第9話 天界DAISOから帰還

「クラウドの居候グッズって、何を買うの?」

「まずは靴を買わないといけないデシ!」

「そうだね(笑)。いつまでもお借りしたサンダルで歩き回るわけにはいかないもんね。」

「それから、パジャマと普段着とお洒落着・・・、(クラウドは少し頭の中を整理しながら言い始めた。)下着と靴下デシね。歯ブラシと歯磨き粉も買わないといけないデシ!それから、絶対に髪の毛を整えるワックスを買わないといけないデシ!」

「ワックスなんて、淳から借りれば良いじゃない?」

「アツシはドケチデシ!ドケチで、現金にすこぶる弱いデシ!さっき、封筒に入れた100万円を見たら、態度がコロッと変わったデシ!」

「確かに淳は結構ドケチで現金に弱いんだよね(苦笑)」


美夜とクラウドのもとに『すっぴんさんメイクセット』を持った店員がやってきた。

クラウドはそれを受け取って、美夜の靴が入った紙袋とちょっとしたおまけの入った紙袋を持った。


「それでは、みよるシャン!メンズフロアへ移動デシ!」

「うん!」


二人は立ち上がって、ガラス張りのエスカレーターに乗って、メンズフロアへ向かった。


「天界DAISOってすごいんだね。イオンモールに来ているかと思っちゃうよ。」

「そうデシねぇ。でも、天界ではこれが当り前デシよ!」

「だって、100円ショップだよね?ここにある商品はみんな100円なんでしょ?消費税とかつかないの?」

「消費税なんてないデシよ!みんな100円デシ!気に入っていただけましたデシか?」

「うん!すっごく!楽しい!」


メンズフロアを歩きながら、美夜は改めて店内をよく見てみた。店員はターコイズ色のポロシャツに虹色の文字で[天界DAISO]と書かれた黒地のエプロンを羽織っていた。


「クラウド!もしかして、ここは天界だから、店員さんもお客様もみんな天使なの?」

「そうデシよ!み~んな天使デシ!人間は滅多に来れないデシよ!」

「天使なのにみんな翼を出していないんだね。」

「買い物に着ているだけなのに、なんで翼を出すデシか?」

「えっと・・・、天使だから、私はてっきり、みんなクラウドみたいに真っ白い翼を出して歩き回っているのかと思っていたから・・・。それじゃあ、どんなときに翼を出すの?」

「クラウドみたいな仕事に就いていない天使たちは式典のときか感謝祭のときぐらいしか翼を出さないデシね。」

「そうなんだぁ・・・。」

「翼は一度出すとしばらく時間が経たないと仕舞えないデシ。それに普通の天使たちは翼を出すと神様から天誅が降るデシ!」

「じゃあ、なんで、クラウドは翼を出したのに平気だったの?」

「クラウドは恋愛省でお仕事しているデシ。ちゃんと認可されているデシよ。」

「へぇ・・・。クラウドが働いている恋愛省ってすごいところなの?」

「そうデシねぇ・・・。天界の行政機関デシから。」

「天界の行政機関???ふぅ~ん。普通の天使たちはお買い物のときとか、どうしているの?」

「人間と同じように翼は出さないで歩いたり、自転車や車に乗っているデシ。電車もバスもあるデシ!」

「天界って、こっちの世界と同じなんだね。」

「似ているデシよ!でも、天界は人間界とは全然、違う世界デシ!」

「ふぅ~ん。」


美夜はもう一度、周りにいる天使たちを見回した。

東洋系、西洋系の顔立ちをした天使たち。肌の色、瞳の色、髪の毛の色も様々だった。服装もバラバラでどこかの宗教の衣装を着たような天使がいるかと思ったら、今度は東洋系の民族衣装を着た天使が歩き回っていた。みんな人間界の人間と同じように買い物を楽しんでした。


「みよるシャン。そんなに珍しいデシか?」

「うん・・・。なんとなく、こっちの世界と天界の違いがわかったような・・・、でも、別にいいよね!」

「やっぱり、みよるシャンデシ!調査ファイル通りデシ!全然、気にしないデシね!」

「私、おかしいかな?」

「全然、大丈夫デシ!お買い物するデシねぇ!」


クラウドとメンズフロアで買い物をしながら、他の天使たちから美夜とクラウドはチラチラと見られていた。


「クラウド!なんだか、私たち、見られているような気がする!」

「人間が珍しいんじゃないデシか?そんなに気にすることないデシ!みんな優しいデシよ!」


不安そうにしている美夜の瞳を真っすぐに見つめて、クラウドは優しく微笑んだ。


居候グッズを買い終えるとクラウドは電子マネーカードを注意深く見た。


「まだまだ、電子マネーが残っているデシ!みよるシャン!天界KALDIにレッツゴーデシよぉ!」

「うんうん!もう、楽しみ!明日のお昼ご飯の材料買ってもいい?」

「全然OKデシね!行くデシ!行くデシ!」


二人は再びエスカレーターに乗ると天界KALDIに向かった。


「このジュノベーゼの瓶詰で良いかな?それから、生パスタでしょ・・・。えっと、チーズはモッツアレラチーズが良いよね?スパイスはどれが良いかな???」

「なんでもかんでも、ぶち込んじゃうデシ!遠慮なく買うデシよ!」

「せっかく憧れの天界KALDIに来ているんだよ!それにしっかり節約しなきゃ!良い物を選んで明日のお昼ご飯は豪勢にしないとね!」


自分の物を買うときは躊躇していた美夜だったが、明日のお昼ご飯の材料を選んでいるときの美夜は元気満々だった。商品を一つ一つ手に取って、品名と原材料、産地を確認していた。そんな美夜の姿をクラウドは優しい瞳で見つめ続けていた。


「みよるシャン。お名残り惜しくないデシか?」

「ううん!すっごく楽しかった!」

「それじゃあ、人間界へ帰るデシね!」


すっかり買い物を終えるた二人は[天界DAISOへようこそ!]と書かれた大きな看板の前に立っていた。クラウドは美夜の腕を掴んで、左手を上げると二人の身体の周りが薄明るく光り始め、天界DAISOの前から姿が消えた。

それを見ていた天使たちは何事もなかったかのように、天界DAISOの店内に入っていった。

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