WHITE ONA-HOLE(3)




 『射精魔術』、それは世界最先端の魔術。

 即効性のある性魔術と数億単位の生贄を組み合わせた効率的かつ最強の術式。


 その原理は単純な様に見えて、醜悪よ。

 ……ほんっと人間サルの発想には吐き気がするわね。


 『第一の魔術』は成功率が低い。神々わたくしたちが力を貸すかは気分で決まるから。

 『第二の魔術』は効果が小さい。人間サルの力は神々わたくしたちに及ばないから。

 だからこそ、それは編み出された。

 


 滅茶苦茶な理論だわ。

 お金が無いから銀行強盗をするようなものよ。

 お金持ちがお金を貸すのを渋っただとか巫山戯ふざけた大義名分を掲げて、自分でお金を稼ぐのは諦めて、お金がある所からむしり取る。それが『第三の魔術』よ。



 わたくしは組み伏せられた。

 わたくし人間サルの下に蹴落とされた。


 そんなの、赦せる訳ないわよね?

 だから、わたくしは──




 ◇◇◇◇◇◇



〈Tips〉


◆ま、今は関係ない話よ。

◆少年とクソジジイのバトルには関係ないわ。

◆…………あの子って、少年でいいのかしら?




 ◇◇◇◇◇◇




 フォッサマグナとの決戦が始まる。

 絶望的な戦いだ。勝ち目なんてある筈もない。

 故に、オレに出来ることは一つしかなかった。


「ああああああああああああああああああッ‼︎」


 正面から突っ込む。

 雄叫びをあげて、震える脚を誤魔化す。

 そうでもしなければ、オレは走ることすら出来なかった。


 正直、オレの身体は既に限界を超えている。

 いつ倒れてもおかしくない所の話ではなく、今なお動けていることがおかしい。

 骨が何本も折れている。内臓の修復は間に合っていない。閃光の余波で吹き飛ばされた時に左半身に大火傷を負った上、左目はほぼ間違いなく失明している。

 足腰はまともに動かない。身体の動きを強化外骨格パワードスーツで補強していると言うよりも、強化外骨格パワードスーツの動きに合わせて中の身体も無理矢理動かされていると言った方が正しいような有様だった。

 加えて、地面と衝突した際に頭を打ったようで、額から流れる血が止まらない。そのせいか、オレの天才的な頭の回転力も7割減だ。


(不思議な気分だ……もはや痛みすらねぇ。ただ一歩踏み締める度に、体が剥がれていくみてぇな感覚がある。きっと、オレの体はあと3分も──)


 余計な思考を振り払う。

 後の事なんて知ったことか。

 オレの余命が180秒だとしても、その全てをフォッサマグナをブチ殺すために使い尽くせ。


「殉死を選ぶであるか。或いは敵討ちであるか? いずれにせよ、戦うというのであればオナホを超えてみせるがよい‼︎」


 ガガガガガガガガッ‼︎ と。

 純白の雨が降り注ぐ。

 ドローンオナホから射出される無数の閃光がオレを狙って世界を溶かす。

 防ぐことすら出来ない馬鹿火力。余波だけで致命傷を負うレベル。その威力はオレの左半身が痛いほどに知っている。



 



「……射角から着弾位置を演算し、致死圏を予測したであるか⁉︎ この一瞬でッ⁉︎」

「テメェの攻撃は威力が強すぎて曲がる事がねぇ。真っ直ぐで逆に演算しやすいくらいだぜ」

「そんな訳があるか‼︎ 銃弾程度ならともかくッ、核兵器以上の威力を持つ魔術に対してそんなことできる訳が……⁉︎」


 確かに、一撃でも食らえば死ぬ。

 ほんの少し掠めただけでも死ぬ。


 ──


 余波を受ければ致命傷を負う。

 それはオレの左半身が証明している。

 

 


 それに、核兵器以上の威力を持つと言っても、それは火力が凝縮され過ぎていた。

 スナイパーライフルに撃ち抜かれた窓ガラスが割れもしないように、余りにも高すぎる威力によって衝撃の伝導がある程度まで抑えられていたのだ。……まぁ、ある程度はあるのだが。


 閃光の余熱が身体中を焼く。

 衝撃波によって骨が粉砕骨折する。

 様々な破片が肉の中へと食い込む。

 それでも、足は止まらない。


 それは無様な走りだった。

 一歩前進したかと思えば、二歩下がり。

 時に地面を転がって攻撃を避け。

 服は泥と血に塗れて黒く染まり。

 顔は汗と涙と鼻水でぐちゃぐちゃで。

 たまに閃光の余波に乗ってショートカットを図る。


 メチャクチャな足取りだった。

 だけど、オレとフォッサマグナの距離は少しずつ縮まっていた。


「……埒が開かん。吾輩のペニスに呑まれて死ぬがよい」


 ゴゴゴゴゴゴココゴッ‼︎ と。

 世界に純黒の穴が開く。

 喧しい掃除機のような音を立てて、足場の瓦礫ごと引き摺り込まれる。


 今度こそ、避けられない。

 ブラックホールチンコは大きさを自由自在に操れる広範囲攻撃。加えて、触れたあらゆるモノを吸い込んで塵に変える。防ぐことも出来ない。


 闇が迫る。

 閃光よりは遅く。

 しかし、決して逃げられぬ速度で。


 そして──



 



「なんっ、であるか⁉︎」

「簡単な事だ。‼︎」


 たとえ神の如き力を得たとしても、神そのものではないフォッサマグナは〈魔術決闘ペニスフェンシング〉のルールが破れない。




 ◇◇◇◇◇◇



〈ルール参照〉


◆規則の五。戦闘区域は地形によって決定され、制限時間終了か勝敗が決まるまで出ることはできない。




 ◇◇◇◇◇◇




「いやッ、しかしッ‼︎ 決闘が開始されれば戦闘区域は固定のはずであろう⁉︎ 結界が移動するなどと聞いたことはないぞッ⁉︎」

「忘れたか? 戦闘区域は〈媚薬香水チャームフェロモン〉が充満した範囲。!」


 思い出すのはバキューム・フェラチオンヌとの戦闘。

 彼女は機関電磁砲マシンレールガンをブチ撒けて室内を粉砕したが、床や壁が壊れることはなく建物自体は倒壊しなかった。


「だがッ、矛盾しているのであるッ‼︎ 地面が傷ひとつ付かない無敵の防御であるならば、決闘空間の内側にいる汝がそれを動かせるのはあり得ないのではないかッ⁉︎」

「だったら、外から──AI


 現在、海が干上がったことでAIランドは反重力装置を使って宙に浮いている。

 その制御の一部に介入し、部分的に重力を逆方向に高めれば地面を浮き上がらせることなど容易い。


 オレには神託機械ハイパーコンピュータがある。

 都市統括AIのハッキングも、上手く地面を操作する重力の演算も、コイツがあれば何とかしてくれる。


「だけど、どうやってである……⁉︎ 地面を操る術があるのだとしても、それは決闘空間の外側の装置であろう⁉︎ 決闘空間からは出られない筈なのに、どうやって外に連絡を──」

「『科学』には疎いのか、ジジイ? 決闘空間は外へ出るものを阻むが、音や光のような波の性質を持つものが内から外へ伝わるのは防げない」

「……まさか⁉︎」

使?」


 電

 言うまでもなく、波の性質を持つもの。

 目の前の老いぼれが百年間見落とし続けていた〈魔術決闘ペニスフェンシング〉のアナ



、〈〉‼︎」



 オレの口撃でフォッサマグナは動揺する。

 その心の揺らぎは攻撃の手を緩める。ドローンオナホの閃光による弾幕は薄くなり、ブラックホールチンコのオレの足に追いつけない。

 魔術とは、魔術師の精神状態によって左右される技法なのだから。


「ブッ飛べぇええええええええええええええ‼︎」


 その一瞬の隙を突いて、地面を操る。

 

 


 遠く離れていたフォッサマグナがオレのいる場所まで吹き飛ばされる。

 交わる視線。

 たった一秒にも満たない攻防。

 オレは魔法のステッキスタンガンを振るい、フォッサマグナはブラックホールチンコを操る。


 しかし、フォッサマグナにはまだ余裕があった。

 




 ◇◇◇◇◇◇



〈ルール参照〉


◆規則の三。決闘空間内では、決闘する両者は対戦相手以外からの外的要因での干渉を無効化する。




 ◇◇◇◇◇◇




ッ、‼︎)


 故に、フォッサマグナが狙ったのはカウンター。

 オレの攻撃を防いだ後で、容赦なく一撃を喰らわせる溜め攻撃。


 そして、魔法のステッキスタンガンは振るわれる。

 人間の神経をバグらせるに足る電撃がフォッサマグナを襲い──


(勝利したのである……‼︎)



 ──



 ズドンッ‼︎ と。

 それは落雷の音ように響いた。


(がア⁉︎ ……なっ……に、が……ッ⁉︎)

「油断したな? クソジジイ!」


 『横紙破りルールファック』────


 『横紙破りルールファック』なんてモノは存在しない。

 それは間違いない。

 だけど、そんな幻想を成り立たせていたナニかがある筈だ。



 ヴィルゴとアドゥルテルの決闘には介入できた。

 ヴィルゴとテスティスの決闘には介入できた。

 ヴィルゴとクローンソーセージの決闘には介入できた。

 フォッサマグナとその使い魔の決闘は介入できなかった。


 そして、同時に思い出す。

 規則の三を無視したモノはオレ以外にも存在した。

 一つは〈黄金の天球The Golden Sphere〉。魔術結社の構成員メンバー達は首領リーダーと同じ顔にすることで、『類感』の原理によって同一人物だと判定させていた。

 もう一つは機関電磁砲マシンレールガンの弾丸。クローンソーセージの体内にいた微生物でコーティングすることで、『感染』の原理によって同一人物と判定させていた。


 きっと、それと同じ。

 『類感』か『感染』かは分からない。

 


 だから、ヴィルゴの決闘には介入できた。

 理由なんて分からない。

 理屈なんてどうでもいい。


 でも、分かることが一つある。



「もう一撃だァ‼︎」

「ッッッ⁉︎」



 

 それさえ分かれば、後は何だっていい。


 二度の雷撃はフォッサマグナの神経を灼き、チンコを覆っていたブラックホールが消滅する。

 あるゆる攻撃を塵に帰す無敵の防御は無くなった。あと一撃喰らわせて、チンコを破壊すればオレの勝ちだ。


 ──なのに。


 ぽろりっ、と。

 右手から魔法のステッキスタンガンが落ちた。二度も人を殴った衝撃に、弱りきった握力が耐えきれなかったのだ。

 どうにか拾おうとするも、握力は言うことを聞かない。左手に至っては、焦げた臭いが漂って使い物にならない。

 そもそも、脚が震えて動かない。膝から崩れ落ち、オレの身体は道路上に投げ出された。


 それは隙だった。

 追い詰められていたフォッサマグナが仕切り直せる程度には、明確な。


 そして、最強の魔術師は告げた。



「……を、出すのである」



 そう、つまり。

 今までフォッサマグナは一切本気を出していなかった。


 規則の三を悪用した外的要因の干渉無効も。

 数多の天災を引き起こした純白の閃光も。

 無数のスペースデブリを落とした暗闇も。

 


 フォッサマグナはチンコをオナホに納める。

 今、ブラックホールとホワイトホールが融合する。


「オナホは第一神ヌイト、ペニスは第二神ハディート。


 ラー・ホール・クイト。

 それはセレマ宇宙論における、女神ヌイトと男神ハディートが結合して生まれる子供。

 この神が発生した時、全ての事象もまた発生するとされる。言い換えれば、

 つまり──





 

 


 避けられる訳がなかった。

 それは一つの宇宙せかい

 決闘空間がなければ、地球どころか天の川銀河すら滅ぼしていたであろう超広域破壊魔術。


 反応できる訳がなかった。

 それは指数関数的な急膨張インフレーション

 宇宙の膨張速度は光速を上回り、視認することすら叶わない。


 耐えられる訳がなかった。

 それは史上最大の大爆発ビッグバン

 文字通り、この宇宙せかいの全ての物質とエネルギー量に匹敵する高密度・高温度の宇宙卵。


 だから、オレにはやはり何も出来なかった。

 だから、オレは■んだ。




 ◇◇◇◇◇◇



〈Tips〉


◆それは、駄目。

◆そんなこと、絶対に許さない。



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