第7話 神宮寺家へ居候
「さっ、流し台も綺麗に拭いたし、クラウド!部屋に案内するね。」
「はいデシ!みよるシャンは綺麗好きデシね!流し台まで水一滴残らず拭ているデシ!調査ファイル通りデシ!」
「さっきから、調査ファイル、調査ファイルって言っているけど、何それ?」
「みよるシャンとアツシのことが事細かく書いてあるファイルのことデシよ!」
「へぇ~・・・。そんなファイルがあるんだね。」
「神様からこの仕事を任命されたときに二人の調査ファイルも受け取ったデシ!すっごく分厚いファイルデシよ!クラウド、3日間も徹夜して、全部、頭の中にインプットしたデシね!」
「私の願い事を叶えるために調査ファイルとかいるんだね・・・。そんなに変なお願い事かな?」
「全然、変じゃないデシ。ただ、天界伝説通りに願掛けをされた方の願い事を叶えるのデシから、神様はきちんと調査して、ファイルを作るんデシ!クラウドはその調査ファイルを頭の中にインプットしたデシけど、みよるシャンはとっても素敵な方だと思ったデシ!アツシは馬鹿ガッパデシけど!」
「ありがとう・・・。」
美夜は自分のことを褒められて、少し恥ずかしそうに顔を赤くした。
「みよるシャン!クラウドの部屋に案内してほしいデシね!」
「うん!そこの階段を上がって、2階に部屋があるんだよ。案内するね!」
クラウドと美夜は少し急な階段を上がった。美夜はふすまを開けて、クラウドを和室へ案内した。
「綺麗な和室デシねぇ。ここはみよるシャンのお母さんが生前、寝ていた部屋なんデシね?」
「うん!そうだよ!この部屋の隣が私の部屋だよ。お布団もお母さんの使っていたやつになっちゃうけど、良い?」
「全然かまわないデシね!それより、みよるシャン・・・。」
クラウドは美夜のスウェット姿をまじまじと見ながら、少し顔を赤くした。
「あの・・・、着替えてきてほしいデシね。クラウド、みよるシャンにプレゼント持ってきたデシね。それをあげたいデシね。」
「えっ?ありがとう!じゃあ、着替えてくるね!」
美夜は自分の部屋に戻って、鏡で改めて自分のスウェット姿を見た。
『・・・。私、ずっとこの姿でクラウドの前にいたんだ・・・。』
鏡の中の自分を見つめて、美夜は少し恥ずかしくなった。
クローゼットからお気に入りの丈が長いデニムのシャツと白いプリーツのロングスカートを出して、着替えた。
念のため、美夜は鏡で自分の姿を確認していた。
コン、コン、コン♪
美夜の部屋のドアから3回ノックする音が聞こえた。
「みよるシャン。入ってもいいデシか?」
「どうぞ!」
ドアを開けるとスーツケースを持ったクラウドが美夜の部屋に入ってきた。
「これ・・・。さっき言ったプレゼント、デシね。」
クラウドはスーツケースからピンクの包装紙と白いレースのリボンでラッピングされた箱を取り出した。美夜はそれを受け取ると、そっとセロテープを剥がし、白いレースのリボンを丁寧にほどいて、包装紙をそっと開けた。
中から透明なプラスチックでできた箱に入った小さなガラス瓶のセットが出てきた。
ガラス瓶はチューリップの花の形をしており、金色の可愛い細工が施された蓋がついていた。
中には透明な液体が入っていた。
「綺麗・・・。これ、香水か何か?」
「自律神経発作を抑える頓服薬デシ!」
美夜はあまりにも綺麗な頓服薬をもらったので、思わず苦笑してしまった。
「気に入らなかったデシか?」
「そんなことないよ!すっごく嬉しい!これはさっき貰った頓服薬と同じものかな?入れ物の形が違うような気がするけど・・・。」
「この日のために特注で作ってもらった小瓶デシ!」
「ありがとう!病院からもらっている頓服薬だと、発作が治まるまですごく時間が掛かるからね。クラウド、本当にありがとね!」
「喜んでもらえてうれしいデシィ!これに入れて持ち歩くといいデシ!クラウドの手作りデシよ!」
クラウドはスーツケースの中からピンク色のハート柄のポーチを出した。
「可愛い!ありがとう!こんな素敵なプレゼント、生まれて初めてもらった。すっごく嬉しい!
これ全部、とっても心がこもっているんだね・・・。すっごくよく分かるよ。ポーチ作るのなんて大変だったでしょ!?クラウド、器用だね!」
「全然、そんなことないデシ!ただ、みよるシャンのことを考えて、楽しみながら、あっという間に作ったデシ!」
美夜はクラウドからもらったプレゼントをゆっくりと丁寧に撫でた。
「クラウド。ソレイユ・ドールさんってどんな曲を唄っているの?PCじゃ聴けないの?」
「秘密デシね!」
「秘密?なんで?」
「実はソレドちゃんの曲はネットでは配信していないデシ。CDしかないデシよ。クラウドの同僚がCDを持っていて、ちょっとだけ聴かせてもらっただけなんデシ・・・。でも、ちょっと聴いただけでソレドちゃんの大ファンになったデシよ!」
「へぇ~、そんなにすごい曲を唄っている人なんだ!」
「すごいデシよぉ。人気があり過ぎて、天界でもCDの生産が間に合わないデシね!販売しても、すぐ売り切れちゃうデシ・・・。CDを持っている人なんて天界では滅多にいないデシよ!」
「よく、チケットが取れたね?」
「そうなんデシィ。同僚がファンクラブの会員で、やっとコンサートのチケットを取ってもらったデシ。ソレドちゃんのファ買わないと入れないデシ。
クラウド、同僚にチケット取ってもらうために、同僚のクレーム案件を10件もやってあげたデシね!1週間も残業したデシよ!」
「クレーム案件かぁ・・・。それは大変だ!天界にもクレームなんてあるんだね。」
美夜は会社でクレーム処理係をやっていた頃のことを思い出していた。
「天界ではクレームはないデシ。他の世界でクレームがあって、それを天界で処理しているデシ。」
「なんだか、天界って色々なことをやっているみたいだね!」
「天界は人間界と似ているデシけど、全然違う世界デシ!嬉しいことがたくさん詰まっている世界デシ!」
「そうなんだぁ・・・。ソレイユ・ドールさんのコンサートがすっごく楽しみになってきたなぁ・・・。」
「今回のコンサート会場ではソレドちゃんのCDが販売されるデシ!CDを買って、ソレドちゃんのファンクラブに入るデシね!」
「本当にソレイユ・ドールさんのコンサートに連れて行ってもらっても良いの?なんだか、すごく悪いよ・・・。」
「全然良いデシね!アツシはムカつくデシけど、みよるシャンは大歓迎デシね!」
瞳をキラキラさせながら、ソレイユ・ドールのことを話しているクラウドを美夜は嬉しそうに見つめた。
「ただいまぁ~!」
「早いデシねぇ!」
「おかえりなさ~い!」
淳が花を買って帰ってきた。
美夜とクラウドは階下へ行き、淳から花を受け取った。美夜が仏壇の花瓶にそっと花を生けた。
淳が仏壇に線香をあげ、美夜と2人で手を合わせているとクラウドがすぐに傍へやってきた。
「クラウドもやるデシね。」
クラウドは仏壇に線香をあげ、美夜と淳の亡き母親の遺影を見上げ、静かにうつむくと手を合わせた。
「天使が仏壇に線香あげて、手を合わせているよ!アーメンとか言わないの?」
「やっぱり、アツシは馬鹿ガッパデシね!調査ファイル通りデシ!郷に入っては郷に従えデシね!」
「はいはい。さっきから、調査ファイル通り、調査ファイル通りって言ってるけど、なんだよ?調査ファイルって?」
「みよるシャンの願い事を叶える仕事を任命されたときにみよるシャンとアツシの調査ファイルを渡されたデシ!アツシのことが事細かに書いてあるファイルデシよ!」
「そんなファイルがあるのかよ!まぁ、なに調査されようが関係ねぇけど。」
「アツシはこういうことには無関心デシ!やっぱり、調査ファイル通りデシ!」
ぷりぷり怒りながら仏壇に手を合わせているクラウドを淳はしれ~っと見ていた。
「クラウドさぁ、スーツケースしか持ってねぇけど、着替えとかどうすんの?母ちゃんのデカパン履く気?」
「あっ~~~~!!!こうしてはいられないデシね。急ぐデシ!」
クラウドは慌てて美夜の手を掴んだ。
「みよるシャンも来るデシよ!」
「えっ???」
美夜の手を掴んだまま、クラウドが右手を上げた。
その瞬間、美夜とクラウドの周りが薄明るく光ったかと思うと茶の間から2人の姿が消えてしまった。
茶の間に1人残された淳は呆然としていた。
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