第3話 我が家に天使がやってきました・・・。

「粗茶ですが・・・、どうぞ・・・。」

「深蒸し茶でございますデシか・・・。ズズズ・・・。」


上下紺色のスーツ姿に背中から真っ白な2枚の翼を生やした金髪の青年は美夜が出した熱いお茶を静かに飲み始めた。


「結構なお手前でございますデシ・・・。ズズズ・・・。」


薄紅色の桜模様の湯呑み茶碗を両手で丁寧に持ち、金髪の青年はゆっくりお茶を味わっていた。


神宮寺家の茶の間は異様な光景だった。


背中から2枚の真っ白の翼を生やした金髪の青年がテーブルの上座で座布団に座りお茶を飲んでいる。

そのテーブルをはさんで下座に美夜と淳が上下スウェット姿で金髪の青年の真っ白な翼をまじまじと見ていた。


「あの・・・、東照宮さん・・・。うちにいったい何の御用でいらっしゃったんですか?」


意を決して話し始めた淳の心臓は第三者にも聞こえるかと思うくらいバクバクと心臓の音が鳴っていた。


「クラウドと読んでくださいでございますデシ。」


静かにお茶を飲みながら金髪の青年は淳の瞳を真っすぐに見つめて言った。

淳は涼やかだが冴えた鋭い瞳で真っすぐに見つめられて、一瞬ドキッとした。


「それではクラウドさん。うちへはいったい何の御用でいらっしゃったんですか?」


クラウドと名乗った金髪の青年は淳の瞳を見つめながら、


「淳さんには御用はありませんでございますデシ。

わたくしは神宮寺美夜さんに御用があって参りましたでございますデシ。」

「・・・。姉に何の御用ですか?」

「わたくしは神宮寺美夜さんの願い事を叶えるために、天界から派遣されてきた天使でございますデシ!」


背中から真っ白な翼が生えている金髪の青年が神宮寺家の茶の間で能天気にお茶を飲んでいる異様な光景を目の前にして、発狂せずに冷静でいる自分を淳は心の中で思いっきり褒めてやっていた。


一方、美夜はそれどころではなかった。いきなり、天使がやってきて、自分の願い事を叶えるためとかなんとか言いだしているのである・・・。


「私の願い事を叶えるために天界から派遣されてきたのですか?」

「はい!そうでございますデシ!」


クラウドは美夜の瞳を優しく見つめながら、とても嬉しそうに微笑んだ。


「美夜さん。今年の元旦にあなたは天界神社へ初詣に行きましたでございますデシね?

そのとき、どんな願い事をしたか覚えていらっしゃいますデシか?」


クラウドからその言葉を聞いた途端、美夜は顔を真っ赤にして、うつむいてしまった。


「はい・・・。覚えています・・・。」

「わたくしはその願い事を叶えるために天界から派遣されてきました天使でございますデシ。

美夜さんの願い事を叶えるためには、しばらく時間がかかるのでございますデシ。

わたくし、しばらく神宮寺さんのお宅にご厄介にならせていただきますでございますデシ!」


クラウドは淡々と美夜を優しく見つめながら話した。


「ちょっと、待った!!!」


いきなり天使だと名乗ってきて、姉の願い事を叶えるために自分の家に厄介にならせていただきます・・・、なんて、淡々と言っているクラウドに淳は食いついてきた。


「何か問題でもあるでございますデシか?淳さん?」

「姉ちゃんの願い事を叶えるためにいらっしゃったのはわかりました!全然かまいません!ですが、なんでクラウドさんがうちに厄介になる必要があるんですか???」


淳は半ギレになりそうな自分を必死に抑えながら、(淳なりに)冷静にクラウドに話しかけた。


「淳さん。少し、落ち着かれたほうがよろしいかと思いますのでございますデシが・・・。」

「とにかく、うちに厄介になるというのは納得できません!」


淳はクラウドの涼やかで冴えた鋭い瞳に見つめられながら、必死に言い返した。


「淳さん。ですからでございますデシね。

さっきも申し上げた通り、美夜さんの願い事を叶えるのは、しばらく時間がかかるのでございますデシ。

わたくしが美夜さんのお傍に四六時中いないと、いつ、美夜さんの願い事を叶えるチャンスがやってくるかわからないでございますデシ。」

「それじゃあ、24時間四六時中、クラウドさんが姉ちゃんの傍にいるんですか?」

「そうでございますデシね!着替えや入浴、お手洗いや寝るときなどはさすがに離れておりますのでございますデシが、それ以外はいつでもどこでも、四六時中、美夜さんのお傍にいさせていただきますでございますデシ!」

「姉ちゃん!!!いったい、どんな願い事をしたんだよ???」


クラウドの淡々と言うセリフに少し驚きながらも、淳は呆れて姉の美夜を見つめた。

美夜はただ、顔を真っ赤にして、唇を噛みしめ、うつむいていた。


「僭越ながら、淳さん。たとえご家族でも、秘密にしておきたいことはいくらでもあると思いますでございますデシ。それが自分の願い事だったら、なおさら秘密にしておきたいものだと思いますでございますデシ!」

「はい・・・。すいません・・・。」


淳はクラウドの冴えた鋭い瞳で睨まれて、黙ってしまった。


「生活費のことなら、一切、ご心配には及びませんでございますデシ!」


そう言いながら、クラウドは持っていたダークブラウンのスーツケースから分厚い茶封筒を取り出した。


「こちらをどうぞ、お納めくださいでございますデシ!」


淳の目の前に分厚い茶封筒を差し出した。

不審に思いながら茶封筒を開けてみると、10,000円札が束になって入っていた。


「いったい、いくら入っているんだ???」

「100万円ほど入っているでございますデシ!少ないでございますデシか?」

「いえいえ!とんでもない!これ、本当にいただいても良いんですか!?」

「どうぞ!どうぞ!それくらい、経費でいくらでも落とせますでございますデシ!

まだまだ、必要なら、いくらでもおっしゃってくださいでございますデシ!」

「よしっ!こうなりゃ、ヤケだ!

クラウドさん!姉ちゃんの願い事が叶うまで、好きなだけうちにいてください!部屋なら空いているんで!いいよな?姉ちゃん!」


淳は10,000円札の束を見て、嬉しそうに美夜に話しかけた。


「うん・・・。淳が良いって言うなら、私は全然、問題ないよ・・・。」


美夜はうつむいたままだった。


「ありがとうございますデシ!」


話し合いが成立したことを確認して、クラウドは淳と美夜に深々と頭を下げた。

淳は10,000円札の束が入った茶封筒を持つと意気揚々と自分の部屋へ戻ってしまった。


茶の間では美夜が丁寧に淹れたお茶をクラウドがゆっくり味わいながら再び飲み始めていた。

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