第16話
卒業パーティ。
学園を卒業し、成人として認められる貴族の令息令嬢を祝う場として催される。出席するのは学園へと通っていた生徒である令息令嬢、その親、そしてエスコートを務める者達。
今年に至っては王族が居た事や私の歓迎会でまだ留まっていた貴族達も、次世代の子達と繋がりを持とうとして参加する方も居るという。こちらとしては大歓迎だ。
「注目されるのは好きじゃないんだけど。これから巻き込まれるのか……」
「あら?側で見られるのは楽しいわよ?」
入場する扉の前で談笑するも、ガルムの表情は良いと言えない。
もう全ての貴族は入場し、残すは国王と王妃のみだ。王太子も既に入場している。男爵であるガルムは基本的には最初の方に入場する為、こんな見世物になるような入場の仕方も嫌だという事は心底理解している。
そう、理解しているだけ。折角の場なので是非とも楽しんでもらいたいという気持ちの方が強いのだ。
「ガルム・レスター男爵と、ノルウェット帝国皇女、リズ・ファ・ノルウェット殿下のご入場です!」
ザワリと、会場中がざわめく。
王太子にエスコートされていないどころか、別の男を連れてはしたない等の声が聞こえたが、それを言うなら自国の王太子を恥じろと声を大にして言いたい。
隣で小さく呆れるような溜息を吐くガルムとは対称的に、私は周囲へ今まで見せた事のない微笑みを見せた。後ろめたい事なんて何もないわよ、という裏の言葉を理解したのか貴族達は黙り込んだ。……本当、陰口だけは立派に育つなんて、どういう教育を施したのだろうか。
国王と王妃も入場し、開会の挨拶を終えた……瞬間、声高に王太子が叫んだ。
隣には勿論、伯爵令嬢が居て、王太子は令嬢の腰を引き寄せている。
「俺はアメリア・ミルム伯爵令嬢と真実の愛を見つけた!よって、ノルウェット帝国皇女、リズ・ファ・ノルウェットとの婚約を破棄する!」
やった!やった!!
やっと婚約破棄を言い渡された!
私は浮足立つ心を抑え込み、表情を出さないように努めた。
どうしても上がってしまう口角は、扇で隠す事にして。
「何で卒業パーティ待つんだ……」
「舞台のようにしたかったのでしょうね」
やはり、と言いたい所だったが、本当に何でこの瞬間まで伸ばす必要があるんだと頭を抱えて言うガルムが笑いの着火剤になってしまい、思わず少しだけ吹き出してしまった。
それでもすぐに気を取り直し、カツンとヒールの音を鳴らしてガルムを引きつれて前へ出る。
「はっ!もうこの国で男を見つけたのか!この尻軽め!お前はアメリアを階段から突き落としたりインクをかけたり、物を壊す等の虐めをする冷酷な女だ!」
物は壊していないけれど。
どれも確かな証拠を取ってはいないのだろう、後半の言葉で伯爵令嬢は顔を青ざめさせ、身体を震わせていた。それを怖かったと勘違いした王太子は更に抱き寄せていたけれど。
「真実の愛!素晴らしい!」
「流石の勇気です!王太子殿下!」
「障害を乗り越えるお二人こそ、最高で最良の夫婦となります!」
周囲に居る貴族達は拍手をし、二人を褒め称えて。その中で、一部壁際で青ざめた顔をしている貴族達が数人いるのを確認した。
……まともな人も少数居るけれど、圧倒的に馬鹿の方が多くて、どうしようもない感じなのか。
「国王陛下!王妃殿下!こんな冷酷な女が国母になるのは、国の為になりません!」
「そう……ね。虐めをする冷酷な皇女よりは……」
陛下達へと問いかける王太子に、陛下達へ期待の眼差しをかける貴族達。
王妃は、王太子の言葉に頷いてしまい、それに焦った1人の男性が陛下達の元へ駆けよる。……駆け寄ったとしても、吐いた言葉はなくならないけれど。
「……王弟殿下か」
「あら、ならば期待できそうね」
声まではこちらに聞こえないけれど、王弟は必死に二人へ何かを訴えている事だけは分かる。だけれど、それを拒否するかのように首を振る陛下が見えた。
「……認める。冷酷な皇女に国を任せられない」
うぉおおおおおおお!!!!!!!
陛下の決定で、会場に割れんばかりの歓声が響いた。
陛下の横では、この世の終わりかと言う表情をしている王弟が膝をつき崩れ落ちた。現状を理解しているだけに、王弟にとっては絶望しかないだろう。
周囲は歓声を上げつつも、皇女をどうするんだ?という疑問が浮かんだのだろう。視線がこちらに集まってくる。
素早く出ていけと言いたいけれど言えないといった所なのかと思ったが、これからが楽しいのだ。その為に準備をしていたのだから。
私は毅然とした態度で扇を閉じ、更に一歩前に踏み出せば……。
「謀反でも起こす気か!」
王弟の悲痛な叫び声に、会場が一瞬静まり返るが、ほとんどの者達は何を言っているのだという目を王弟へ向ける。現状を理解している貴族は、その場で大きく頷きながら私の方へと縋る視線を向けているけれど……。
「冷酷な者より、真実の愛で結ばれているアメリアの方が王妃に向いているという事の何が謀反だと言うのだ」
王太子の声に頷く大多数の貴族達。王弟は項垂れ、その瞳は私の方へ向けられている。声にならない声で口が動いている。……民は助けてくれ。そんな所だろうか。
この国王に、この王弟。属国の実情を理解していなかった帝国にも非はあるのだろう。
「まぁ……王妃ですか……無理ですね」
「お前は!まだ未練でもあるのか!」
既に空気と化す事に必死となっているガルムを横目に、私は微笑んで周囲にも聞こえる声で言う。
「帝国の許可がありませんので。……許可を出す事もないでしょう」
「……はぁ!?」
キッパリ、そしてハッキリと伝えるも、王太子他大多数の貴族は頭に疑問符を浮かべるだけだ。
きちんと属国である事と、その法を理解している者達は深く頷いていると共に頭を抑えている。
「お忘れですか?帝国法により、属国の立太子や王太子妃に関しては帝国へ届けて許可がないといけないんですよ?更に言うなれば、国王や王妃に関しても……です」
私の言葉に、王太子は陛下や王妃へと視線を向ける。陛下や王妃は忘れていたのか、顔を真っ青にして呆然としている事に、私は呆れてしまった。本当にわかりやすい人達……と。
「ちなみに、今流行りの舞台に乗っ取って真実の愛を見つけた他国の王太子ですが、自ら臣下へ下った方もいらっしゃいましたよ?流石に帝国法を忘れてはいなかった賢く聡い方でした。……真実の愛と言うのであれば、身分など関係ありませんよね」
ここまで言えば多少なりとも理解出来たのか、それとも思い出したのか、青ざめていく国王と王妃。その表情で本当だと悟った貴族達はただ沈黙を守り、視線を向けていた王太子と伯爵令嬢も顔面蒼白になり、身体を震わせていった。
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