賢者タイム突入




 こうして、黒幕はんにんは倒され。

 今回の事件は終わりを迎えた。



「お見送り感謝しますわ」

「別にいいよ。感謝してんのはこっちの方だからさ」



 AIランド外縁部。

 外と都市を繋ぐ港にオレ達はいた。

 目の前には、ヴィルゴが所有しているオレンジ色の小さな船がある。


 事件が終わったという事は、ヴィルゴの護衛も終わったという事だ。

 故に、彼女はこのAIランドを去る。


「バキュームの端末から誤情報を流したため、もう貴方を狙う刺客はいませんわ。加えて、『黒』の主犯格が『白』のトップに倒されたという情報もあります。安心してくださいませ」

「ありがとう。…………寂しくなるな」

「そんな顔してはいけませんわ。3月26日に万博エキスポの開会式があるのでしょう? 間に合って良かったではありませんか」

「ああ…………そう、だな……」


 オレがTSしてから3日。

 たった3日間だけだったけど、体感では二週間以上一緒にいた気分だ。


 オレの味方はずっと彼女だけだった。

 彼女だけが信頼できる人間だった。

 だから、寂しいというより心細いという表現が近いのかもしれない。


「……そういや、ヴィルゴは『白』から一時的に離反してたよな? 戻って大丈夫なのか?」

「問題ありませんわ。もちろんガヤガヤと喧しい連中はいるでしょうが、『白』のトップはそこまで狭量ではありま──」

「────?」


 声が聞こえた。

 しわがれ声だった。

 それは枯れ木のような体から出ていた。

 だけど、その枯れ木は世界樹ユグドラシルのように巨大な圧力を放っていた。


「フォッサマグナ様……‼︎」

「……誰だコイツ?」

「コイツ……⁉︎ 何て口を叩いてますの⁉︎ この方こそはわたくしが所属する『白』の首領トップでありッ、っ⁉︎」


 白髪の老人はコツコツと杖をついて歩く。

 その腰には短剣が、胸元には円盤が、顔には仮面のようにさかずきが携えられている。


「それで? 今頃トップ様がノコノコと何の用だ?」

「セージ⁉︎ 口を慎みなさい‼︎」

い。少年の疑問を当然である。しかし、この場で目的など一つしかあるまい」


 フォッサマグナはローブはためかせ。

 そして、懐からを──オイ待て、オナホ???

 何でこのジジイオナホを待ってんの?????


 意味が分からない光景に、脳がバグる。

 だけど、現実は待ってくれない。





 ‼︎‼︎‼︎ 

 


「────は?」


 


 船舶を蒸発させてもなお減衰することのない閃光は、海面にまで届き


 もしも、海面を測っている学者がいれば驚いた事だろう。

 。この瞬間に蒸発した水量はそれほどだった。


「うおおおおおおおおおおおおおおおッッッ⁉︎」

「きゃああああああああああああああッッッ⁉︎」


 AIランド全体が揺れた。

 何の対策もなければ海面に浮かんでいたAIランドは文字通り

 現在、AIランドは反重力装置によって空中に浮いている。使われている技術は反重力二輪ホバーバイクと同じものだ。それが無ければ、今頃都市は落下の衝撃に耐えきれず粉砕し、宇宙エレベータは折れていた。

 警報アラームが鳴り響く。この一瞬で、たった一度の攻撃で、都市崩壊の危機が訪れたのだ。


 


「…………なんだよ、アレ」

……ですわね。5000


 5000メートル級の津波。

 問答無用で世界最大級に違いない。

 恐竜が絶滅した際の隕石による津波が300メートル級だったことも考えると、人類絶滅クラスと言っても過言ではない。


 とは言っても、本来の津波の測り方とは違う。

 海が干上がった反動として生じた津波だ。その高さもまた、5000

 反重力装置によって空中に浮いている現在から考えて、海面からの高さは100メートル程度だろう。


 


「これが……ヒトの魔術だと言うのですか⁉︎」

「…………この世の終わりみてぇだな」


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッッ‼︎‼︎‼︎ と。

 竜巻が渦巻く。雷雲がうねる。

 急激に蒸発された大量の水蒸気が超巨大積乱雲スーパーセルを形成し、1000km

 その台風に秘められたエネルギーはマグニチュード9.0の地震すらも容易く飛び越える。鋼鉄すら無理矢理に引き千切る暴風テンペストが吹き荒れ、都市を呑み込もうとAIランドに向かって前進する。



 



「吾輩の実力を理解したであるか?」



 コツン、と。

 静かに、轟音を立てて蠢く災害によって掻き消えそうなほど大人しく杖の音が響く。

 だけど、忘れるな。


「問答は無用である、矮小なる虫よ。汝との会話、それら全てに意味はない。ただ吾輩は汝を滅するのみ」


 その者を称する異名は無数に存在する。

 白の賢者、『白』の頂点、濁る事なき純白、沈まぬ太陽、生きる伝説、大神働術師マスター・テウルギア白夜の騎士ホワイトナイト、〈媚薬香水チャームフェロモン〉の生みの親、新時代の覇権ネクスト・スタンダード、神殺し、魔術の到達点、天蓋ソラアナ、魔術世界における三割の魔力を占有する者。

 しかし、数多の異名あれど真にその者を表すのに足る言葉は一言で済む。

 即ち──



「さぁ、くのである。杖を取れ、害虫」



 ──

 15000




 ◇◇◇◇◇◇



〈Tips〉


◆三賢者とは、現代魔術の基礎を創り出した三人の魔術師のこと。三人で神を術式に取り込んだとされる。

◆黒の賢者とは、射精魔術という魔術系統の開祖。錬金術の使い手で、享年は1999年。

◆灰の賢者とは、魔術決闘ペニスフェンシングという術式の開発者。占星術の使い手で、2000年に失踪してから行方不明。

◆白の賢者とは、媚薬香水チャームフェロモンというレシピの提供者。神働術の使い手で、今なお生きる最強の魔術師。


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