第3話 君との出会い②
♢
高校に入学して1ヶ月ほど経った5月。
私はチームの主力選手として入部してからすぐに試合に出ていた。
ただ、私は5月に入ってから腰の痛みに悩まされていた。
動けないわけじゃない。けど時々すごく痛むから、その頃の私は3日ほど休養を取ったり、整骨院へ通ったりとなかなか思うようにプレイ出来ない不安を募らせていた。
ーそしてすぐに腰痛は悪化した。試合直後動けないほど腰に痛みが走り、私は人がいない建物の中に急いで駆け込んだ。
ーなんで今なんだ。
そう嘆いて痛みが引くのを待っていた。
♢
すると、ドアの開ける音がして、私は振り返った。
ーそこにいたのは咲樹だった。
「あれ?どうしたの咲樹。私に何か用?」
私は自分に対する不安を悟られないよう笑顔で咲樹にそう尋ねた。
「翠が駆け足でここに向かうの上から見てたから。」
咲樹がそう答えた。
ー見られてたのか。
咲樹はベンチ入りしていなかったから、上からの観戦だったので私はすぐに納得した 。
咲樹もバスケは上手い方だと思う。
リバウンドがすごく強くて、先輩の人数が多くなかったらきっとベンチ入りしてただろう。
「もう少し経ったらみんなの所行くから咲樹も先にみんなの所行ってて。」
私は咲樹に向かってそう答えた。
けれど咲樹は黙ったまま私にこう尋ねた。
「腰……痛むんでしょ?」
私は驚きで目を見開いた。
私の腰の痛みを知っているのは、小学生の頃からの戦友で、高校で一緒のチームになった世良(せら)
と顧問の先生だけだった。
練習中は痛み止めを飲んで、サポーターをしてたから特に痛みを疑われることもない。
3日の休養も家の事情で通したはずだ。
「……なんで咲樹知ってるの?」
世良が誰かに言うはずが無い。
私は咲樹に向かってそう尋ねた。
「翠は痛みを見せてなかったと思うけど…座り方とか…ボール取るためにかがんだりしてた時さ…」
その言葉で私は納得した。
いくら痛み止めを飲んでるからといって全ての痛みが取れていたわけじゃなかったのだ。
「そうそう。よく気が付いたね咲樹。最近よく痛むの。けどそんな痛くないし、ただの老化じゃない?」
私はそう言って自嘲しながら答えた。
その直後咲樹は私の隣に座って私の腰をさすっていた。
「咲樹大丈夫だよ。みんなの所行ってて」
私は再び咲樹にそう促した。
咲樹はそれでもさする手を止めなかった。
そして私にこう言った。
「翠のこと1ヶ月半くらい見てきたけど、翠はなんかうちらと距離?がある気がして。なんでだろうなって思ってたんだけどやっと分かった」
再び咲樹が言葉を続けた。
「別に距離がある訳じゃなくて翠って人見知りだから自然と距離ができちゃうんだよね!だってうちとゲームの話してた時翠超面白かったもん!!」
咲樹は笑顔でそう言った。
「けど翠は表には感情出さないから翠が痛そうにして座ってたの見て初めて気づいたんだけどね…」
そう言って私を見ながらこう言った。
「なんかあったら言えよー!みんな超心配してたよ?」
そう言って私の腰をさすっていた手を今度は私の頭の上に置いてこう言った。
「翠は頑張り屋さんだね!偉いぞ〜……偉いけど…なんかあったらうちじゃなくてもチームのみんなでも良いから頼ってよ。」
そう言って私の頭をぐしゃぐしゃにした。
私は驚きで言葉が出てこなかった。
咲樹はいつもうるさくて、みんなのちょっかい出していつも何か食べてて、いつも誰かとじゃれあってて…私の一瞬の行動を見ていたことが驚きだったのだ。
ーただそれは私が見ていた1部に過ぎないのかもしれないな。
私はそう感じた。
そして胸の中にあった不安がすっと楽になった気がした。
「ありがとう咲樹。助かった。みんなのとこ行こっか。」
私は咲樹に笑顔でそう言って、肩を並べながら建物から出ていった。
♢
ーその頃から私は咲樹の事が好きだったんだろうな
私は約1ヶ月半も前の出来事を思い出しながらふとそう感じたのだった。
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