。」

 「わかった!」

 「じゃあまずは、マナを動かす練習からね。」

 「直ぐにお水出せないの?」

 「そうよ。マナを動かせないと魔法は使えないからね。」

 「マナってどうやって動かすの?」

 「シンくん、ボクが教えてあげるぅ。まずはボクの両手をもってぇ」


 リュカに言われた通り両手を繋ぐ。

 リュカがニコっと笑って続ける。


 「今からぁボクのマナをシンくんに流すね。流れが分かったら教えてぇ」


 リュカの手が少し暖かく感じるようになった。

 その温かいのが僕の腕に流れてくるのが分かる。


 「暖かいのが腕まで来たよ。」

 「うん。マナを感じることが出来ているねぇ。じゃあ、そのマナをおへそのところまで動かせるかな?」

 「おへそ?」


 リュカは手を放したが暖かいのは、まだ腕に残っている。

 それをおへそに動かす。


 「…わかんない。。。。」

 「そうだよねぇ。初めてだと分からないよねぇ」

 「でも、シンはマナを感じることが出来るから、すぐにできるようになるわよ。今のはリュカのマナだけど、次は自分のマナを感じるところから覚えていこうね。」

 「自分のマナ?」

 「そうよ。マナは体中に流れているから、今の暖かい感じを覚えておけば自分のマナも分かるようになるわ。動かすイメージは粘りっけのあるお水を流すイメージをするよ良いわよ。」

 「お水を流すイメージ。。。僕頑張る!」


 リュカのマナはまだ腕に残っている感じはするけど、だんだん暖かいのが無くなっていく。

 でも、少しだけ残っている感じがするから、これが僕のマナなのかな?






 「シンっそこで何ボーっとしているのよっ」


 外に出て手のマナを確かめているとシャルが話しかけてきた。


 「マナを確かめてるんだよ。」

 「マナって何よっいつもと一緒でボーっとしているだけじゃないっ」

 「シャルちゃん、マナってのはな。魔法を使うための力の事だ。」

 「そうなのねっ。あたしは分からないわっ」

 「大丈夫だ!魔法が使えなくても力があればなんとかなる!」

 「そうよねっ。シンも難しいこと考えないで体を鍛えなさいっ」

 「そうだぞ!シン、一緒に筋トレするか!?」


 じりじりと僕に近づいてくる二人。

 とても怖い。泣きそうだ。。。。


 「こらっ!脳筋共!シンをいじめないの!それ以上すると、さっきできたちょっとお腹を壊すかもしれないポーション飲ませるわよ!」

 「腹壊すはポーションじゃなくて、ボトルだろ!」

 「壊す”かも”知れないだけで、傷は治るからポーションよ!」


 お父さんが、またお母さんに怒られている。

 今回はシャルも一緒に怒られている。

 そんな二人をほっといて、リュカにマナの事を聞きに僕は家に逃げることにする。






 それから夏が過ぎ、冬になった。

 あれからマナの感覚も覚えて、魔法を使えるようになった。

 お水はまだ、コップの半分くらいしか出せないけど、薪に火をつける程度の火を出せるようになった。


 「お母さん、暖炉に火をつけていい?」

 「いいわよー。」


 許可をもらえたから、薪を持ってきて暖炉に並べる。

 薪の隙間に藁を入れて、マナを練り魔法を唱える。


 「点火(イグニッション)」


 藁と薪に火が付き、メラメラと燃え広がる。

 火は暖かくて、ユラユラ揺れているのを見ると眠たくなってくる。


 「シン。ボーっとしてそのまま寝ないでね。火傷しちゃうから離れなさい。」


 そこまで僕もボーっとしてないもん。


 「あぁ寒い寒い。おっ暖炉に火入れてくれたのか。ありがとうなシン」


 ごつごつしたお父さんの手が僕の頭をゴシゴシ撫でる。

 僕はこれが好きだ。


 「4歳で魔法が使えるとは適性があるんだな。祝福の日が楽しみだ。」

 「祝福の日?」

 「あぁ祝福の日では、神様に祝福を受けて、力、魔力、知力の適性がある物に祝福を与えてくれて、成長しやすくしてくれる日だ。」

 「へー。僕は何に祝福もらえるかなー?」

 「シンなら魔力は貰えるだろうな。」

 「1つだけなの?」

 「いんや、適正があれば複数もらえるぞ。お母さんは魔力と知力って言ってたぞ。父さんは力だけだ。」


 笑いながら誇らしくお父さんは話を続けてくれる。


 「シンなら力ももらえるかもしれないぞ、なんせ父さんの息子だからな!」

 「シンは力と知力どっちがいいのかしら?」

 「うーんと、わかんない。」

 「はっはっは。そうだよな。どんな祝福でも悪いことはないから何でもいいっちゃいいな。」

 「そうね。力でも魔力でも知力でも何でもいいわ。やりたいこともそれに合わせて考えてもいいからね。」

 「リュカはどんな祝福だったの?」

 「リュカちゃんの祝福は見に行っていないから、わからないわ。今後リュカちゃんに聞きなさい。」

 「わかった。」


 祝福の日か。

 楽しみだなー。


-----


 今日は冬の3月、4の週、1年の終わりの週の初めに祝福の日がある。

 僕はゆっくり朝ごはんを食べていると、バタバタとお母さんが準備を進めている。

 

 「シンー。ご飯食べたらお父さん起こしてきてー」

 

 モグモグしながら、僕はうなずく。

 

 「ごちそうさまでした。」

 

 さて、お父さんを起こしに行こう。

 

 

 

 

 「ふあぁぁ。」

 「ほら、ジル!シャンとしなさい!」

 

 眠そうに眼をこすりながらトボトボと歩くお父さんと一緒に教会へ歩いていく。

 

 「シンくーん。おはよぉ」

 「おはよー。リュカー」

 

 教会の神父見習いのリュカと出会う。

 

 「シンくん。今日は頑張ろうねぇ」

 「頑張らないといけないの?」

 「うぅーん。お祈りするだけだからぁ、そこまで気にしなくていいよぉ」

 「わかったー。リュカの祝福ってどうだったの?」

 「ボクぅ?ボクは水色だったよ。」

 「水色?」

 

 水色ってなんだろ?

 色について疑問に思っていると、横からお母さんが話してくれる。

 

 「シン。祝福では水晶がいろんな色に光って、その光で何の祝福を貰えたかを判断できるのよ。」

 「そうなんだー。水色って何?」

 「水色は”魔力”と”知力”よ。”魔力”の方が強い祝福ねー。」

 「いろんな色があるんだー。」

 「そうだよぉ。”力”が赤色でぇ”魔力”が青色、”知力”が緑色なのぉ。シンくんは何色か楽しみだねぇ」

 

 祝福の話を続けていると、教会が見えてきた。

 教会の周りには人が多く、その人だかりから赤い何かがこっちに走ってくる。

 

 「シンっ!遅いじゃないっ」

 

 いつも通り元気いっぱいのシャルが大声を出しながら突撃をしてくる。

 

 「シャルは赤色だね。」

 「んっ?何の話っ?」

 「シャルちゃん。おはよぉ」

 「リュカおはよっ!っで赤色って何っ?」

 「祝福の色のことだよぉ。」

 「そうなのねっ。よくわからないわっ!あっ今日の祝福は10人らしいわよっ。あたし達は最期だって来たわっ」

 「最後なんだ。どうしてだろう?」

 「祝福は別の村の人も来るからぁ。遠い村の人からやることになっているのぉ。終わったらすぐに帰れるようにぃ」

 「そういうことよっ。あたし達はこの村に住んでいるから最後ってことよっ」

 「そうなんだね。ありがとー」

 「さぁもう少しで祝福が始まるわっ。ああああワクワクが収まらないわっ」

 「シャルちゃん。落ち着いてねぇ。祝福は逃げたりしないからぁ」

 

 騒ぐシャル、落ち着かせるリュカ。

 背丈はシャルもリュカも変わらないけど、2つ上のリュカはしっかりお兄ちゃんって感じがして面白い。

 

 そうこうしているうちに、教会の扉が開かれ、礼拝堂の奥から神父様が歩いてきて鐘を鳴らしながら、お話を始めた。

 

 「本日も例年に漏れずとても寒い日ですが、天候に恵まれ、澄んだ綺麗な空気であり、神々からの祝福をいただく良き日となりました。これより、祝福を行いますので、中へお入りください。」

 「シンくん、リュカちゃん。ボクはお手伝いがあるから行くねぇ。また後でぇ」

 「うん。お手伝い頑張ってねー」

 

 リュカと別れて、僕たちは礼拝堂に入っていく。

 

 

 礼拝堂の中で、僕たちは一番前の椅子に座り、神父様からの説明を受ける。

 

 「祝福は順番にお呼びしますので、お名前を呼ばれた順に、この水晶の前で祈りをささげてください。何も怖いことはありませんので、祈り方も自由ですので、自然なまま祈りをしてください。」

 

 

 一番目の子の祝福が始まる。

 手を組んで立ったまま祈りをしていると、水晶が徐々に色が変わり、薄めの赤色に光った。

 赤色に光ったことが嬉しいのか、礼拝堂の後ろにいる家族に大喜びで手を振っている。

 

 二番目、三番目とつつがなく祝福が行われていく。

 意外だったのが、体が大きく力って感じの男の子がキレイな緑色に光ったことだ。

 見かけによらず頭がいいのかなと思って見ていると、その男の子も予想外だったのか驚きの顔をして固まっていた。

 祝福は神様が適切な物を与えてくれるから僕たちの思っていることとは異なることはよくあるとリュカも言っていたし、あの男の子は、きっと探検する学者さんになるのかもしれない。

 

 順番が九番目になった。

 九番目は、シャルの番だ。

 シャルはきっと赤色だと思うけど、さっきの事もあるから、もしかしたら緑色ってこともあるかもと、考えたが頭の良いシャルなんて想像できないから、絶対に赤色だろう。

 

 「シン、何か変なこと考えてないっ?」

 「えっ。そんなことないよー。」

 

 勘が鋭い。

 野生の勘かな?

 

 元気いっぱいに水晶の前まで行ったシャルは片膝を突いての祈りを開始した。

 騎士が近いをする祈り方でだった。

 礼拝堂のステンドグラスから差し込む光に包まれ、とても綺麗に見えた。

 いつもは止まっているより動いていることの方が多くアレなのに、シャルは真剣な顔で祈りを捧げている。

 

 暫くすると、水晶が少し光りだしたと思ったら、強い光を出した。

 その光は、今までの子とは違い強く濃い赤色だった。

 礼拝堂に来ている人たちが騒ぎ出しているが、当人のシャルは光を見てはち切れんばかりの笑顔で見惚れている。

 

 「シンっ!あたし赤色よっ!それも真っ赤よっ!」

 

 光を背に嬉しそうに笑顔で話すシャルは可愛かった。

 

 

 十番目、最後は僕の番だ。

 僕はリュカに教わった祈り方を思い出し、目を閉じて両手を組み、膝立ちになって水晶の前で祈りを捧げる。

 暫くしてから、目を開けると、そこは礼拝堂ではなく、紫一色の空間だった。

 

 

 

 

 

 紫だけの空間に僕一人だけがいる。

 ここはどこだろう?

 皆祝福の時はこんな感じだったのかな?

 ぼーっと辺りを見ていると、小さな門を見つけた。

 さっきまでなかった気がするけど、ここを通ったら帰れるのかな?

 門を観察していると、急に開き中から何かが出てきた。

 

 出てきたのは見慣れない服装の人で、その人は何かを話しているが聞こえなかった。

 その人が困った顔をしたまま、少しずつ光になっていく。

 門の中を見た後、あきらめたのか僕の頭を撫でてから、完全に消えてしまった。

 

 人が消えたと同時に紫色の空間が真っ黒になって、次に光出した時は礼拝堂の水晶が目の前にあった。

 水晶はもう光っていないから、祝福は終わったと思い立ち上がって後ろを振り返ると、皆が驚いた顔で固まっていた。

 

 「シンくん。だっ大丈夫ぅ?」

 

 慌てた様子のリュカが話しかけてくるが、何のことか全くわからず首をかしげていると、シャルも慌てて話しかけてくる。

 

 「シンっあんた水晶の光にの込まれたのよっ」

 「そうなんだー。水晶は光は何色だった?」

 「えっ紫色よってあーもうそんなこと言っている場合じゃないでしょっ呑気なんだからっ!」

 

 紫色かぁ。あの空間と同じ色だ。

 

 「ねーシャルも祝福の光と同じ空間に居た?」

 「光と同じ空間ってなによっ?」

 

 アレ?祝福は皆あんな感じじゃないの?

 

 「いつも通りのぉ。シンくんっぽいから今は大丈夫かなぁ後で先生に診てもらうんだよぉ」

 「そうね。いつものボケっとしているシンのままねっ。叔母さんにちゃんと見てもらいなさいねっ」

 

 何か馬鹿にされたような気もするが、僕は特に何もないけど何があったんだろう?

 お母さんに聞いてみよう。

 

 その後、お母さんに色々と心配されたが、特に体調も悪くないことを伝えて一旦家に帰ることになった。

 祝福の事については家に帰ってから話をするらしい。

 

 

 

 家についてから、祝福についてお父さんとお母さんと話をした。

 どうやら僕は水晶が紫色に光ったあと、光に包まれてしばらく光の中に居たらしい。

 僕が紫色の空間にいたときの話をすると、驚いた顔をした。

 

 「シン。それは何か強い祝福を受けたのかもしれないな。」

 「そうね。祝福で誰かに合うってことは聞いたことないわ。」

 「聞いた限りじゃ、何か悪い人って感じもしないし、もしかしたら守護霊でも憑いたのかもしれないな。」

 「そうなのかしら。祝福の日に守護霊が憑くってことあるのかしら。」

 「守護霊?」

 「あぁ守護霊ってのは、そのまま守ってくれるゴーストだな。」

 「魔物じゃないんだからゴーストって呼び方はダメよ。シン、守護霊は憑いた人を守ってくれる神様の事よ。」

 「神様?」

 「そうだ。特に悪いこともないから、気にするな。」

 「うん。わかった。」

 「よし。話はおしまいだ。」

 

 あの人は守護霊なんだ。

 よくわかっていないけど、怖い人じゃなさそうだし安心だね。

 寒いから暖炉に火を入れよう。

 

 「紫ってことは、力(赤色)と魔力(青色)ってことか。まさに俺らの息子だな。」

 「そうね。赤色が強かったから力よりだけど、あれだけの光ならどちらの力も安心ね。」

 

 「点火(イグニッション)」

 

 唱えた魔法はいつものように薪を燃やしてくれると思っていたが、発動することが無く、薪が燃えることはなかった。

 

-----

 

 「お父さん。。。魔法が出ない。。。」

 「おぉおぅ?魔法が出ないのか?マナが練れないのか?」

 「うーん。マナがあまり感じないの。。」

 「祝福で魔力を貰ったのにマナが感じられないのか。」

 「うん。」

 「カティ。マナを感じなくなるって、よくあることか?」

 「えー。そういった事はあまりないわよ。どうしてかしら。」

 「お母さん。僕、魔法使えなくなったの?」

 「大丈夫よ。今日の祝福で守護霊が憑いてマナが乱れているのかもしれないわ。しばらくしたら使えるようになるわよ。」

 「うん。わかったー。」

 

 マナは感じるけど、感じた途端に直ぐに消えてしまう。

 魔法を使うまでのマナが堪らない。穴の開いたバケツに水を入れている感覚がする。

 お母さんはしばらくしたらっていうから多分大丈夫だと思うけど、魔法が使えなくなったら困るなー。

 

 

 

 

 年が明け、春の1月、シン、シャル、リュカは変わらず村の手伝いをしている。

 

 「シンくん。魔法使えるようになったぁ?」

 「まだ使えないままー。」

 「どうしてだろうねぇ。どこも悪くなってないっていうしぃ。不思議だねぇ」

 「うん。教会もお医者も行ったけど特に何もないって言われたよ。」

 

 答えが分からない問題に頭を悩ましながら村の手伝いを続けている。

 そこにお父さんが近づいてきて話しかけてきた。

 

 「シン。母さんと話はしたんだが、魔法が使えなくなったのは今悩むことはやめて、もう一つの適性を伸ばそうってことになった。」

 「もう一つってことは赤(力)の方ってこと?」

 「そうだ。魔法が無くても力、父さんが剣術を教える。剣術でも魔力は使うから、そのうちきっと魔法が出来るようにはなると思うぞ。」

 

 剣術かぁ。魔法が使えないならそっちを練習してもいいかな。

 

 「剣術っ!叔父さん、あたしにも教えてっ!あたしも赤よっ!」

 「おおっびっくりした。シャルちゃんも一緒にするか。それの方が競い合って楽しいかもな。」

 「そういうことだからっシンっ!あたしと一緒に剣術を学びなさいっ!」

 

 勝手に話が進められていくけど、僕も剣術は習いたいからいいか。

 

 「わかった。剣術を習う。」

 「シンくん。気を付けてねぇ。何かあったらボクが練習で作ってるポーション渡すねぇ。」

 「シン。準備もあるから雪が無くなる春から始めるぞ。それまでは村の手伝いを頑張れよ!」

 

 こうして、僕はお父さんから剣術を習うことになった。

 お父さんの剣術は、何かの流派だったと思うけど、それを習うのかな。

 春が楽しみになってきた。

 

 

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