第41話


 それから数日は課題をして過ごした。進学校を自称するだけあって課題の量はかなり多い。色恋にばかりかまけていられないのが高校生の辛いところである。


「5日か……たしかもうバレーの結果が出るんだったか」


 しかし勉強に身が入るわけもなく、スマホをちらちら覗いてはため息をついた。


 この男なぜか来栖から報告が来ると思い込んでいるのだ。


 いまにも来栖から連絡が来るぞと思うとノートを見ても文字が頭に入らず、教科書を見ても頭の中は彼女の事でいっぱいという始末。決勝に行けるかもしれないというラインが来てからはいっさい音沙汰がなく、来栖が勝ち残ったのか負けたのかも分からない。しかし、下手に訊ねる事ははばかられた。それで余計に気になるのだろう。


 来栖への気持ちを確かめなければいけないと思い立ってから数日。話したいときに話せないというもどかしさに苛まれ続けた。こんなことは初めてだった。いつも隣にいると思っていた来栖が遠い所にいて、僕の方が話したいと思っている。時計を見ると夕方の4時であった。結局、課題はほとんど終わらなかった。


「確か女子の試合は今日で終わりで明日からは男子の試合になるのだったか……なら、もう結果は出ているだろうだろう」


 誰に言い訳するでもなく呟いてラインを立ち上げる。


『結果はどうだった? 勝ったのか?』


 しかし、送信欄に打ちこんだ言葉を見て、しかし待てよと指を止める。


 勝敗を知らないままこのメッセージを送っても良いのだろうか。勝っていたなら送っても問題ないけれどもし負けていたら? こんな事は僕の気持ちのために来栖を傷つけるようなものだ。


 今の僕にとって大会は話す口実に過ぎないけれど、来栖にとってはいろんな人の想いを背負った大切な大会のはずである。


 そう思うとメッセージを送るのが躊躇われた。


 そんなことをうじうじ考えてないでさっさと送れば良かろうという意見も分かる。僕だってそう思うのだ。以前の僕なら間違いなく送っていたのだけど、今はもしもを考えて送ることが怖いと思っている。


「あーーーーーーだめだ! 僕は何をしているんだ! ちょっとラインを送る。それだけのことがなぜできない!」


 ベッドに身を投げる。そうしようと思って飛び込んだわけでは無いけれど、スプリングの軋む音が耳に心地よく感じられた。錆びて壊れた感じがした。


 意味も無くベッドを叩くとぼむんと硬く跳ねる感触。楽しくなってしばらく叩いているうちに何を悩んでいたのかも忘れてしまった。叩くのをやめると血流が少し良くなったのか手が軽くなった気がした。目を閉じると眠りに落ちていった。


     ☆☆☆


 どれくらそうしていたか分からないけれど、気がつくと窓の外が暗くなっていた。


「………いま、何時だ? ふぁ……」


 空腹を覚えて部屋を出る。重い頭を押し出すように階段を降りていると、リビングの方から笑い声が聞こえてきた。


「……それでぜんぜん返信が来なかったんですかー。めずらしー」


「本当にねぇ。いつまで経っても子供なんだから」


「……誰だろう」


 戸口からこっそり覗くと、そこには母さんと談笑する来栖の姿があった。「……来栖?」


「あ、けんジィ起きたんだー。おはよ!」


「……なんでここにいるんだ?」


「なんでって、ラインの返信が無いし電話にも出ないしで心配してたんだぞー?」


「ライン……?」


 僕は首をひねった。

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