第2話 美夜と淳の亡き母の命日

今日は美夜の母親がガンで他界して三回目の命日だった。

専門学校生で世話の焼ける弟の淳(あつし)は自分の部屋でプレステのゲームに夢中だった。

美夜は朝の恒例行事、憧れのミュージシャン、神矢(しんや)へメールをパソコンで打っていた。


ピンポーン♪


『誰かな?こんな朝早くから・・・。

まぁ、いいか・・・。

どうせ、また、変なセールスだろうし・・・。

・・・、居留守しちゃお!』


美夜は玄関のチャイムの音を無視した。


ピンポーン♪


「姉ちゃん!お客様!」


淳が無愛想に美夜の部屋に入ってきた。


「淳が出ればいいじゃない?」

「俺、こんな格好だもん。出れねぇよ!」


上下が黒のスウェット姿の淳は美夜を気だるそうに見た。


ピンポーン♪


「ほら!姉ちゃん!出て!出て!」

「はいはい・・・。」


美夜も淳と大差のない格好をしていたのだが、仕方なくパソコンで打っていたメールを保存してから、玄関ドアを開けた。


「おはようございますデシィ!わたくし、天使の東照宮クラウドと申しますデシィ!」

「はいぃぃぃいいい!?」


美夜は玄関に立っている、上下紺色のスーツ姿の不思議な雰囲気を放つ金髪の

青年を見上げた。

その青年の歳は22か23歳ぐらいだろうか?

身長は180㎝くらい。

髪の毛の色は見事なまでにキラキラと輝くはちみつ色の金髪。

瞳はブルートパーズを溶かし込んだような美しい涼しげな青い色をしていた。


「あの、神宮寺美夜さんでございますデシか?」

「はい。そうですけど・・・。」

「本当に神宮寺美夜さんでございますデシか???」

「本当にそうです!!!」


『何を力んでいるんだろう?私は・・・。こんな朝から・・・。』


困ったような顔をして美夜が突っ立っていると、金髪の青年は美夜に名刺を差し出してきた。


「わたくし、こういう者でございますデシ!」

「はあ???」


渡された名刺を注意深く見ていると


『恋愛省社会恋愛援護局恋愛障害福祉部恋愛の支援室所属 東照宮クラウド』


と書いてあった。


「姉ちゃん!」


美夜が玄関先で名刺を見ながら呆気にとられていると、早く追い返せと言わんばかりの口調で淳が声をかけてきた。


金髪の青年は淳の姿を見ると素早く近寄り、


「あなたが美夜さんの弟さんの淳さんでございますデシね?」

「えっ???そっ、そうですけども・・・。」

「わたくし、こういう者でございますデシ!」


金髪の青年はそう言って、驚いている淳にも名刺を差し出してきた。

淳も差し出された名刺を注意深く見て、


「はぁ???れんあいしょう・・・、しゃかいれんあいえんごきょく・・・???

ちょっと、すいません!

どこの福祉関係の方かわかりませんが、帰っていただけますか?

こういうのは他をあたってください!!!」


淳は訳のわからない肩書のついた名刺を見て、半ギレになって、金髪の青年を睨んだ。


「それは出来ませんでございますデシ!!!

これは天界の神様から預かった大切なお仕事でございますデシ!!!」

「はいぃぃぃいいい!?ちょっと!警察呼びますよ!」


半ギレになりながら、淳は金髪の青年にそう言うと美夜の耳元で


「姉ちゃん、自分の部屋へ戻って、子機で警察に連絡しろ!こいつ危ない奴だぞ!」


と小声で言った。


今にも金髪の青年に殴り掛かりそうな淳を横目に美夜は自分の部屋へ戻ろうとすると、金髪の青年は意を決したように大声で言った。


「わたくしは危ない奴でも何でもないでございますデシ!!!

れっきとした天使でございますデシ!!!

これをご覧くださいでございますデシ!!!」


金髪の青年の背中から、鳥の翼とそっくり同じ形の真っ白な翼が二枚現れた。


「これで解かっていただけましたでございますデシか?」


目の前で突然とんでもない出来事が起きたことに驚いて硬直している美夜と淳に金髪の青年はにっこりと微笑んだ。

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