第4話 授業に遅れる二人

その後、昼食を食べ終わった俺たちは教室へと向かった。

「はあああああ〜村田先輩かわよ…」

ぼそっと声を出す秀英に俺と羅美奈がニコニコして見つめる。

「な、なんだよ。お前ら。」

「いや〜、まさかお前が村田先輩になんてことないよな?w」

「う、うるせえわ!ったく。」

また何やらぶつぶつと言っているが俺の耳には入ってこなかった。俺は少し考えた。こいつと村田先輩が付き合ったバージョンでの妄想を…分かっている。あまりこういうのはよくないのではないかと思う諸君の気持ちも。だが、秀英の友として、村田先輩との図書館仲間として、二人の付き合ったバージョンを考えねばならない。俺は少し歩きながら妄想を膨らませる。


まずは…そう、こいつは束縛が激しい。大体、わかる。

「村田先輩、どこにいくんだよ。」

こんなこと言ってそうだな。んで、村田先輩は…

「友達とショッピング行くの。秀英も行く?」

なんて言っちゃって。村田先輩って結構、天然なんだよな。多分、束縛だって気づかないだろう。うん?これって意外にいいコンビなのでは?

だって、束縛を激しくする秀英に対して、村田先輩はほんわかした調子で、秀英の考えない束縛を解き放していく…おおおっと?そして、だんだんと束縛が緩んでいく…おおおおお!俺の妄想ではいい方向に行くと結論が出たわ!

よし!


俺は現実に戻る。

「しゅ、秀英!」

「はあ?なんだよ、慎。」

「お前、頑張れよ!」

「はあ⁉︎なんだよ!うるせえわ!」

顔を真っ赤にして、秀英は俺の頭を思いっきりはたく。

「いっっっっって!!!」

こんな状況を一人笑う奴がいる。そう、羅美奈だ。

「ぷっ、あははははっ!」

俺は痛がりながらも、羅美奈の顔を見る。

とても無邪気で、キラキラと輝くその笑顔は、とても、とても。

『とても』なんだ?俺は今、何を言おうとして…

「ごめ、慎。ちょ、強くやりすぎた。」

「いいって。ほら、もう教室の前。」

「あ、本当だ。んじゃ、じゃあね。慎、森さん。」

秀英は手を軽く振って、教室の中に入って行った。俺たちも軽く手を振りかえし、自分たちの教室まで一緒に歩く。

「な、なあ。羅美奈。」

「うん?何?どした?」

「お前、変わった?」

「え…何、急に…」

「やっぱなんでもない。あ、着いた。よし、俺一番乗り〜!」

「えっ、ちょ、慎!」

教室に入ると、クラスの全員が座り、先生が黒板に何やら書いていた。この時間は確か…国語の古文の時間だ。っていうかチャイム鳴ったっけ?

羅美奈も呆然としている。

チャイムは、鳴っていない。それは絶対だ。だって俺も羅美奈も聞いていない。

すると、羅美奈に小さく耳打ちされる。

「今日、確か、昼休みだけならない日だった。なんか、放送室を点検するか何かで。」

「え、まじ?」

「うん。」

もう既に、クラスの何人かが笑っている。

「あ、あの、先生。与田(よだ)先生」

「うん?ってあれ、二人とも、遅刻かな?」

「は、はい!遅れてすみません。」

羅美奈が割り込みしなが、謝ってきた。

「俺もです。遅れてすみません!」

なんで、割り込みしてくるんだよ。こいつ!なんて思いながら隣で頭を下げ、彼女の顔を見る。

うわ。こっち見た。笑ってやがる。

「どうして遅れたか、説明できるかい?」

与田先生は落ちついた声で聞いてきた。

「そ–––」

「それは、少し、というかだいぶ食堂が混んでいて食べる時間が遅れてしまいました。」

羅美奈が説明しようとしている時に、俺は割り込んだ。

「森もかい?」

「は、はい。そうです。」

「そうか…次から気落つけろよ。ほら、二人とも席につけ。」

「はい。」

「はい。」

羅美奈と俺は、それぞれ自分の席につく。そして、もちろん俺の元には何人かがチラチラと俺を見て、何か言っている。すると、右隣の岡田 勇気(おかだ ゆうき)が俺に紙屑を投げた。その紙屑は、机の上に乗る。

「なんだよ、これ。」

「まあ見て見ろよ。慎」

––––お前ら、付き合ってねえよな?––– はいはい、来ました。すぐにこういうことしてくる奴。

「そんなわけ、ねえよ。バカ」

「うわ、おもんな〜、ま、いいわ。森さんって可愛い方だとは思うけどな。」

「あっそ。」

俺は、適当に返事をして、授業の内容を耳に入れながら、妄想を始めた。






「ね、羅美奈。もしかして、慎君と付き合ってる?」

「はあ?そんなわけあるわけないでしょ。ほら、授業に集中。」

「う〜、つまんないな〜。」

「うるさいわ。ほら、早く前に向いて。」

「はーい…」

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