第12話 使節団②
歓迎の花に彩られた村道を子供たちは走る。馬の足跡が幾重にも重なって、その上を馬車の轍が何本も通っていた。しばらくそれを追っていけば、多くの馬が繋がれた即席の厩舎と、それの世話をする村人、そして天幕の張られた集会所が見えてきた。
見慣れない格好をした見知らぬ大人が大勢集まっている様子はかなり奇妙で、子供たちの興奮は収まらない。村の大人もそれを咎めるでもなく、「あっちで子供に珍しい玩具を配ってる優しいお人がいるよ」などと教えてくれた。
今日は難しい話をせず、ずっと使節団の歓迎をするらしい。つまり、子供が何をしていても追い出されないということだ。子供たちは顔を見合わせ、楽しいことを求めて散って行った。
騎士の鎧を着ていた人たちは、天幕に入る時にはもう普通の格好をしていた。布製の服に大きな剣を差し、あるいは傍に置き、杯に酒を受けている。村人は食事や飲み物を給仕するのに忙しそうだが、何人かは使節団の人と交流をしているようだった。どこからも笑い声が聞こえる。皆良い人たちなのだろう。
僕は一人その中を歩き回って、馬車の窓越しに見た白い人を探していた。果物を食べている集団にも、村長と真面目な顔で話をしている集団にも、村人に話しかけている人たちの中にも、どこにもあの白髪は見当たらなかった。
「誰か探してるの?」
振り返ると、金色の髪の毛を高く括った背の高い女性が僕に声をかけていた。剣を持っているということは、この人も騎士なのだろうか。それとも王都では、騎士以外も剣を持っているのだろうか。
「あの……僕と同じ色の髪で、同じ色の目をした人ってどこにいるか分かりますか。馬車にいた人で」
「ああ、トリス=フェルベス様。あの人なら多分そろそろ……」
来るんじゃないかな、と彼女が言うのと同時に、ばさりと天幕が開く。
そこから現れたのは、彼女の言う通り、馬車の中にいたその人だった。
長い白髪を一つの三つ編みにして、腰の下まで伸ばしている。シャツと黒いズボンの上から深い真紅の色をしたローブを身にまとっており、それには金糸で豪奢な刺繍がされていた。
一目見ただけでえらい人なのだと分かる。手には大きな宝石のついた複雑な幾何学の形をした杖を持っていた。
「……魔法使い、の人?」
「そうよ。トリス様はこの国で、ううん、この世界で一番お強い魔導士様なの」
「世界で一番!?」
「ふふ。びっくりしちゃうわよね」
金髪の女性は僕に笑いかけると、その世界一の魔導士様に向かって気安く手を振った。緊張する僕をよそに、その魔導士様は滑らかに人を避けてこちらに来る。
「何か?」
「あのね、この子があなたのことを探していたの」
「……えっと、はい」
恐る恐る返事をして見上げると、川の水越しにしか見たことのなかった色がこちらを見据えていた。僕の瞳はこんな色だったのかと、初めて腑に落ちた気分だった。
金髪の女騎士は、ごゆっくりとばかりに僕だけを残して去ってしまった。トリス=フェルベスと呼ばれた魔導士様は、僕に片眉を上げてみせる。
「おや、アルビノ。珍しいね」
声質は柔らかいが、男性のものだった。間近で聞くまで判別ができないほど彼は美しい容姿をしていた。
僕はただ黙ってうなずく。もう一度見てみたいとは思っていたが、会って何を話すかまでは考えていなかったのだ。そんな様子の僕を気に留めることもなく、彼は考えるように顎に手を当てる。
「君、名前は?」
「……ルキ、です」
「そう、ルキ。この村の子?」
「はい」
「良い子だね。……知ってた? 白の髪と赤の目を持つ子には魔法の才能があると言われているんだ」
「そうなんですか?」
思いもよらない言葉に驚く。しかし、その次の言葉の衝撃には及ばなかった。
「どう、一緒に王都に来ない? 私の弟子にしてあげる」
「え」
絶句。
次いで大きな驚きの声が出た。
「ええええっ!?」
周りの人がこちらを振り返る。その中には僕の両親の姿もあった。
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