第6話 この気持ちは隠さなきゃね。

わかりました、なんて言っておいて、わかるわけがなーーーーい!

俺は、その何も書かれていない用紙をじっと見つめる。

「…」

静かな時間が流れる。相変わらず、今井先輩は原稿用紙に自分の小説を黙々と書いている。まだ俺と今井先輩以外に部室に来る人はいなかった。

「…!!」

俺は頭を抱える。こんなに妄想は捗るというのに、なぜだ…なぜ、執筆ができないんだーーーーーーーー!俺は心の中で叫ぶ。

今、この部室で大声なんかあげると、絶対、今井先輩が怒ってくる。

俺はなんとなく、窓の外を見る。昼間とは違って、太陽がさんさんと地上に光を降り注いでいた。

「はあ。慎君。」

今井先輩が呆れたとでも言いたげな顔と声で、俺に話しかけてきた。

「は、はい!」

「執筆ができないのはわかったから、今、あなたが考えている物語を私に教えてくれないかしら?先輩だからって、変に言葉を選んだりしなくていいから。自分が考えたままに教えてくれる?」

「わかりました!」

今井先輩はそのかけている眼鏡をクイッと人差し指であげた後、俺を見た。

もちろん、俺はすぐに返事をした。今井先輩はこの小説部の部長だ。だからこそ、俺もここの部員としてしっかりしなければと思った俺だった。

「えっと…」

「慎君、もう少し、こっちに来て話してくれない?そんな遠いと私が困るわ…」

「あ、はい!」

俺は今井先輩用の椅子と机に近づく。本来は近づいてはならいところだ。しかし、今回はいいらしい。そりゃ、そうだよな。俺が執筆できていないのを、今井先輩は助けようとしてくれているのだから。


ガタっ


俺が近づいた瞬間、今井先輩が乗る椅子が俺から離れる。

「えっと、、、今井先輩?」

「あ、いや、なんでもないから…うん、ごめん。始めましょうか。」

「はい!」



真っ赤に染まっているこの顔が、慎君に気づかれないように…私は、この長い髪で隠した。絶対にバレてはいけない。こんな思いを後輩には気がつかれたくないの。ねえ、慎君。ずっと、このままでいられないかしらね。



「今井先輩!今日はありがとうございました。」

「いいのよ。やっと、執筆に手を出せたのは本当によかったわ。次からは自力で頑張ってね。慎君。」

「そ、そうですね…ははは…でも、やっぱり、今井先輩はすごいですね。俺には書けないですよ、こんなにも色んな言葉を自由自在に使うことができるなんて。」

「あら、そうかしら?慎君は慎君で、ストーリー性はとてもいいと思うわ。私にはこんな素晴らしいストーリーなんて、出てこないもの。」

「そ、そうですかね…少し照れますね…」



ああ、私は本当にこの子が、この後輩が、、、ダメよ。私。もう受験生でしょ。こんなことに溺れちゃいけない。でも、でも。



「それにしても、今日、俺と今井先輩以外、誰も来ませんでしたね。」

「そうね。まあ、今度来たら、注意しておくわ。ほら、もう下校時間よ。後輩の慎君は先に帰っていいわよ。後片付けは私がしておくから。」

「いや、大丈夫ですよ。俺もやりますよ。」

「大丈夫だから、慎君。帰っていいわ。本当に。」

「そうですか…わかりました…それじゃあ、また明日ですね!さよならです!」

「ええ。また明日。」


ガラガラ。バタン。


俺は部室から出た。とても気分がいい。まあ、それもそうか。やっと、執筆ができたのだから!!!

「おっと、そこにいるのは、慎じゃねえか?」

この声は。うん、あいつだ。秀英だ。後ろから声がしたため、俺はすぐに振り向く。

「お!秀英!一緒に帰ろうぜ!」

俺は元気よく言う。すると、秀英はいつも通り、俺に抱きついてきた。

「おう!行こうぜ!」

俺たちは、そのまま昇降口から出て、共に家へと帰った。



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