WHITE ONA-HOLE(1)




 低脳の人間サルどもにわたくしが講義してやるわ。


 最も単純な『第一の魔術』とは神頼みよ。

 とは言っても、大したモノではないわ。魔術だなんて大仰に表していても、所詮は人間サルが自らよりも強い力を持つ存在にお願いするだけの方法論。煩わしいクレーマーを黙らせるために、強面の店長を呼ぶようなものよ。

 ただ、その相手がであるだけのこと。


 ただし、『第一の魔術』は成功率が低いわ。

 当然ね。お賽銭としてワンコイン投げ入れて神社で祈るのと同じで、願ったからといって必ずしも叶うとは限らない。

 神が力を貸すかどうか、貸したとしてその力はどれ程か。それらは全て神々わたくしたちの思し召しによって決定されるわ。

 だからこそ、人間サルはより多くの力を借りようと努力した。むしろ、この涙ぐましい努力こそが魔術と言えるのかもしれないわね。


 簡単に言えば、よ。

 紀元前から存在する様々な儀式──雨乞いの際に神を楽しませる舞いを奉納したり、橋の建設前に無事を祈って生贄を水中に沈める人身御供などがこれに当たるわ。

 もっと分かりやすく言い換えるなら、それはね。

 この時代は善かったわ。人間サルどもはわたくしを崇め祀っていたのだから。



 さて。

 愚痴はこれくらいにして。

 人間サルの興味を引くのはその先でしょう?



 『第二の魔術』、人の身でありながら魔術の修練によって神の領域へと至る方法論。

 カバラにおける生命の樹セフィロトなんかが良い例ね。極東ほかには即身仏なんてものもあったかしら。

 神の力に頼る事なく自力で超常現象を引き起こす技法。もちろん、自分の意思で起こすのだから成功率は100%に決まっているわよね。


 ほんっと最悪。人間サルわたくしに並び立つだなんて思い上がりも甚だしい。

 特に、近代西洋魔術結社とか虫唾が走るわ。『黄金』の連中に目をかけた神格どうぞくがいるだなんて信じられないわね。


 ただ、『第二の魔術』にも限界はあるわ。

 単純に効果が小さい。当たり前よ。わたくしならいざ知らず、人間サルができることなんてたかが知れてるっつーの。

 結局、人間サル神々わたくしたちが導かなきゃ何もできない憐れな下等生物ってワケよ。




 でも、だけど。

 1999年に産み出された『第三の魔術』。

 






 ◇◇◇◇◇◇



〈Tips〉


◆あら、わたくしの解説はもう終わったわよ?




 ◇◇◇◇◇◇




 嵐の夜。

 暴風で馬鹿みたいにおっぱいが揺れる。

 世界の終わりのような光景を背後に、オレは最強の魔術師と向かい合う。


「待てよッ‼︎ なんで『白』のトップであるテメェがヴィルゴの命を狙う⁉︎ 『白』を裏切ったっつっても人命を優先しただけじゃねぇか‼︎」

「問答に意味はないと言わなかったであるか?」


 目蓋を開けることなくフォッサマグナは言う。

 隙だらけのようにも見えるが、オレは既にヤツの放つ魔術の威力を知っている。何よりも、フォッサマグナから放たれる威圧が誤魔化しようのない実力差を伝える。

 戦闘すれば敗北は確実だ。なんとか会話を続けなければいけない。


「テメェもヴィルゴを殺すのは嫌々なんじゃねぇのか⁉︎ でもなけりゃッ、わざわざオレ達の前に姿を現す必要はねぇだろッ⁉︎」

「聞き分けがないであるな、少年。だが、吾輩の威圧を前に盾つけた度胸は認めよう。褒美として質問に答えるのである。…………そこの

「わっ、わたくしのことですの⁉︎」


 フォッサマグナは皺が深く刻まれた顔をヴィルゴの方へ向ける。

 その顔に皺はあれど傷は一切存在しない。

 目の前の老人が歴戦でありながら常勝なのだと顔が語っている。


「汝に罪はない。汝は悪ではない。。故に汝を殺す。正面からの殺害は汝の刹那なる生に敬意を表しての事である」

「…………ッ⁉︎」

「……遺言はそれでいいのか? ジジイッ‼︎」

「ふむ、少年を巻き込む気はないのであるが……世界を維持するためには仕方ないのである。害虫と心中するがよい」


 交渉は決裂した。

 老人に目的を妥協する気配は見えなかった。


 ならば、仕方がない。

 オレ達は殺し合うしかない。

 ヴィルゴがられる前に、フォッサマグナをる‼︎



 ゴッ‼︎ と。

 スク水型強化外骨格パワードスーツによって強化された腕力が、嵐によって飛ばされて来た建物の瓦礫を振り回す。


(どれだけ強力な魔術を使えたとしても、その反射神経は老人のものだ……‼︎ だったら、魔術を使われる前に一撃で仕留める‼︎)


 目算で5トンと言ったところか。

 鉄筋コンクリートの瓦礫がフォッサマグナを上からのし掛かり──





 ──バキィッ‼︎ と。

 フォッサマグナに衝突した瞬間、粉砕された。


「彼にあらゆる攻撃は効きませんわ……‼︎ フォッサマグナ様こそは現代魔術を生み出した賢者の一人‼︎ ‼︎」




 ◇◇◇◇◇◇



〈ルール参照〉


◆規則の三。決闘空間内では、決闘する両者は対戦相手以外からの外的要因での干渉を無効化する。




 ◇◇◇◇◇◇




「〈魔術決闘ペニスフェンシング〉を百年⁉︎ 対戦相手はどうなってる⁉︎ 〈媚薬香水チャームフェロモン〉は尽きないのか⁉︎」

「決闘空間を構築する度に使い魔ファミリアを生み出して使い潰しているのでしょうね。宣誓はオルゴールなどを使った自動システムでしょう。彼が老衰しない理由もまた、〈魔術決闘ペニスフェンシング〉のルールによって生き永らえているのですわ。そして、〈媚薬香水チャームフェロモン〉は…………」

「──


 答えながら、フォッサマグナはオナホをオレに向ける。

 そして一閃。じゅわっ、と濁ることなき白光が空間ごとオレを溶かす。

 


わたくしの事を忘れてもらっては困りますわ‼︎」

「……魔女術ウィッチクラフトによる幻覚であるか」

「くたばれジジイッ‼︎」


 至近距離からオレの声が響く。

 反射的に、フォッサマグナはオナホをオレの声がする方へと向けた。


 


 音源は指向性スピーカーによるフェイク。

 二重のフェイクを重ねて真横に飛び出す。

 全てはこの一撃のため。



「ぶちかましなさいッ、セージ……‼︎」

「『横紙破りルールファック』ッッッ‼︎」



 オレの持つ特殊体質。

 〈魔術決闘ペニスフェンシング〉の規則の三を無視して、ダメージを与えるマイルールの権化。


 アドゥルテル、テスティス、クローンソーセージなどを打ち破ってきた拳がフォッサマグナの顔を穿つ。

 同時、魔法のステッキスタンガンの雷撃がフォッサマグナを襲う。それは、不随意魔術による魔除けの術式すらも貫く一撃である。


 



「────なッ⁉︎」

?」



 それでも。

 フォッサマグナは無傷でそこに立っていた。

 避けられた訳じゃない。魔術で反応された訳でもない。

 初めての感触。だけど、オレは咄嗟に叫んだ。



……⁉︎」



 『横紙破りルールファック』が働いていない。

 干渉を無効化された。


「あり得ませんわ……‼︎ セージの『横紙破りルールファック』は規則の三を無視するはずでしょう⁉︎ 今回だけ例外だなんて……ッ‼︎」

「ふむ、逆であろう。これまでが例外だったのである。〈魔術決闘ペニスフェンシング〉の規則は神によって決められたルール


 『横紙破りルールファック』が、存在しない……?

 だとすれば、今までの例外は何だったんだ……⁉︎

 それとこれとで何の違いがある⁉︎


 場違いな疑問に思考が占拠される。

 オレはフォッサマグナを目の前にして絶望的な隙を晒してしまった。


「次は吾輩の番であるな」


 メキメキメキィッ‼︎ と。

 オナホから放たれた衝撃波が横腹を抉る。

 幻覚対策だろうか。その衝撃は上下左右360度全方向に向けて放たれた。至近距離にいたオレが避けられる訳がない。

 その一撃に踏ん張れる筈もなく、高層ビルの壁にめり込むようにオレは吹き飛ばされた。


「ごがっ、ぐ……ッ⁉︎」


 骨が何本か持っていかれた。

 内臓が潰れたような感触もある。

 だけど、オレは痛みに呻きながら疑問に思った。


(……?)


 確かに痛いし、重傷だろう。

 だが、五体満足であり超微細機械ナノマシンの治療で何とかなる範囲だ。

 フォッサマグナが天災を招いた閃光の一撃に比べれば、こんなの屁のようなモノだ。


 そこで気づく。

 オレの背後にはAIランドがあった。


「そう、か。テメェは『白』のトップで正義の味方……つまり、。世界を滅ぼすほどの力を持ちながら、その力を十分に発揮できないんだろう?」

「それがどうしたであるか? 吾輩と少年の圧倒的な実力差は、その程度の手加減ハンデでは到底埋まらないのである」


 フォッサマグナが手を振るう。

 掠っただけで消滅してしまうような一撃必殺の魔術だが、それを振るう老人の手は年相応に遅い。強化外骨格パワードスーツを纏ったオレならば余裕を持って避けられる範疇だ。


 しかし手の動きに合わせて避けようとして、ギリギリでに気づいた。


……⁉︎)

「真後ろですわ‼︎」


 声が聞こえても体は動かない。

 代わりに、ヴィルゴの魔術が発動した。

 フォッサマグナの魔術に干渉することはできない。故に、その魔術はオレを遥か上空へ放り投げた。

 それこそが唯一の生存ルートだった。


 上空から俯瞰することで、やっと見つける。

 は空を飛んでいた。



ッ⁉︎」

勝利フレイの剣を上げるまでもなく、自動で敵を殺す武器なんぞどの神話にでも存在するであろう」



 オナホールが一人で飛び回り、白い閃光を放つ。

 もしもあと数センチでも下にオレの身体があれば、容赦なく光に飲み込まれて消え去っていただろう。


(いや、光……。あまりにも速すぎて発光して見えるだけで、


 シンプルイズベストを代表するような魔術。

 単純が故にハーレム15000の魔力が十全に働き、単純が故に対策できることも少ない。


吾妻型オナホールを使った魔術……確かに強力ですが、解せませんわね。貴方は賢者の一人、『射精魔術』と深く関わった魔術師ですわ。なぜ魔杖ペニスを使いませんの?」

「大した理由ではない。アーサー王伝説において聖剣よりも魔法の鞘が重視されるように、吾輩もまたペニスではなくそれを収めるオナホを重視しただけのことである」


 それに、と。

 フォッサマグナは続けて告げる。



使?」



 フォッサマグナは下半身を露出する。

 そこにあったのは老いぼれて不能になったジジイのチンコではない。

 


「見るがよい。余りにも巨チンな我が男の象徴ペニス宇宙せかいすらも歪めるのである」


 直後の事だった。

 闇のチンコが世界ごとヴィルゴに喰らいついた。




 ◇◇◇◇◇◇



〈Tips〉


◆現在判明しているフォッサマグナの魔術は三種。

◆オナホから超高速で物体を射出する魔術。

◆オナホ自体を自動で飛行させる魔術。

◆チンコが纏っている世界を歪める魔術。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る