第10話 手紙③
「さ、古宮君。今の状態はどう?というか、覚えてる?倒れたってこと。」
保健室の佐々木先生が、俺をソファに座らせてまじまじと俺を見て聞いてきた。「へ?お、俺、倒れたんですか⁉︎」
倒れたという記憶は一切なかった。記憶があるところまでだと、あの超絶イケメン川上に、「顔色が悪いから、鏡でも見てくれば?」と言われて…それで、鏡を見るためにトイレに向かおうとして、、、俺の記憶はそこまでだった。
「そうよ。すぐに親御さんに電話をしたのだけれど、電話に出なくってね…それで、先生たちとの話し合いで、少し、この保健室で休ませようって話になったの。」
「そ、そうなんですね。わかりました。それに、俺は大丈夫です。なんで倒れたのかはわかりませんが、もう元気です。ところで、今って何時間目ですか?」
「えっと、四時間目よ。本当に大丈夫なの?」
「はい!全然、平気です。」
「分かったわ。じゃあ、またどこか具合が悪くなったら言ってちょうだい。」
「はい。」
俺はソファから立ち上がって、保健室を出た。ポケットにあるスマホを取りだし、時間を見る。どうやら、まだ四時間目が始まったばかりのようだった。
静かな廊下で独り、俺は自分の教室に向かっていた。本当に静かだった。どのクラスも授業を受けているからだろうか。
俺はふと思い出した。手紙のことを。見知らぬ女の子からだったあの手紙。確か、まだ机の中に入っていたはずだ。
にしても、俺、あの子と話したことがないんだよな。っていうか、なんで…いまいち理解ができず、モヤモヤとしたまま一年生の廊下を歩く。教室の廊下側の窓から、とんでもないほどの視線を感じながらも、俺は歩いた。
すると、授業中だというのに、秀英が教室から飛び出してきた。
「慎!お前、大丈夫か⁉︎倒れた件とかラブレターの件とかも聞きたいんだけど!」
すっごいデカい声で秀英に言われた。
オワタ。
この一言が脳裏を過ぎる。
非常にまずい。しかも、この声の大きさだと完全に一年生の全クラスに聞かれたようなものだ。というか、すでに時は遅し。秀英の教室の全員には聞かれている。それに、騒ぎを求めてか、別クラスの人が廊下側に顔を出しているではありませんか。。。ほんっと、どうしてくれんのよ。秀英。
「おい。秀英。ひとまず、話は後でしないか?今、授業中。っていうか、ラブレターの件はどこで聞いたんだよ。」
「え。あいつ。えっと、岡田。」
「はあ?」
そういえば、羅美奈も岡田から手紙のこと聞いてたな。あいつ、完全に裏切ってやがる。
「分かった。まあ、とにかく、今授業中。」
その一言で秀英はハッとした表情で、後ろを振り向く。数学科の先生である今咲(いまざき)先生が怪しい微笑みを秀英に見せた後、ボキッとショークを真っ二つに割った。しかも片手で。
「ヒッ!じゃ、じゃあな。慎。後でな…」
「うん。」
俺は呆れた顔で頷く。騒ぎを求めて廊下を覗いていた人たちも、いつの間にか姿がなかった。俺は自分の教室のスライド式のドアを開ける。
ガラガラガラガラ。
妙に響いた。クラスの視線が一気に俺に集まる。
「お、遅れました…」
徐々に小さくなる声は微かに震えていた。黒板に何やら書いていた先生がその手を止める。
「おお!古宮!生きていたか!」
うん。どういう言い方?死んだとでも思っていたのか?
「生きてますよ。先生。」
「はっはっは!それは良かった。座っていいぞ。古宮。」
このノリがいい先生は、藤谷(ふじや)先生。とにかくノリがいい先生として有名だ。
「はい。」
俺は自分の席に座る。クラスメイトたちがざわざわとし始めた。多分、あの手紙のことか、俺が倒れたことか、どちらかだろう。
そして、俺は席に座った途端、岡田を睨む。
その視線に気付いたのか、岡田がこちらを見て苦笑いしてきた。
「あは、あはは…ほんとごめん…慎。」
「ったく。別に怒ってる訳じゃなくてな。この手紙の持ち主が分かったんだ。」
「はあ⁉︎マジ⁉︎」
岡田のデカい声が教室に響く。
クラスの全員からの視線が痛い。先生は黒板に書くことに集中しているのか、岡田の声に気づかず、書き続けている。
はあ。今日はなんだっていうんだよ。デカい声を出す奴としか喋ってなくない?なんて思いながら、俺は、その岡田の反応に呆れながら、頷く。
「いや〜マジかよ…後で教えて頂けると…」
「ばーか、教えねえよ。あんなに広めておいて。」
「で、ですよねー」
岡田はがっくしとして、自分のノートに黒板に書かれていることを書き写していた。
いや、切り替えが早いな。こいつ。
俺も気持ちを切り替えて、机の中からノートを取り出した。
「あ。」
俺は、ふと今、降りてきた、素晴らしい妄想劇に結局、完全に溺れた。
「妄想と青春」の狭間で 茶らん @tyauran
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。「妄想と青春」の狭間での最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます