WHITE ONA-HOLE(2)



「ヴィルゴ……⁉︎」

「ぁッ、……ぶじッ、ですわ……‼︎ ええ、無事ですとも‼︎ かすり傷は負いましたが‼︎」

「何処がかすり傷だ……⁉︎ もろ致命傷だろうがッ‼︎」


 ヴィルゴは魔除けの術式を発動していた。

 魔を跳ね除ける術式ではなく、。それによって緊急回避を成功させた。

 


「これは自切ですわ‼︎ あと一秒でも切り離すのが遅れていれば、身体全部が暗闇の中に飲み込まれていましたわ……‼︎」

「ブラックホールかよ⁉︎」


 ブラックホール。

 言いながら、それだと思った。

 脳が覚める、頭が冴え渡る。

 オレの直感が閃きとなって降りてくる。


 だが、オレのシナプスよりも速くフォッサマグナは策を巡らせる。


「ちょこまかと面倒であるな。


 

 いつの間にか、闇のチンコが地面に広がっている。だから、厳密には重力ではなくチンコへの引力なのだろう。

 ヴィルゴの話では肉体全部が引き寄せられるほどの引力だったらしいが、今感じるのはせいぜい立ち上がれない程度だ。効果範囲を広げたことで、引力自体は弱まったのかもしれない。

 しかし、それにしても……


「──っ、これ程の引力ッ、そのナリで星と同じクラスの質量か⁉︎ テッ、メェ……‼︎ チンコが超大質量デカすぎんだろ……⁉︎」

「これで終わりと思ったであるか?」

「…………ッ‼︎ セージッ、上ですわ‼︎」

「……なん、だ?」


 初め、それは星に見えた。

 空に輝く無数の流星群。

 だけど、その真実は残酷だ。


 

 地を這い蹲るオレ達の元へと堕ちてくる大地を滅ぼす凶星。

 その総重力は。現在、地球の周辺軌道上を巡っているスペースデブリの約5割。その質量はツングースカ大爆発を引き起こした隕石にも匹敵し、地上で爆発すれば広島型原爆の185倍の威力で被害を広げるだろう。



「〈MAI:SoNマイサン〉ッ、迎撃しろォオオオおおおおおおおおおおおッッッ‼︎‼︎‼︎」



 タイムラグなく、〈MAI:SoNマイサン〉は応えた。

 宇宙エレベータ建設時に搭載されたスペースデブリ迎撃システムが作動する。本来は宇宙エレベータとスペースデブリの衝突を避ける為の物だが、仕方ない。

 最新鋭の宇宙兵器が地球へ落下する10万トンの99.99%を撃滅する。それでも、100トンの流星雨は降り注ぐ。



「────ッ‼︎」



 そんな鋼鉄の雨の中、ヴィルゴは疾走していた。


(いくら無限に〈媚薬香水チャームフェロモン〉を生み出せたとしても、永遠に決闘空間が維持されているはずがありませんわ。時間切れの前に決闘空間を再構築しているはず。ならばッ、……‼︎)


 駆け出したのはオレの叫びと同時。

 ヴィルゴはもはや声を出す余裕すらない。

 シンデレラドレスの人体改造術式によって超人となったヴィルゴにとっても、その超重力はあらゆる力を振り絞らなければ抗えないものだった。


 あらゆる干渉を無効化するフォッサマグナに対して、どんな策があるのかは分からない。

 だけど、せめてオレは自分が分かったことだけでも伝える。


ッ‼︎」

「────フ」


 オレの声が聞こえたのか、ヴィルゴは口の端に笑みを浮かべる。

 バイク、看板、ビル。嵐によって地面はガタガタで、暴風によって様々な障害物が飛んでくる。足場は濁流に飲み込まれ、空からはスペースデブリが降り注ぐ。

 何より、ドローンオナホが放つ閃光は当たれば一発ゲームオーバーのクソ仕様だ。


 そんなフィールドアスレチックLv.100SASUKEルナティックモードみたいな道をヴィルゴは征く。

 雨ニモ負ケズどころの話ではない。今日の天気は嵐のち津波、時々スペースデブリの中を駆け抜ける。


(──流石ですわね、セージ。術式の構造を解明する手掛かりになりますわ。……しかし、ブラックホールと魔杖ペニス、ホワイトホールと吾妻型オナホールですか。一見関係のないこれらが『類感』によって繋がっているのなら、


 地面を凹ませる強い踏み込み。

 超音速で縦横無尽に跳び回り、やがてヴィルゴはフォッサマグナまであと一歩という射程に到達する。


(これでッ‼︎)



 



「──な、ん」

「押さえつけるのが駄目ならば、放り出すだけのことである」


 視界の端にブラックホールチンコが映る。

 地面にあったはずのそれは、気づけば上空へと移動していた。


 深海でもがいているようだった。

 息はできる。苦しくはない。だけど、どれだけ手足を動かそうが動くことはできない。

 ヴィルゴは宙で磔にされている気分だった。無重力になる直前に地面を蹴っていたからこそ、なす術なく空を漂っている。

 言い換えれば、



「赦せとは言わん。だが、受け入れろ。



 直後、視界が白く染まる。

 ヴィルゴのホワイトオナホールの射出が通り過ぎたのだ。


「一人の女の子を犠牲にして存続するくらいならッ、ここで絶滅しとけッ‼︎」

「……『科学』であるか。星の理すら覆すとは厄介であるな」


 オレはヴィルゴを脇で抱えてこむ。

 フォッサマグナの攻撃が当たる寸前の所で、に跨ってヴィルゴを救い出したのだ。


「それ、は……?」

。嵐で飛んできたヤツだよ」


 反重力二輪ボバーバイクはそもそも重力を無効化して飛行するバイクだ。無重力空間で移動することなど容易い。

 電子ロックがかかっていたが、そちらは普通にハッキングで解除した。


「フォッサマグナに突っ込めばいいか⁉︎ 大した速度は出ないから攻撃を避けられてもあと一回か二回だぞ⁉︎」

「いいえッ、空を飛べるなら都合がいいですわ! あっちへ‼︎」


 我武者羅に、後先考えずエンジンを吹かす。

 まったく、ヴィルゴはどうやってあんな所へ行こうとしていたのか。フォッサマグナを踏み台にして跳び上がろうとでもしていたのかもしれない。


「貴方の魔術、たとえハーレム15000なのだとしても強すぎますわ。ですから、何かの神の力を引き出しているのは間違いありませんわね。貴方の服装も、その為でしょう?」


 フォッサマグナが身に纏う四大属性武器エレメンタルウェポン

 左手が掴む、腰に携えた短剣かぜ、胸元の円盤つち、仮面のような みず

 四属性の調和は、この『場』を神の力が現れるに足る神殿へと調整する。神働術師であるフォッサマグナとしては当然の所作だ。


「では、貴方が引き出した神とは一体何でしょうか。ヒントはブラックホールとホワイトホール。そして、


 反重力二輪ボバーバイク安全装置セーフティ改造イジって、明らかに法定違反の速度を引き出す。

 こうでもしなけりゃ、フォッサマグナの猛撃を躱わす事ができない。


 オレの膝の上で、ヴィルゴは高らかに謳う。

 それは挑発か、勝利宣言か。或いは口撃の一種かもしれない。

 どちらにせよ、彼女の口上はもう終わる。

 


「ナニをするつもりであるか……⁉︎」

「ヤっちまえ、ヴィルゴッ‼︎」


 



‼︎」



 男神ハディート、セレマ宇宙論において無限小に収縮を続ける球体と表現される神。

 


 女神ヌイト、セレマ宇宙論において万物の究極の源と表現される神。

 


「それが分かったから何であるか? 汝には吾輩を傷つけることなど出来まい‼︎」


 じゅわっ、と。

 オナホから放たれた閃光がヴィルゴの指を溶かす。

 呆気なく、味気なく。



「………………あ?」



 ぽた、と。

 フォッサマグナの鼻から血が垂れる。

 オナホの呪いがフォッサマグナのチンコに到達した。

 

 便尿


「──破られ、た? 規則の三がであるか⁉︎」

「いいえ。外的要因は貴方には効きませんわ。?」


 ハディートとヌイトの結合によって、あらゆる事象は生まれるとされる。

 逆に言えば、事象が存在する限りハディートとヌイトは結合している。それはブラックホールとホワイトホールはワームホールを通じて繋がっているとも言い換えられる。


 つまり、だ。

 外からの干渉が効かないのであれば、


「吾輩の視界がッ⁉︎」

「理論がめちゃくちゃな上に初めてやった方式なので、大した呪いは乗せていませんわよ。


 そして、乗っ取らジャックされた視界にヴィルゴしか映らなければどうなるか。

 



「ここからが本番。始めますわよ、〈魔術決闘ペニスフェンシング〉を‼︎」



 タイミングよく、決闘空間が再構築される。

 オルゴールが自動で宣誓を奏でる。


『聞け、我が目を受けし汝、魔法名ヴィルゴVirgoなる者よ。我魔法名フォッサマグナFossa Magnaは汝に決闘を挑む。神よ、師よ。ここに我、汝に対し我が魔術を以て性豪の証を立つる者なり』


 初めてフォッサマグナと同じ舞台に立つ。

 手の届かない絶望なんかじゃない。相手は今、殴れば傷つく場所にいる。

 オレ達はヤツに一矢報いたのだ。



 



「────ぁ」

「認めよう、汝等こそ吾輩を最も追い詰めた難敵だと。その上で尋ねよう」


 じゅわッ‼︎ と。

 閃光が真横を通り過ぎた。

 余波で吹き飛ばされたオレは頭から地面に衝突した。

 脳が揺れる、血が噴き出る。そんな頭のまま焦げ臭いを見た。

 意味が分からなかった。訳が分からないまま、気持ち悪くなってゲロを吐いた。



「〈?」



 視界をジャックして、対戦相手にヴィルゴを指定させた。

 なるほど、確かに大金星だ。干渉すらできないフォッサマグナが、殴れるようになった。

 天上にいる魔術師と同じ舞台に立つことができた。


 


 正面から戦えるようになったからなんだ?

 相手は魔術において格上である〈最強〉。

 正面から戦えば負けるに決まっている。

 勝率が0%だった現在から、小数点の彼方に1が付け足されただけなのだ。近似値で言えば、どちらも0で変わりない。


 にも関わらず、一瞬気を抜いた。

 その結末エンドがこれだ。



「………………ヴィル、ゴ…………」


 返答はない。

 それもそのはず。

 


 腰から下が消滅したが助かったことはある。

 だけど、これはそんなものじゃない。

 心臓も、脳味噌も、何かもが消え去った。


 血の匂いはしなかった。

 自分のゲロの匂いで鼻がツーンとする。

 海が干上がったように、彼女の血もまた全てなくなったのだろう。むしろ、下半身が残っていることが奇跡なのかもしれない。


 涙は出なかった。

 怒りも湧き上がらなかった。

 心にあるのは使命感だけ。


「害虫を殺した今、汝に用はないのであるが……」

「オレはテメェに用がある」

「…………で、あろうな。ならば仕方ないのである」


 震える足でオレは立ち上がった。

 目の前には〈最強〉フォッサマグナがいる。

 素人どうていのオレは逆立ちしたって敵わない魔術世界の頂点。

 


「じゃあ、始めようぜ」

「では、始めるのである」


 男とTS。

 老人と若者。

 達人ヤリチン素人どうてい

 魔術師と科学者。

 〈最強〉と〈最弱〉。


 何もかも真逆なオレ達は、声を揃えて告げた。



「「〈魔術決闘ペニスフェンシング〉を……‼︎」」




 ◇◇◇◇◇◇



〈ルール参照〉


◆規則の六。魔杖ペニスの破壊が敗北の証となり、元から魔杖ペニスを持っていない場合は代替魔杖ディルドやそれに類する物が魔杖ペニス扱いとなり、それも無ければ自動で敗北する。

◆逆説、魔杖及び代替魔杖が破壊されない限り決闘中は死ぬことも敗北することもない。


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