大淫婦(3)



 は絶対に壊れない。



「オレの代替魔杖ディルド──……ッ‼︎」

「────な、に……?」



 オレの代替魔杖ディルド

 空を貫く摩天楼、天と地を繋ぐ巨チン

 見えないほど小さな発光バクテリアでも、棒状であるならば代替魔杖ディルドにはなれる。同じように、全長100kmを超える宇宙エレベータだって棒状なのだからチンコみてぇなもんだろ……‼︎

 麓にドーム型の大学が二個ついてんだから実質キンタマで丁度良いな‼︎(?)


「世界一デケェチンコだぜ、跪けよ快楽の女神‼︎」

「…………ッッッ、どっ、どれだけデカくても魔術においては新参どうていの貴方のペニスよ⁉︎ ハリボテみたいに崩れるに決まってるわ……‼︎」


 ベイバロンは人差し指に嵌った指輪を投げ捨て、呪い指で壁や床を指差した。オレなんかでは理解もできない強力な魔術を使っているのだろう。

 その呪いオカルトは『科学』の叡智が結集した鋼鉄の塔だって粉砕できるのかもしれない。


 ────だけど。



ッ⁉︎」

「忘れたかよ、ベイバロンッ‼︎ テメェが決めた〈魔術決闘ペニスフェンシング〉のルールじゃねぇのかッ⁉︎」




 ◇◇◇◇◇◇



〈ルール参照〉


◆規則の五。戦闘区域は地形によって決定され、制限時間終了か勝敗が決まるまで出ることはできない。




 ◇◇◇◇◇◇




「宇宙エレベータってのはオレ達がいる建物そのものだぞ⁉︎ ……‼︎」


 有り体に言えば、オレ達はチンコの中にいる。

 つまり、〈媚薬香水チャームフェロモン〉が充満したのだってチンコの内側の事だ。

 ────


「なっ、なッッッ……⁉︎」

「オレは正面からはテメェに勝てず、だけどテメェはオレのチンコを壊せねぇ」


 そして、ベイバロンは思い出した事だろう。

 一度死んだヴィルゴの肉体は、しかし魂までは死んでいなかった。

 それはどんな理屈だったか。



「さぁ、我慢比べと行こうぜ!」



 

 ッ‼︎


「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ‼︎」


 呪い、蹴り、炎、手刀。

 無数の暴力、無限の魔術が振るわれる。

 ベイバロンの攻撃がオレの肉体を削る。

 肉、骨、皮、血、内臓、或いは脳すらも消し飛んだ。


「倒れろ! たおれてッ! 死んでよッ‼︎ わたくしの前から消えなさいよォォオオおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ‼︎‼︎‼︎」

「がっ、げぼあ⁉︎」


 口から血を吐く。

 腹に空いたアナから臓物が溢れる。

 頭蓋骨が割れて脳髄が垂れる。



 …………それでも。



 オレは倒れない。

 一秒後には死ぬのかもしれない。

 決闘が終われば消滅するかもしれない。


 それでもッ‼︎

 ベイバロンが時間を止めている限りは。

 この決闘が続いている限りは。

 オレは勝つ事を絶対に諦めないッ‼︎


わたくしに勝てないのから、わたくしが自分から負けを選ぶまで絶対に終わらない決闘空間を創ったというの……⁉︎」

「……………………」

「無限の時間に耐えられなくなるのは貴方が先に決まっているでしょう⁉︎ わたくし人間サル性能スペック差を忘れたのかしら⁉︎ 自分から負けを選ぶのは貴方の方だわ‼︎」

「…………残念、だけど……ごぼっ……オレから中断できる仕組みには、なってねぇよ。言い訳すんなよ、ベイバロン。諦めるなら、自分で諦めやがれ」

「…………ッ‼︎」


 それが、主観的な時間ではどれだけ先の未来になるかは分からない。

 だけど、いつかはこの決闘は終了する。そして、オレのチンコを破壊する事ができない為、終了するにはベイバロンが時間切れタイムオーバーで負ける以外に道はない。


「…………けれど、まだよ」

「…………ぁに、……が…………?」


 ベイバロンは笑みを取り戻す。

 神に相応しい余裕ある嘲笑を顔に浮かべる。



?」



 顔がぐちゃぐちゃになっていなければ、オレは歪んだ表情を浮かべていた事だろう。


 代替魔杖ディルドの条件とは。

 一つ、魔術師の魔力が篭っていること。

 二つ、棒状であること。


 宇宙エレベータは棒状であり、破壊できない。

 だがオレの魔力が途切れれば、それは代替魔杖ディルドではなくなる。代替魔杖ディルドが無くなれば、オレの敗北が確定してしまう。


「………………ぁ、…………っ‼︎」

「ふふふふふふふふふ、あははははははははははははははッ‼︎」


 笑う、嗤う、嘲笑う。

 声を上げて神は人間を嘲笑する。

 側から見れば深窓の令嬢のようにも、慈悲深い聖女のようにも思える。

 だけど、その本性は真逆。努力する者を馬鹿にする魔女、血と愛液に塗れた快楽の女神ファム・ファタールだ。


 ぐちゃぐちゃ、と腹のアナに手を突っ込まれる。

 はらわたが魔女の白く小さな手で掻き混ぜられ、生暖かく寒気のするナニカを掴まれた。それは心の臓よりも密接に生死と関わっている玉の緒いのちそのもののようにも思える。


わたくしこそは太母グレートマザーの名を冠する全ての肉体の母! 裸の魂に物質的な肉体を着せる大いなる女陰ヨーニ! 魂に直接干渉することなど容易だわ‼︎」


 魂が握り締められ、魔力が搾り取られる。

 びくッ、びくッ、と意識とは関係なく肉体が反応する。



「これでわたくしの勝ち──」

「──



 びくんッ! と。

 一際大きく体が跳ね上がる。


 それは魔力を絞り取られた反応ではない。

 だけど、オレが自ら動いた訳でもない。

 〈魔術決闘ペニスフェンシング〉で辛うじて生存証明しているオレは、もはや起き上がれる程の力は出ない。

 




 




「────はい?」

「…………っ、ぅぁ…………ッ‼︎」


 ベイバロンはオレの行動の意味を理解できず首を傾げ、オレは無理に身体を駆動させたことで痛み──もはや痛みを超えた息苦しさ──に呻いていた。


「ええと、これに何の意味があるのかしら? 最期の思い出にわたくしの味を覚えてきたかったとか……?」

「……意味なら、……っ……あるさ」

「この絶体絶命を覆せる程のナニカがこのキスにあるとでも? まさか真実の愛によるキスは魔女の呪いを解けるなんて言わないわよねぇ?」


 小馬鹿にするような声色のベイバロン。

 そんなカミサマに、オレは息を整えて言い返す。



?」



 ぽかーん、と。

 ベイバロンは口を大きく開けて驚きを浮かべる。

 オレの言葉が全く飲み込めていないようだ。


「……科学者が非科学的な事を言うわね。そんな迷信には何の価値もないわ」

「でも、テメェは──


 目の前のベイバロンだってわざと迷信を流布してそれを利用していた。

 加えて、こうも言っていた。


 だからこそ、このキスも起死回生の一手だ。


「けれどッ、その程度の迷信だけじゃ魔術は成立しないわ! わたくしだって300万の『症例』が必要だったって言うのに! いいえッ、そもそも! 子供が出来たらから何だって言うの⁉︎」

「もちろん、それだけじゃ子供は産まれねぇ。だけどな、ベイバロン。もっと直接的な性交セックスの象徴がすぐそこにあるのに気づかないのか?」

「────は?」


 ベイバロンの思考が完全に停止した。

 言っている意味が分からない。

 快楽の女神が性交セックスの象徴を見落とすなどあり得るはずがない。そう、彼女は考えた。


「なっ、何を言っているのかしら? 何にでもエロスを感じる思春期……?」

「想像力がねぇな。考えてもみろよ、宇宙そらは女神ヌイトで地球だいちは男神ハディート。そして、宇宙エレベータ〈ネオアームストロング〉はオレのチンコだぞ? そういや、今の宇宙はテメェの子宮と『類感』しているんだっけ?」


 『射精魔術』はクロウリーの性魔術を基礎としている。だらこそ、セレマ宇宙論は『射精魔術』と相性が良い。

 そして、宇宙エレベータは地球から生えている。しかも、その先端は宇宙を貫いているのだ。



──



 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ‼︎ と。

 宇宙エレベータ〈ネオアームストロング〉が揺れ出す。

 地震ではない。時間が停止したこの世界でそんなことはあり得ない。

 揺れているのは宇宙エレベータ──


「そして、思い出せ。フォッサマグナはヌイトのオナホとハディートのチンコを交わらせて、何を生み出していたっけ?」

……‼︎」


 ラー・ホール・クイト。

 女神ヌイトと男神ハディートの結合によって誕生する第三神。


「いえッ、でも神の力を引き出しても無駄よ‼︎ 貴方の魔力はもう尽きる! 神に対価として支払える魔力はもう無────」

「────?」


 確かに、魔力はもう尽きる。

 そうなるように魂に細工された。


 それがどうした。


「魔術の話を聞いた時からずっと思ってた。カミサマにお願いする『第一の魔術』? カミサマになる『第二の魔術』? カミサマから力を奪う『第三の魔術』? ──そんなの面倒だろ。


 人間が鳥のように空を飛ぼうとした時、一体どうした?

 鳥にお願いするか?

 鳥に成ろうとするか?

 鳥から翼を奪うか?


 違う、全然違う。人間が空を飛ぼうとした時、人間自身は空を飛ぶ力を得る必要はない。

 人間を空に飛ばす道具──。それと同じ。


 カミサマにお願いする必要はない。

 カミサマに成る必要はない。

 カミサマから力を奪う必要はない。






 ◇◇◇◇◇◇



〈Tips〉


◆第一の魔術は、神に祈る魔術。

◆第二の魔術は、神に至る魔術。

◆第三の魔術は、神を貶める魔術。

◆では、神を創る魔術は?



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