第61話 その瞳に写るものは…


「チッ!逃げられたか…」


俺が光剣を構えるなり、あの賢者はテレポートを使い後ろに下がってしまった。


ていうか俺が痛みに無関心と分かった瞬間に黒椒を捨てるその判断は流石賢者と言った所か。


「取り敢えず、探すか…」


そう思いながら、俺は歩き始めたのだが…



ヒュビィイイイイン!!!!



タッ!



「どうやら探す必要は無さそうだな」ダダーン



俺はそう言いながら遥か先の空を見る。



そこには…











魔方陣を構える賢者がいた。


そして今、その魔方陣の中心で輝く光が爆発し…




トュゥウウウウウウウン!!!!




大量の極光が地面に降り注いだ。



「チッ!雨かよ!!」





俺はそう文句をいいながら、その光を掻い潜り、賢者に近づいて行った。




避ける避ける飛ぶ受け流す翻す弾く打ち落とす前へ!!避ける飛ぶ受け流す受け流す避ける前へ!!!!




俺は絶え間無く降り注ぐ光を一つ一つ丁寧に避け、前に進んで行った。




「さあ!!行こうか!!」











★★★★

side御津留ノ宮時花




「ははっ、何の冗談ですの!?」


あの男、無数に降り注ぐ光を冷静に対処しながら、真っ直ぐこちらに向かって来ていた。


「とっ取り敢えず無属性では倒せそうにありませんわね!」



私はそう考え、火属性の魔法を放った。


だが…
















白色の水が、それを打ち消した。



「な!ならば!」



私は対抗すべく草属性の魔法を放つ。



だがそれは白色の炎に打ち消された。



「ど、どうなっていますの!!相反する属性は、特殊なスキルがないと扱えません!!ま…まさかっ」



私はあの男が華族であることを考える。


だが、それはあり得ないと、その浮かび上がった考えをすぐに打ち払った。



「………これでっ!!終わりですわ!!」




そうして私は、雷属性の魔法を放つフェイントをし、風属性の魔法を放った。



「雷は氷属性でなければ消えませんが、風属性だと氷は打ち消される、これで届きますわ!!」



そして私の思惑通り、相手は白い氷柱をこちらに向けて放って来た。



そうして私は勝利確信した。




だが…



「っ!!何故!!」



結果は相殺。


打ち消し合う相性ではない属性同士がぶつかった上で、威力が拮抗していないと生まれない反応だった…







あの男の職業の上昇率を見たとき、魔防と防御が終わっているのを見た。


だから掠りさえすれば終わるから、範囲の広い魔法を使いつつ、相手に消されない属性を探しながら中距離戦をしていれば勝てると思っていた。




甘かった。





そしてそれが今まで勝ち続けていた弊害であることも悟った。


ついでに負けるかもという事実にも…




そして私は、この焦りのせいで無属性魔法を連打するという冷静な判断ができなくなってしまった。



心では落ち着いているのに、体の焦りが止められない。




「………認めない」



認めない。



「認めない!!認めない!!認めない!!認めない!!認めない!!認めない!!認めない!!認めないぃいいいいいい!!!!」



私は最早半ば発狂しながら、そこらじゅうに魔方陣を展開した。


だが…



タラララララララララララァアアアアアアアアン!!!!




パキーンパキーンパキーンパキーンパキーンp…………………



そこらじゅうから魔法が飛んで来る音と、魔方陣が砕ける音がした。




そして…




ヒュン




魔方陣を無闇に展開したせいで、浮遊をするための魔力が尽きた。




「あっ…」




そうして私は落下していった。





「…………っ!!」



シュワン



そして最後のなけなしの魔力で風属性魔法を使い、地面に着地した。






………………逃げないと




そう思いながら、私は疲れた体を引きずって、後ろに逃げようとした。





だが…




シュタッ!!





後ろで奴が着地する音がした。





「おいこら逃げるなよ、もう魔力なくなったのか?」



私は後ろに振り返る。



そして…





バタッ




尻餅をついた。



だがそれでも体を引きずって後ろに後ずさる。



すると…





ダッ





背中に大きな木の幹が触れた。



もう、逃げられない。




「なあ、これは持論なんだが」



この男が話しかけてきた。



「な…に?」



直視できない。






……………これは私が質問したときに、教えると宣言していた痛みに動じなかった理由、なのかしら?



……………聞いてみよう。



「人は死にかけると死に対する恐怖が薄まるが…逆に死ぬと死以外の恐怖が限りなく薄くなると思うんだ。そして死がとてつもなく恐ろしくなる」



………前半は理解できた。


だが…



「それはおかしいですわ、どうやって生きている途中に死ぬのです?」



そう…死んだ経験何てできる訳がない。


だが、それでもこいつは口を開いた…



「でさ、本当に死が怖い人間が、まやかしの痛みにビビると思うのか?」



「何を……………っ!!」



私は思考したのち、この男に目を合わせた。


いや、あわせてしまった。





体が震える………………恐怖で声が出ない。



なんたってその瞳には…































狂気がにじんでいたのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る