第17話
「そして謀反……との事ですが」
私の言葉にピクリといち早く反応したのは王弟だ。帝国法もしっかり頭へと入っており、何よりも国の事を考えているのだろう。……馬鹿達と違って、広い視野で。
「帝国皇女たる私に対して、婚約者としての扱いが酷すぎて、皇太子である兄が戦争の準備をしていたくらいです。そうなるまでに婚約破棄をしていただけて良かったですわ!あとは蔑ろにした不敬くらいですので、陛下と王妃、それに王太子の廃位……でよろしいかと」
満面の笑みで告げれば、帝国法を思い出したのか馬鹿な貴族達は真っ青な顔をしている。出世等を見越して自分を売っておきたいならば王族で間違いはないのだが、私に対しての不敬は咎めねばならなかった。廃位となれば、今まで売り込んだ自分なんて時間と労力の無駄なのだ。
……そういうのが嫌なのだけれど。
効率よく動き、無駄を省くために、盤面をしっかり見て状況を考えられない貴族の多い事……使えないわね。
「あ……」
「嘘……」
王太子と伯爵令嬢は真っ青な顔をして膝から崩れ落ちた。
真実の愛なのであれば別に廃位などどうでも良くないかしら。私との婚約がなくなれば一緒に居られるし……しいて言うならば全うな方法で婚約撤回を申し出て臣下に下れば良かっただけ。
あれもこれもと求めるのは欲張りすぎるわよ。強欲な人間が愛を語っても、真実味がないと思うのだけれど。
「声に出ている」
「あら、わざとだけれど」
ジト目でこちらを見るガルムは呆れ果てているだろう。そんな事は関係ないとばかりに私はコロコロと笑う。
私の声を聞いて、私の態度を見ている王太子は呆然としている。あれだけ言われてしまえば、助けを乞う事だって出来ないだろう。早く王太子の身分を捨てて帝国へ申し出ていれば良かっただけなのだから。
……相手が男爵令嬢とかであれば、身分が低すぎて色々問題になるところだったろうけれど。
そもそも帝国法を忘れる方が悪いのだ。属国に下っているのだから、それなりに帝国で法律が作られている事も知らないとは、属国である自覚がないと言う事なのか。
だからこそ、叔母は帝国法で丸投げをしたのだ。次の国王、王妃をこちらで決めろと。……国の内情を知っている人達が人選して、皇帝は誰が治めているのか知る為という意味もあったのだけれど……。むしろそちらの意味が強い。叔母の場合は逆手に取ったようなものだ。
「皇女殿下…………」
「お許し下さい」
縋るような目でこちらを見る国王と王妃は、椅子の前で膝をつき、私に向かって頭を垂れた。
……今更?
侮蔑の眼差しを投げ、扇で口元を隠す。言ってる事が理解できない……というか、したくない。あれだけ蔑ろに扱って、人を冷酷女と罵っておいて許しを乞うとは?
「私、虐めておりませんが?ねぇ、そこの令嬢。あなた元王太子と恋人だった令嬢と仲良かったわよね?」
冷酷女呼びも撤回してもらっておこうかしら、別に言われていても問題ないけれど、どうせならついでだと思い、伯爵令嬢といつも一緒に居た令嬢へと視線を向けた。
ヒッと小さく悲鳴が漏れ出たが、そんな事は構わず続けた。
「私……虐めの噂が酷くなった時にインクをかけたり噴水へ落としたり、階段から突き落としたりしましたけど……その前には何もしていないのですが、本当に私が虐めていたのですか?」
私の言葉に令嬢はビクリと身体を震わせ、目に涙を浮かべ、微かに聞き取れるかどうかの声でごめんなさいと呟く。
「謝罪を求めているわけではなく、事実を訊ねているのよ。まぁ階段から突き落とすのは十分酷い事だと思うけれど、その前から事実無根な虐めが流れていたから……貴族として、命をかけて勝負をするという事を理解してほしくてね。相手を蔑ろにして蹴落とす行為は……生死の問題になるのよ」
「皇女殿下の言う通りです!噂はアメリアが広めたものです!」
そんな私の圧により涙を流しながら令嬢は叫んだ言葉に貴族達はざわめく。
相手を潰すという行為をもっとよく考えないといけない。虐めだとしても、物を隠す程度では生ぬるいし、する意味がないのというのも考えれば分かるもの。
「なっ!」
「どういう事だ!?」
伯爵令嬢と王太子の声が重なる。
まぁ伯爵令嬢の自作自演だと、こんな大勢の前で叫ばれたら、どうする事も出来ないでしょう。
「わ……私は……」
視線を彷徨わせて、何かを言おうとしている伯爵令嬢は、私と目が合うと小さく悲鳴をあげ、更に身体を震え上がらせた。
「舞台に憧れたのか知らないけれど、鬱陶しければ徹底的に潰すわ」
「すいませんでした!!」
周囲にだけ聞こえるような声で私が呟けば、伯爵令嬢は頭を地面に擦り付ける勢いで下げ、謝罪を繰り返す。
階段から突き落とされて、私を怖がっていたのに、王太子に匿われて、今日の卒業パーティでも堂々としている。ある意味で肝の座っている令嬢だとは思うけれど、恐怖には打ち勝てないようね。
……所詮、王太子という権力の庇護があってこそという事だろう。
「う……嘘だろ……」
呆然と伯爵令嬢を眺める王太子。伯爵令嬢の謝罪により、最初にあった噂は全て自作自演だと理解した陛下は立ち上がると声をあげた。
「すまない!皇女殿下!こやつ等には然るべき処分を下すので、何卒それでお許し頂けないでしょうか!」
「な……!それを言うなら、俺も騙されていただけで……冷酷女呼びは撤回する!リズ!」
責任転嫁かしら。みっともない。
隣でガルムが何度目か分からない溜息をついた後、私にだけ聞こえるような声で、自分達のしてきた事を考えろよ、と言っている。
本当、それだ。どんな言い訳を並べても、自分達の教養が足りませんと声高に言いまわっていたかのような行動は、なかった事に出来ない。
「馴れ馴れしく呼ばないで下さる?騙されていたとしても……未だに挨拶すらしに来ていない方なんて存じ上げませんわ。それに対して……陛下達も咎める事すらしませんでしたよね」
貴族達の絶望にも似た表情が陛下達へと向けられる。一部まともそうな貴族達は怒りを通り越して呆れ果ててしまっている。……分かる……ここまでくると、怒る気力さえなくなる程だ。あまりにも知能が違い過ぎるというか、話し合いすら通じない未知の生物相手にしているような感覚がする。
自分達がやってきた事に対し、今更のように後悔しても、もう遅い。ただ謝罪の言葉を口にして頭を下げるが、私はそれを一刀両断するだけだ。
「自分の許されたいという気持ちを吐き出す自己満足の謝罪は迷惑です。それより、私も余興を用意してあるんですの」
私が合図すると、呼んでおいた吟遊詩人が会場へと入ってくる。
貴族達は何事かと目くばせ合う中、吟遊詩人は私の指示通り、準備を終えると歌い出した。
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