第8話 君のそばにいたいけど
咲樹への気持ちに歯止めがきかなくなってから約1週間。
夏休みも早いことに中盤に差し掛かっていた。
私はこの1週間自分気持ちに整理をつけるために少しだけ距離を置いている。
と言っても気持ち程度だからきっと傍目から見ても特に距離を置いているようには見えないだろう。
今日は1日練習の日だ。
午前は練習試合、午後は練習である。
私は今ちょうど体育館に向かってるけど困ったことが起きている。
ー私これ熱あるな……
大体私は熱があっても練習に行ってしまうタイプではあった為あまり気にしていなかった。
でも今回は呼吸がしずらいし、身体が鉛みたく重い。夏なのに寒気がする。
私は憂鬱な気持ちで体育館に入って行った。
♢
午前の練習試合が終わった。
今日の相手がそこまで強くなくて良かったと今日以上に思った日は無い。
午後からは部活見学の中学生も練習に混ざるため、練習は軽めに行うと言われていたので安堵した。
ただ身体は限界に近い。昼休憩で1時間あるけどはっきり言って食欲はない。
でも皆と食べてしまうときっと体調が悪いのがバレてしまう。
私は咄嗟にそう感じると皆で集まる前に誰もいない更衣室に避難した。
ーここでゆっくりしてよう。
私は近くにあった長椅子に横になって先程持ってきた氷嚢をおでこに置きながらぼーっとしていた。
ー最近慣れないことに頭を使いすぎたせいだろうか。
やっぱり同性だと意識もされないのか。いっその事もう伝えてしまおうか。そう思ったことは何回もある。
だけど踏みとどまったのは咲樹の困った顔だけは見たくなかったからだ。
私が一方的に伝えるのはただ私が満足感に浸りたいだけで相手からしてみれば好きな人でなければ尚更迷惑がかかるものだと私は思う。
断ることは告る以上に勇気がいるのではないだろうか。
ー今は何も考えないでいよう。
私は思考を放棄すると静かに目を瞑った。
◇
30分ほど経ってからスマホのアラームで起きた。
氷嚢は既にぬるくなってしまっている。
私はせめて何か食べなくてはと思いおにぎりに口をつけた。
食欲が無かった為おにぎり1つをなんとか食べ終えると私は練習が始まってしまう為急いで体育館に向かった。
しかし問題は練習中に起きた。
体調が悪化しまくって呼吸が浅くなって来ている気がした。
練習終盤、中学生も混ざっての5対5のゲームが行われることになりチーム決めをした。
「翠何番?」
世良が私に尋ねてきたので私は3番、と答えた。
すると世良は「え〜うち2番……」
と残念そうにした後「負けないからねっ!」
と一言行ってチームの所に戻って行った。
私も3番のチームの元に向かうと中学生が2人、先輩が1人、それと咲樹だった。
しかし私には咲樹と一緒のチームだと喜ぶ気力はなく、淡々とポジションの確認をすると、私たちは最初休憩だった為、先輩に
「お手洗い行ってきます」
と声をかけてその場から去ろうとした。
しかし私が歩き始めてすぐ誰かが私の手を掴んで来た。
ー咲樹だった。
私は「咲樹もお手洗い?」と尋ねると咲樹は一言
「なんで昼翠いなかったの」
とだけ言った。
私は悩んだ後
「忘れ物家から取りに帰るついでに家で食べて来ちゃった。」
と言った。
私の家は近い為家に帰ることはたまにある。
すると咲樹は信じたか分からないけど納得はしたように見えた。
しかし咲樹は続けざまに私に質問をした。
「今日翠体調悪いでしょ。」
私は咄嗟に「どこも悪くないよ」
と一言そう言った。
けれど今度は納得していないようで、
「さっき掴んだ手超熱かったし、顔色良くないよ。しかも試合中いつもみたいな声も出てないし、ベンチでも辛そうだったじゃん。」
と私にそう言った。
やっぱり咲樹は周りをよく見てる。
私が咲樹のことを避けていても、私を見ていてくれた事はきっといつもの私なら嬉しかったかもしれない。
けれど今は体調が限界なことと、これ以上咲樹の近くにいたらほんとに好きだと言ってしまいそうで今すぐここから立ち去りたかった。
私は一言「大丈夫だから。用がないなら体育館戻ってて。」と言って1歩歩き始めた。
すると咲樹がぼそっと一言こう言った。
「うち何か翠の気に障ちゃうこと言った?」
そう言った直後咲樹の目から涙が落ちた。
私は驚きで振り返った。
私が1番望んでいなかったことが起きてしまった。
私は勢いで
「違う!!咲樹は何も悪くない」と言うと咲樹は言葉を続けた。
「最近避けられてる気がしてた。初めは気のせいだと思ってた。けど気のせいじゃなかった。この一週間翠と何も話してない。ねえ、うちなんかしたかな?言ってよ。今も体調が悪いの私に隠さなくたっていいじゃん!私翠が腰痛めてた時言ったよね?なんかあったら言ってって。」
続けざまに質問攻めで私の脳は何も機能していなかった。
もう倒れそうで聞いてるのがやっとだった。
しかし私の方が先に限界が来てしまった。
「なんでうちのこと避けるの?」と再び答えを催促されたタイミングで感情が爆発した。
「私が咲樹のこと好きでどうしようもないから!!」
そう咲樹の言葉を遮るように言ったところで私の意識は無くなった。
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