第45話 折角だ、サシで話そうぜ


俺は今、全力を振り絞って主人公から逃げていた。


「はっや、このクソチートが」


「どの口が言ってるんだい?3分追いかけて近づくこともできない。君の脚力どうなってんの?」


「さあねー」


……………まあ、俺も速度のステータスは高い方だと自負しているし、身体強化をフルで使っているから、離れていくなら全然分かる。


問題なのはこいつが俺と同速であるということだ。


こちとら無属性魔法レベル11だぞ!


何で同速なんだよ!


ふざけんな!!






…………まあ文句は6分後に垂れながすか。


取り敢えず6分間逃げ続けないと。


そして俺が、目の前にある階段を降りようと飛んだとき、下に聖女が待ち構えていた。


シュタッ!!


「うおっと!!ビビったぁ。何の用だよ」


「ここを通すわけにはいかない」


「あれぇ?お前俺と同じ逃げじゃなかったっけ?」


「貴方には、捕まって欲しいから」


「だからなんで?」


そう無駄な問答をしていると。


着々と主人公が近づいて来る。


なので俺は取り敢えず…


飛び越えた。


「ほっ!!」


「なっ!!」


シュタッ!!


そして軽やかに着地した俺は、さらに逃げる。


「待てぇ!!」


「それで待つ奴見たことあるかぁ!?」


そして俺は、さらに走り始めた。




★★★★

6分後




「1時間…経ったぞ」ゼェハァゼェハァゼェハァ


「クソっ!負けか…」ハァハァハァ



そして俺達は、寮の天井裏のホコリを被った部屋で、尻から倒れこんだ。


まったく、この天井裏の隠し部屋に追い込まれた時は終わりを悟ったよ。


紙一重だ。


危なかったぁ。


そしてそんな事を考えていると、疲れて座り込んだ光が話しかけてきた。


「……………ねぇ」


「……………なんだよ」


「魔王って知ってる?」


「ん?ああ、あのおとぎ話のな(知ってる、何もかも)」


「……………実在、すると思う?」


「は?お前何言ってんだ?おとぎ話の書かれた本からこんにちわしてきたらビビるわ(棒)」


「…………そうだよね」


「何が言いたいんだ?」


「魔王は、実在する」


場が凍りついた気がしたが、俺は口を開いた。


「……………へー」


「………まるで他人事だね、もっと驚くと思ってたんだけど、もしかして信じてない?」


「いや、信じてるさ」


「ん?じゃあ何故?」


「お前が焦ってるように見えたからさ、俺だけでも落ち着こうかと思って」


「……プッ何それ」


光に笑われるが、俺は1つ質問する。


「で、お前の職業ってなんなんだ?」


「じゃ私も教えるからさ、無神のも教えてよ」


「ああいいぜ、そっちからどうぞ」


「………………勇者」


しばらく、この部屋は静寂に包まれたが、俺が口を開いたことで、この雰囲気はぶち壊された。


「なるほど、さっきの話にも信憑性が出てきたって感じだな」


「お気楽だね。答えたよ、無神のは?」


「極者」


「何それ?」


「知らん」


「まあ、無神らしいね」


「会ってまだ一週間も経ってないが?らしさもクソもないだろ」


「なんとなくだよ、なんとなく」


「そっか、なんとなくか」


「うん」


光がうなずく。


そして俺は、1つ質問する事にした。


「俺を仲間にするために、鬼ごっこしようとしたのか?」


「うん、僕には神からの大事な神託があるから」


「どんな神託?」


「今は仲間を探しなさい、だって」


「それでこんな無理やりなやり方で?」


「うん、でも使命のためなら仕方ないかなって思って」


それを聞いた俺は思った。


原作通りだって。


そして止めないといけないとも思った。


こいつが原作通りの最悪の形で後悔する前に。


なので俺はこう言った。


「そんな免罪符振りかざしてたら、勧誘の仕方がエスカレートしていくだろ、それは良くない、もうこれっきりだ」


そう言った瞬間、光が勢いよく立ち上がった。


「じゃあどうしろっていうんだよ!!」


俺は激怒する光に、優しい声でこう言った。













「知るか」


「は?」


続けてこう言う。


「今みたいに腹わって話せばいいんじゃない」


「いや、せめて知ってるのか知らんのかハッキリしろよ」


「まあいいじゃん」


「…………何で」


「俺が仲間になるから」


「え?」


光は大きく目を見開いてこう言った。


「魔王討伐だよ?死ぬかもだよ?いいの?」


「ああ、いいさ。これから無理な勧誘はしないと約束するなら、ついてく」


「もっ、勿論約束する。だけど、いいの?」


何度も確認してくる光に俺はこう言った。


「さっきまで無理やりだったのに、確認多いね」


「そっそれは…」


俺は立ち上がり、口ごもりながら視線をそらす光の手を握った。


「ほら、俺の部屋行くぞ」


「え?あ…うん、ありがと」


そして話し合いを終えた俺達は、俺の部屋に向かっていった。


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