第8話 手紙①

「おはよ!」

「おう、おはよ。」

こんな挨拶が飛び交う学校で、俺は今日も妄想しながら学校に到着する。

いや〜朝の通学路は本当に良い!妄想が捗るな〜。なんて思いながら、通学路で完成した妄想劇を振り返る。

「世界が破滅の危機に至って〜、そしたら〜女神様が舞い降りて、救世主は秀英だと言っていて、俺たちは仲間として、友人として、世界を破滅の危機から救うっていう俺の最高な物語!良いねえ〜、ふっふっふ。」


語り手の方から、説明しようかと思ったが、彼がペラペラと口に出すため、私の方からの説明は省こう。


俺はニヤけながら、学校の昇降口に着く。

こんなにもキモさが滲み出ている青年は、こいつ以外にいるだろうか。

「おうおう、キモいな、朝から慎は。」

隣の席の岡田だ。岡田は、いつも寝癖が半端ない。あまりにもヤバすぎるため、先生にも心配やら、注意される。例えば「きちんと身なりを整えろ」とか、「一体、どうやったらこんな寝癖がつくの⁉︎」とか。先生の反応はこんな感じだ。

「そ、そうか?俺、そんなキモかった?って言うか、お前も人のこと言えないくらい寝癖が半端ないわ。」

「え?そう?今日は大丈夫だと思ったなんだけど。」

俺たちは、靴を脱ぎながら話す。

これが、「大丈夫」だと…こいつの神経、どうなってんだよ。

俺はそんなことを思いながら、靴を下駄箱に入れようとした、その時だった。

「え…」

「うん?どした、慎…」


『『えええええええええええええええええ』』


俺と岡田は叫ぶ。周りのことなど、気にせずに叫ぶ。

「こ、これって。」

「お、おお。マジか。」

手紙だった。真っ白の手紙だった。

「あ、開けて良いかのか?」

「ちょっと、待て。ここで開けるのは非常にまずい。ってことで、図書室に行こう。な?慎。」

「えっ、そ、そうだな。時間は、大丈夫そうだし。」

「あ、ああ、行こう。」

二人は急いで、上履きをはき、図書室へ急いだ。


「はあ、はあ。」

「はあ…よし、開けろ。慎。俺は、見ないから、後で内容を教えてくれ。誰にも言わないことは誓うから。」

図書室に入り、俺たちは自習用の机に座り、手紙を開ける。

朝の図書室は、誰もいない。しかし、鍵は開いており、貸し借りはできないが、自習スペースにだけなっている。

そんな図書館で、俺は今、手紙をあけ、中から用紙を出す。

窓からは朝日が入ってきて、電気がついていない、この図書室を照らしていた。

岡田は、本棚の方に行ってしまった。

「よし…」

–––––古宮慎君へ。このような手紙を下駄箱に入れてしまい、ごめんなさい。どうしても、手紙で伝えたいことがあり、書いてしまいました。私が伝えたいことは、ただ一つ。慎君のことが、好きです。付き合ってくれると、嬉しいです。良い返事を待っています。返事は、今日の放課後の屋上で待っています。–––––––

「うん…うん⁉︎え、えええええ⁉︎な、なんで、ちょ、なんで?」

俺の声に反応したのか、岡田が、その寝癖を揺らしながら、猛スピードで俺の所に走ってきた。

「内容は⁉︎」

「こ、告られた。」

「はあ⁉︎え、ガチなん?」

「うん。」

「だ、誰?」

「わからん。今日の放課後に、屋上でって。」

「おうおうおうおうおうおう!楽しみだな!慎!絶対に行けよ!じゃ、俺は先に戻る!」

「お、おい!岡田!みんなに言うなよ!」

俺は一人、図書室に置いてかれた。俺はもう一度、手紙を読み返す。内容は、もちろん、俺宛てだった。

「はあ。どうしよ。誰かすらもわからないし。」

浮かれる気持ちよりも、困ったという気持ちの方が強かった。一体、誰なんだ。俺はどうすれば、良いんだ…

「慎君っ!」

「わっ、って…村田先輩!」

「ふふっ。元気なさそうね。どうしたの?」

話しかけてきたのは、村田先輩だった。今日の髪型はポニーテールだ。こりゃ、今日の学校中の男子共は気絶するだろうな。なんて、俺は思った。

「あ、いえ、ちょっと朝から色々とありまして。」

「そうなの?大丈夫?聞くよ。」

「そんな、大丈夫です。これは、自分で考えないといけないので。」

「そう…でも、何かあったら相談してね!図書館仲間として!」

「はい!もちろんです!それじゃあ、俺はこれで。」

「ええ。またね。」

俺は、図書室から出る。

どうしよう。マジでどうしよう。やばいんだが…

俺は、すぐに教室へと向かった。



「あーあ、せっかく二人きりになれたって思ったのにな。慎君ったら。でも、何があったのかしら?あんなに顔を赤くする慎君、初めて見た。でも、見れて良かったな。あんな慎君。ふふっ。」



俺は、手紙を鞄の中に入れながら、教室に入る。

「おはようございまーす。」

そう言って、席に着く。カバンを机の横にかけ、羅美奈を探す。昨日のことでまだ話したいことがあったのだ。

にしても、どうしよう。マジでどうしよう。名前を書いてくれていたら助かったのに。名前すらも書かれていないなんて…屋上に行くまでわからないじゃないか…どうしよう。困った。なんて返事をすれば良いんだ。

「おーい、慎。」

「羅美奈…」

「聞いたよ。ラブレターもらったんだ。」

「え。」

「岡田が教えてくれた。」

「マジ?」

「おん、マジだよ。んで、内容は?」

「お、教えねえよ。」

「ふーん、ケチ。ちなみに、慎はOKするの?」

「しない。」

「え?し、しないの?」

「うん。さっきまでどうしようかって思ってたけど、しないことにした。」

「な、なんで?」

「だって、俺、好きな人いるし。っ!な、なんでもない。」

「ん?なんて言った?聞こえなかった!」

「内緒。」

俺は今、なんて、言った?好きな人がいるだと…え。ちょ、待て。何言って。

幸い、羅美奈には聞こえなかったらしい。俺は安心する。でも、もう、答えは出た。俺は今回、この手紙を出してくれた人には申し訳ないけど、断ることにした。




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